「しいたけハウスがステージに変わる展」 TOMONORI MURAOKA さんにインタビュー!「その2」
*インタビュー 2022年7月初頭
Japan Entertainment TOKYOが運営する舞台芸術団体「まちとひととをつなぐ芸術プロジェクト Circle」。2021年に行った公演の展覧会を、2022年7月、東京にて開催します。
前回に引き続き、アーティストのTOMONORI MURAOKA さんにインタビューを行いました。
(聞き手: Circle制作部)
*前回:
https://note.com/je_tokyo/n/ndc7e6e8686c5
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制作部:
MURAOKAさんは身体表現、映像、絵画、木工・・・と様々なジャンルの要素を取り入れたスタイルで活動されていますが、それぞれがご自身にとって何なのか、というご質問をできればと思います。
まずは、身体表現から。・・・とはいえ、その中でもスタント、アクロバット、体操、棒術、コンテンポラリーダンス・・・色々やられてますよね。
MURAOKA:
自分の中ではみんな「動き」なんですよね。でも、仕事になるとしっかりスイッチを切り替えてやります。スタントの映画やパフォーマンスでも、ちょっと演じ方が変わってきます。バック転もアクションでいうと、できる限りそのシーンに合わせて、前後の動作に意味をつける。「避けるためのバック転」みたいに、目線や着地の仕方などのお芝居を叩き込まれます。だけれどもパフォーマンスになると、前に出す、見せる。避けませんよね。着地の仕方も綺麗にやっていますし、全然違います。
制作部:
MURAOKAさんは、アクションで有名な芸能事務所であるジャパンアクションエンタープライズ(JAE)に入られて、身体的な表現の勉強をしてますよね。その前の、そもそもそういったことがしたい、と思ったきっかけはなんだったのでしょう。
MURAOKA:
一番初めは、ジャッキー・チェンのようなアクションに憧れたからです。小3の時くらいにテレビの映画放送番組で見て、とても面白いと感じました。アクションだから攻撃的な表現のはずなんですけど、ジャッキーの演技は、優しさや面白さ、エンターテイメントになっているんですよ。彼の動きは武術でいうとちょっと「嘘」なんですよね。パンチをするにも、ただ殴るのではなく、その前に手を回したり、派手な動作を挟んでからパンチをする。そういうエンターテイメントの要素が面白く、トリッキーで、かっこよくて。すぐに学校でも真似していました。ただ、彼のようなアクションをするには体操をやる必要がある。そこまでは結びついていたんですが、田舎だったので、体操を教えてくれるところがなかったんです。なので小学校の頃は、体操の授業の後に先生に何度も頼み込んで、休み時間に特別に時間を取ってもらって、バック転を教えてもらいました。当時教わっていたのが体育系の先生で、高校ラグビーの埼玉県大会の解説をしているほどの先生。体育の授業の後の休み時間に、マットを1枚だけ残してもらって練習に付き合ってもらっていました。
制作部:
中学・高校でもアクションや体操に触れる環境は無かったのでしょうか?
MURAOKA:
無かったです。通った学校に体操部もなかったし・・・ただ、中学・高校とずっとそのようなものへの憧れがあって、本当は高校も行きたくなかったくらい(笑)。でも高校の先生に、「こういうのがあるよ」と勧められたのが、JAE。そこで高校卒業後にオーディションを受け、JAEの養成所に入って、中国武術、少林寺拳法、器械体操、現代殺陣や時代殺陣、ジャズダンス、演技などを勉強しました。
制作部:
MURAOKAさんの身体表現にはコンテンポラリーダンスも取り入れられていますが、アクロバットやアクションに比べると、また違ったジャンルという印象です。MURAOKAさんは現代(=コンテンポラリー)サーカスのアクロバットにも興味を持たれていますが、コンテンポラリーダンスもそこから?
MURAOKA:
いえ、実はコンテを始めたのは最近です。2008年くらいに現代サーカスに興味を持って、バレエをまず始めたのが2016年、コンテは2018年から。最初は見る勉強から始めました。次第に大きなダンススタジオに行って、手当たり次第にコンテのレッスンを受けました。取り入れたのは、自分にない動きで、面白そうだったからというのが理由です。
制作部:
コンテンポラリーダンスって、「わからない」という人と「面白い」という人に分かれると思うんですけど、そこで「面白い」と感じたのは芸術家だな、と思います。
MURAOKA:
うーん、タイミングかな。当時、ある程度は色んな動きをやってしまっていて、何か取り入れたい、追求したいと思っていたんですね。だいたい何かを学ぶ人というのはそうだと思います。
制作部:
では続けて、映像は最近始められましたよね。このきっかけは。
MURAOKA:
これはもう、コロナです。映像・オンラインでしか自分を表現できない。僕は、ライブはライブで見なきゃわからないぞ、というタイプだったから、実際に見てくれないと分からないじゃないかと思っていたんですけど、当時は何もできなくて・・・負けず嫌いなところがあるんでしょうね。「だったら映像の魅力を引き出す努力をしよう」と思って始めました。
制作部:
映像の魅力というのを伺っていいですか?MURAOKA:
映像は難しい。インタビューでも、正面を向いてインタビューするのと、人物を片側に寄せて、斜め横から撮影したインタビューでは、見せ方が違い、演出になってきます。画面に寄った姿は積極性を感じるけど、引いた姿は冷静、とかね。やっている演技は一緒だけれども、カメラの遠近など、カメラマンの演出力で1秒間の中でも伝えられることがたくさんある。それに気づいた時、表現の幅がとても広がりました。「山に、生きる。」が映像になったのもそういうところです。鳥になったかのような、山を俯瞰する様子は映像でしか見せられない、と思ったり。
制作部:
では、木工や絵画についてです。絵画については今までもよくやってらっしゃったと思うんですが、木工については、「MURAOKAさんは木工もやるんだ!」と思った方が多かったのではと感じます。
このような美術関連について、やりたいと思ったきっかけが知りたいです。
MURAOKA:
木工は小学生の時からやりたいと思っていたし、むしろやっていましたよ。身体表現よりは、図画工作の授業がとても得意でした。手先の器用さがもともとあったみたいで、・・・こういう性格なのでグイグイやり込むから、それが今の技術になっていたんだと思います。うちは農家だったんですけど、ニワトリ小屋、ウサギ小屋、犬小屋、バイク小屋・・・何でも作りました。
制作部:
手を使うのが好きなんでしょうね。
MURAOKA:
最初、お父さんと一緒に鳥小屋を作った時がありました。ホームセンターで木材を買う、木を仕入れるということがまず楽しかった。何を選んで、これを買うとこういうものが出来上がる、という勉強です。そして自分の手が狂ったら完成しないですよね。その絶妙な感じが面白い。でももちろん、散々失敗しました。お父さんには怒られたし。木を切り間違えると、もう一回材料を買わなくちゃいけない。予算感などもそこで学びました。
制作部:
お父さんと一緒に、家庭で作りながら勉強していたんですね。
MURAOKA:
次第にその域を超えて、勝手にひとりでやってました(笑)
制作部:
情景が見えるような気がします(笑)そして、絵画はいかがでしょうか?
MURAOKA:
絵は、ただただ好き、という感じですね。昔は新聞の広告の、裏が白い紙を集めるのが好きで、それを集めて絵を描くのが遊びだったんです。お金をかけてやる、というよりも自分自身で考えてやっていた。お父さんは仕事で忙しいし、お母さんも家事で忙しい。今思うと子供なりに気を使っていたな、っていう・・・そのかわり楽しいですよ、自分で考えてやるっていうのは。田舎だったから、都会みたいに何をやってはダメ、というのもきつくなくて。
制作部:
私も鍵っ子でした。両親共働きで、うちでひとりでいなさい、と言われた時にひとりで何かしらをして遊んだ記憶があります。その時のイマジネーションというのが、私たち世代(1980年代生まれ)の中に良いものを与えているのかな、と思います。そこで得た経験が楽しくて、忘れられないものでもあるのかな、という。そしてMURAOKAさんは、身体表現と並行しつつも絵画は続けられていたということですよね。
MURAOKA:
並行して、というよりも・・・テレビのインタビュー番組を見ていたら、ヨーロッパでやっている職人の方について取り上げていたんです。その人が言っていた言葉が、自分の中に「来た」ことがあって・・。「自分の好きなことがたくさんあったとしても、一つに絞らなくていいと思います」と。「なぜなら自分がやることは、最終的には繋がるから」。僕のどんな作品も、自分から出ているものなので、どうやっても確かに「僕」っぽくなる。MURAOKAさんっぽいですね、と言われる。それを見て以来、自分の中で表現をきっちり割り切らないで、「絵は好きだから描いている。表現の一つ。みんなが文字を書いて表現するのと一緒。」というノリでやっています。そのくらい色んなものが、僕にとってはフラットです。「上手だね」「色んなことをやるね」「一体何が専門なの?」と反応は色々ですけど、特に綺麗に分けないように意識しています。よく体操やアクロバットは運動系、美術は文化系、と言われます。だけど、絵も木工も相当技術や体力がいるし、僕の中では向かう姿勢が分かれていない。完全に同じです。美術は体を動かしていない、というイメージで考えられているけど、身体表現も美術も一緒ですね。
制作部:
そのお話を聞いて思ったんですが・・・昨今、ジャンル混合型の舞台がすごく流行っているんですよ。コンテンポラリーの業界においては、舞踊や演劇、美術を組み合わせているのはすごい、という宣伝をされるのをよく見ます。でもそもそも、色々なものが組み合わさっているのが、人間本来の、当たり前の姿で・・・古典のお能や歌舞伎は謡(歌)もあり、演技もありますよね。それが明治時代になって、新劇(ストレートプレイ)やバレエ、歌、という風に分断していきました。そしてまた現代になって、古典の世界に戻ろうとしている風潮があります。MURAOKAさんがさっきおっしゃっていたことは、「人間本来の世界に帰る」みたいなニュアンスでもあるのかな、と思いました。お能の世界では、謡や演技や踊りが、全て「お能の中の表現」だと思うんです。というのと一緒で、TOMONORI MURAOKA イズムの中に、色んなものがより溶け込まれていくというのが、これからもっと起こってくるのかなと思いました。MURAOKAさんが歳をとるにつれて、もっと違ったものに変わっていくこともあると思いますけど、それを見るのが楽しみだな、とお話を聞いていて感じました。
制作部:
現在のMURAOKAさんは、エンターテイメントとアートのちょうど中間にいらっしゃるように見えます。今まで出演されていた舞台がエンターテイメントの色が強く、またもともと絵を描いていらっしゃったり、「山に、生きる。」のようにアート的活動も本格化していますね。ご自身にとってエンターテイメントとは、アートとは。それぞれに対する考えを教えてください。
MURAOKA:
それは、みんなすごく悩むところで、自分なりに納得させるところです。僕も自分の表現をやり出した時に、アートとエンターテイメントの違いについて考えました。
エンターテイメントというのは、楽しいもの。お客さんに対して楽しんでもらうもの。そしてアートというのは自分の表現で、楽しんでもらえたらラッキーというものです。「絵が高値で売れたらラッキー」ということもあるし、「お客さんはこういう絵を好きだけど、僕はアーティストだから描きたくない。」ということもあります。
もちろんクライアントの要望には応えていくしかないんですが、でも自己表現でお金になったら最高だな、とも思います。
アートをもう少し柔らかくして、暮らしの中のゆとりのような心、花を置くようなものにするために、僕は無意識に中間点にいるんだと思います。
制作部:
「しいたけハウスがステージに変わる展」において、 目指していることは。
MURAOKA:
会話が生まれるような展覧会がいいな、と思っています。真面目に、静かに見る展覧会もあるし、今は会話を控える時代でもある。でもその中で、思わず「これ何?」「触っていい?」という話が起こる、
ワクワクするようなものを目指しています。・・・どういう会話になるかわからないんですけど、「実はうちの近所もカモシカ出るんです」みたいな・・・どんなバックグラウンドの人も来て欲しいです。とはいえまずは、楽しんでもらえればと思います。
制作部:
予測がつくようなものではなく?
MURAOKA:
自分自身が展覧会や絵を見に行っても、想像していたものだといまいち楽しくないんです。けど、全然メインの絵じゃないのに、触ってみてもいいコーナーなんかがあると楽しい。そういう触れられるところを作りたいなと思っています。
制作部:
最後に、「しいたけハウスがステージに変わる展」にいらっしゃる皆様へ、メッセージをお願いします。
MURAOKA:
お茶を飲む感覚で来てください!・・・違うな、近所のおばちゃんの家に上がり込んで、お茶を飲む感覚で来てください。僕がそんなに、かしこまらないから・・・茶の間と一緒の感覚ですよ。
ステージのように、開演時間になるにつれドキドキして、構えていく感覚とはまた違う。「居酒屋の暖簾をくぐるように来てください」だな。
制作部:
ゆっくりしていってください、と言うような。
MURAOKA:
本当にお気軽に、ですね。全く着飾らない感じにしたいです。
制作部:
本日は貴重なお話、誠にありがとうございました!
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まちとひととをつなぐ芸術プロジェクト Circle
「しいたけハウスがステージに変わる展」
展覧会詳細:
前売りチケット(先着30名缶バッジつき):
http://quartet-online.net/ticket/shcs
日時:
7/18(月・祝) 18:00~20:30
7/20 (水) 9:30~20:30
*7/19(火)は休館日のため、展示をお休みします。
展示会場:
東京都北区「ココキタ」
王子駅よりバス
「豊島六丁目」「豊島五丁目団地」下車 徒歩3分
https://kitabunka.or.jp/cocokit