ハイスクール・フリートになる法『資格編』

Abstract

テレビアニメを主軸として様々なメディアで展開される作品である「ハイスクール・フリート」(はいふり)の主要なキャラクターには保有資格等が設定されている。この記事では、これらの資格等を取得することを通じて、はいふりをよりディープに楽しむ方法を提案する。なお、タイトルに『資格編』と付したが、これ以外の編は存在しない。

はじめに

皆さんはハイスクール・フリートをご存じだろうか。この記事を読んでいる時点で大半の人は知っているものと思うが、この節では作品のあらすじを説明する。必要なければ次の節まで飛ばしてしまっても問題ない。また、この作品に対する筆者の個人的な評価も述べる。なお、本節はストーリーのおおまかな流れのネタバレを含むため、未視聴の場合には注意されたい。

あらすじ

この作品は、坂本龍馬が暗殺されず、バタフライエフェクト的に第一次大戦も第二次大戦も起こらなかった世界において展開される。この世界において、航空機は存在しないことになっている。そのため、海上交通が主要な国際交通手段として利用されている。この世界の日本では、海底資源の大量の採掘が原因と推測される地盤の沈降により、国土の多くが海中に沈み、人々は海上にその活路を見出すことになる。このような世界で、海洋の自由を担保するための国際的な海上安全保障組織として誕生したのが「ブルーマーメイド」である(女性のみの組織である。男性のみで組織される「ホワイトドルフィン」も存在する)。はいふりの主要な登場人物はブルーマーメイドの養成機関である横須賀女子海洋学校の生徒であり、その中でも特に変わり者を集めたとされる航洋艦(作品世界中における実習艦の種別)「晴風(はれかぜ)」の乗員である。テレビアニメでは、彼女たち晴風クラスのメンバーが、入学した直後の実習航海で予期せぬ事態に見舞われながら成長していく姿が描かれている。

個人的な評価

本作に対する一般的な評価であるが、意見が割れているとみるのが妥当だと考えている。これについては、本作の放映にあたってのプロモーションおよび放送開始後のストーリー展開について若干触れておく必要があるだろう。まず、本作の第一報が公開されたのが2015年8月27日発売の「月刊コミックアライブ」誌上である。この時点では作品タイトルは「はいふり」であることのみが明かされていて、これが略称であることは伏せられていた。この時点では作品のストーリーの詳細は伏せられており、どちらかといえばコメディタッチでライトな作品であるという印象を抱かせるものになっていた。テレビアニメの放映は2016年4月からスタートしたが、第1話の時点でこれまでのプロモーションを裏切るストーリー展開であることをうかがわせるものとなった。教員艦「さるしま」と晴風との間で繰り広げられる実弾による砲撃と雷撃により、命のやり取りもありうるストーリーが展開されることが予想されたのである。ところが、いざ話が進んでみるとさほど深刻な展開は発生しなかった。筆者の認識としては、これにより、受け手側にとっては期待を2度裏切られる形となったことが評価が分かれる一因となったと考えている。

筆者がこの作品を鑑賞したのは2019年4月のことである。一般的な評価については予備知識として持っていたため、割合ハードルを下げて鑑賞することになった。個人的にはかなり気に入っている作品であり、巷の感想はネガティブなものが抽出されて集積されていて、不当に低く評価されているという印象である。多くのキャラクターが登場するが、それぞれの特徴付けがしっかりとなされており、あっと先生(のんのんびよりの作者としても知られる)によるキャラクターデザインも魅力的である。その一方で、手放しに評価できないのも事実であると感じており、背景設定世界と比較してストーリー展開がやや大雑把に感じられる点が最大の欠点だと考えている。この点が、前述の受け手の期待への裏切りにつながったことには納得できる。また、限られた話数の中で、各キャラクターの掘り下げが不十分なまま終わってしまったのもやや残念に感じられる部分である。ネガティブな側面を書き連ねてしまったが、上記を総合しても良作であるというのが筆者の評価である。作品の評価は鑑賞した者にしかできないことなので、ネガティブな評価が引っかかって未視聴の方にはぜひ見てほしい。時間を無駄にしたと感じる作品ではないと思う。

はいふりと資格

前節では作品のあらすじと感想を簡潔に述べるつもりで割と長めに書いてしまったが、ここからが本題である。あらすじで述べた世界設定は、本作の公式設定資料集である「ハイスクール・フリート ファンブック」(編集企画:アライブ編集部、発行:KADOKAWA、2016年)の記載を簡潔にまとめたものである。この設定資料集では主要な登場人物の生年月日や性格など、いわゆる「設定」が記述されているが、これに加えて保有する資格等(資格、免許、検定、実績などを総合して資格等と記述する)が明らかにされている。

資格をきっかけとした鑑賞

実は筆者が本作を視聴するきっかけになったのは、この資格等である。筆者は、2019年3月に無線従事者資格である第三級海上無線通信士(通称:三海通)の試験を受験しており、これに際してTwitterで同資格受験者の動向を何となく調べていた。その中でしえろEEさん(@cielo_ee)さんの下記のツイートを見つけ、本作と三海通の関連を知ることになった。

この時はそういう設定もあるなんて結構細かく考えられているんだな程度の認識であったが、同資格の受験後にふと見てみることを思いたって視聴したのが深みにはまり込むきっかけとなった。以下は2019年3月末時点と4月時点での筆者のツイートである。

オフィシャルグッズたりうる資格等

登場人物たちに設定されている資格等には実在するものとしないものが含まれている。実在しない資格等はもちろん取得できないが、実在する資格等は本作の「オフィシャルグッズ」たりうると考えている。もちろん、本来の意味でのオフィシャルグッズではないが、各登場人物が経験した(ということになっている)試験を受けて実際に資格等を得る行為によって得られる満足感は非常に高いと考えている。以下のツイートは、設定資料集をもとに、筆者が各キャラクターの保有資格等をまとめたものである。

同表のPDF版も付するので自由に活用していただきたい。

表中の青色で示したものが実在する資格等、赤色は種別や等級は架空だが同一名称の資格が実在する資格等、緑色は架空の資格等である。こうしてみてみると、オフィシャルグッズたりうる資格等が多数存在することがわかる。本作を鑑賞したことがある方は分かると思うが、各員の役割に応じた資格等が設定されているほか、趣味に対応した資格等も設定されている。いわゆる「推し」と同じ資格等を取ってみるというのは一つの楽しみ方になるだろう。

なお、資格等の制度は変更される可能性があるほか、民間団体主催の検定とうは新たに試験が行われないことなども考えられる。あくまで本記事執筆時点(2020年8月12日)での情報であることに留意していただきたい。

手を出しづらいもの、出しやすいもの

実在する資格等ならば何でも取れるかと問われれば、なかなかそうはいかないのが現実問題である。試験そのものの難易度が高い資格等に関しては努力すれば何とかなるかもしれないが、受験資格もしくは資格等を受けるための要件が厳しいものはそう簡単には取れない。その筆頭が、本作が艦船上で展開される以上エッセンシャルな資格である「海技士」ではないだろうか。本作のキャラクターたちは、少なくとも中学校在学中から海事教育を受けており、中等・高等海技士という架空の等級の海技士の資格を得ている。現実世界においても、いわゆる船乗りのうち船舶の運航にかかわる職員は海技士の資格を受けている。この海技士の資格を得るためには、試験に合格すること以外にも、実際に船上で働いていた経験である「乗船履歴」が必要である。詳しくは各自調べていただきたいが、少なくとも月、あるいは年単位の乗船履歴が要求される。船乗りとしてやっていく覚悟がないとなかなか厳しい要件だと思う。医師免許や博士(医学)の学位もその分野でやっていく覚悟がないと難しいだろう。

一方、受験資格が特に定められていない資格等も多くある。丙種および乙種各類危険物取扱者はこの中では比較的ポピュラーで、挑戦しやすい部類だといえるだろう。二級海上特殊無線技士、三級海上無線通信士といった無線従事者資格も受けやすい方の試験である。なお、挑戦しやすい、受けやすいといった文言は必ずしも試験が簡単であることを意味しない。試験の難易度は各々の知識、経験によって変化する相対的なものである。

なお、作中での晴風クラスの扱いは、いわば「おちこぼれ」的な部分があるが、現実の資格と同程度の難易度なのだとすればかなり高スペックだといえるだろう。海洋学校はエリート集団という設定になっており、高スペック集団の中の外れ値という認識が正しいかもしれない。

聖地巡礼との類似性

フィクションのコンテンツに登場する、あるいはモデルになった土地を訪れることを聖地巡礼ということがある。本作は、主要登場人物が所属する学校名にもあるように神奈川県横須賀市が舞台の一部のモデルとなっている。テレビアニメ本編には、ストーリーの展開上、横須賀の風景が登場することは少ないが、本編放映後に発表されたOVAや劇場版では比較的頻繁に登場する。また、横須賀市の商店街である衣笠商店街も聖地としてのプロモーションに積極的である。そのような展開もあってか、本作は比較的聖地巡礼が活発な作品であるという印象を持っている。

この聖地巡礼という行為の目的は何かということを考えたとき、筆者は「登場人物との経験の共有」が最大の目的だと認識している。フィクションである以上、作品に登場する人物は実在しないわけであるが、彼ら/彼女らが存在した場所は実在する。そのような状況において、鑑賞者が最大限可能な経験の共有の形の一つが聖地巡礼であると位置づけることができるだろう。

この記事の主題である資格等の取得も、前節で述べたように「各登場人物が経験した(ということになっている)」経験を共有することで一致している。特に本作においては、各キャラクターの役割や趣味と資格が強く紐づいており、同一あるいは類似する資格等を取得することで得られる「経験の共有」の強度が高いのではないかと思う。この点に、聖地巡礼との類似性を見出すことができる。

おわりに

はいふりの登場人物の資格等を取ることに関する記事なのか、はいふりをお勧めする記事なのかよくわからなくなった気がしなくもないが、いずれもおすすめである。資格等の取得によって、より深く作品を理解することにもつながる効果も期待できるほか、自身の知識・知見を高めるという点にも期待できるだろう。

「はいふりはいいぞ」

蛇足

こんな記事を書いておきながら、筆者自身は各キャラクターと共通する資格等をそれほど多く持っているわけではない。表に列挙したものの中で筆者が保有しているのは、

・乙種危険物取扱者4類
・三級海上無線通信士
・二級海上特殊無線技士
・第二種電気工事士

である。気象予報士や甲種危険物取扱者免許は欲しいなと思っているところだ。なお、一級小型船舶操縦士免許を本作に影響を受けて取得した経緯があるが、彼女たちの足元にも及ばない。

追記(2021年1月1日)

野間マチコさんが合格した検定を誤って「航空宇宙天文検定」としていましたが、正しくは「星空宇宙天文検定」でした。よって、元ネタとなった検定として二つを挙げていましたがこれも正しくなく、実在の「星空宇宙天文検定」が正しい元ネタと考えられます。

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