海外動向 7/31〜8/6
当研究所では、ケーブル業界の独自の視点で放送・通信・メディア等に関する海外動向の調査・分析を行っております。このノートでは、おもに海外で一般に公開されたニュースや企業からの発信情報をもとに興味深いものをご紹介します。
◆ 今週の重要トピック
パリ五輪が好調です。放送や配信サービスでは文字通り「記録的」な数値を叩き出しており、広告売上でも記録づくめ。ただ、五輪は8月11日で終わってしまいます。業界の注目は、この盛り上がりをどれだけ持続できるかに移り始めているようです。
◆ メディア
パリ五輪の放送、配信に関連した数値は「突き抜けている」
IOC(International Olympics Committee)のプレジデント、 Thomas Bach氏による発言です。原文は「The broadcast and digital figures are going through the roof」。五輪の期間中に世界の総人口80億人の半分が放送を視聴したりSNSで繋がったりするだろうとコメント。開会式のフランスでの視聴率は83.3%、米国では配信サービスPeacockでの視聴が最初の3日間で東京五輪と北京五輪(冬季)の合計を上回っています。さらにヨーロッパで五輪を配信しているワーナーは2日間で東京五輪の全期間の総視聴者数を上回り、また日本でも総視聴者数の82.7%が視聴したということです。
NBCUniversal、パリ五輪の広告収入がわずか4日で東京五輪を超える
2021年の東京五輪の広告収入は全日程で12億5000万ドル。これを4日で超えたということです。パリ五輪は2016年のリオ五輪と東京五輪を合わせたよりも多くの広告主が参加、このうち70%は初参加で合計5億ドル以上になるようです。
配信サービスによる五輪の視聴、ヨーロッパではワーナーのMaxが80%
ワーナーがコメントしています。パリ五輪を配信サービスで視聴している世帯の分析。世帯数では80%、視聴時間では75%をMaxが占めたということです。視聴時間はヨーロッパ全体で10億分近くに達し、これは東京五輪の同じ時点と比較して7倍以上になります。
ワーナーの配信サービスMax、Webサイトのデザインで重視する4つの指標
ワーナーのグローバル配信プロダクトのSVPがコメントしています。MaxではWebサイトのデザイン変更を行なっており、昨年の12月には2種類のデザインを比較するA/Bテストを米国で開始。これには新たなパーソナライゼーションを導入しており、7月末時点で米国の成人向けには導入したということ。ユーザーのプロフィールや視聴履歴などに基づき、どういった番組や映画を勧めるか、より賢くなったといいます。こういった新しいデザインを評価する上でワーナーが重視しているのが、サイトへの訪問が視聴につながる頻度を意味する「効率性」、サイト内での視聴時間、再訪問数、および視聴コンテンツの多様性の4つということです。
メガスポーツアライアンスVenuが月額料金を42.99ドルと発表
Disney、ワーナー、Foxのジョイントベンチャーが開始する新しい配信サービスの月額料金が発表されました。登録したユーザーは12ヶ月間、この価格が維持されるということです。つまり、今後の値上げを示唆しているものと思われます。まだ規制当局の承認待ちですが、NFLが開幕する9月5日より前のサービス開始を目指しているようです。
米国では85.7%の世帯で月に一度も視聴していない配信サービスに料金を払っている!?
Self Financialが米国の1106人を対象に調査した結果です。平均すると世帯あたり4.1の配信サービスを契約、これに40.39ドルを支払っていました。視聴していない配信サービスとしてもっとも多かったのはNetflix、続いてDisney+です。調査では、なぜ解約しないのかも調べており、理由の第1位は「契約の自動更新」が挙げられています。
英国で存在感を増す配信サービス、Amazon Primeは10億ポンド超え
Ofcom(英国情報通信庁)が公開した「Media Nations 2023」によるものです。成長が著しいのはAmazonのPrime Videoで2018年から3倍近くになっています。配信サービスでもっとも売り上げが大きいのはNetflixですが2023年は前年比4%減となる17億ポンド、Disney+は19%増の4億5500万ポンドとなっています。一方、ITVやChannnel 4といった民放の合計は102億ポンドで、これは12年ぶりの低水準となるようです。
Disneyが映画の公開スケジュールをアップデート
タイトルが正式に発表されたのは2025年7月25日に公開予定の「Fantastic Four: The First Steps」、2026年5月1日の「Avengers: Doomsday」。このほか少し先になりますが2027年にはタイトル未定の11本が追加されています。2027年には5月27日に「Avengers: Secret Wars」、12月17日に「Star Wars(タイトル未定)」を公開予定です。Disneyは「デッドプール&ウルヴァリン」や「インサイド・ヘッド2」といった2024年公開作品の興行成績が好調に推移しています。なお日付は米国での公開予定日です。
◆ 業界動向
Altice USA、第2四半期に固定ネットは5万700世帯、テレビは7万4700世帯の減少
固定ネットの加入者数が減少に転じたのは、ComcastやCharterが2023年第4四半期からであるのに対し、Altice USAは2021年から続いています。四半期末での固定ネット加入者は444万世帯、テレビは211万世帯です。固定ネットはHFCとFTTHの両方を提供していますが、FTTHに限定すると3万9500世帯の増加、合計43万世帯となっています。今後、FTTHの比率を高めていくということです。モバイルは3万3000回線の増加で合計38万5000回線です。
売上は前年同期比3.6%減の22億ドル。同社はCX(カスタマーエクスペリエンス)の改善を行なっており、顧客満足度スコア(NPS)が2年間で34ポイントアップ。さらに前年同期比で電話での問い合わせ(インバウンドコール)が170万件の減少、セルフインストール率は56%増加しています。また7月から配信のみで利用できる低価格のインターネットTVパッケージ「Entertainment TV」を開始しました。
Roku、第2四半期に利用者数が200万の増加、全世界で8360万世帯
創業してからしばらくはIP STBを扱うデバイスベンダーというイメージが強かったRokuですが、第2四半期の売り上げを見ると、デバイス関連は1億4380万ドル、対して配信プラットフォーム関連は8億2430万ドルとなっており、ビジネスの中心は完全にプラットフォームへ移行しています。これには配信サービスのほかに「Roku OS」のテレビメーカーへの販売が含まれます。このRoku OSを搭載したテレビの販売台数が米国、カナダ、メキシコで1位になっており、こういったデバイスを通じてRokuの配信サービスの利用率が増えるという好循環を得ているようです。
米国、配信サービスの視聴で使用するデバイスはスマートテレビが全体の56%
Parks Associatesが配信サービスを利用している8000世帯を対象に調査した結果です。スマートテレビの普及率は68%、RokuやAmazonのFireTVといった再生デバイスは46%でした。配信サービスを利用する際にもっともよく使うデバイスは、スマートテレビが56%、再生デバイスが34%。再生デバイスの中での利用率では、もっとも高いのがRokuで43%、これに続くのがAmazon 35%。この2社で全体の80%近くを占めており、GoogleとAppleの存在感は低いままのようです。
米国、2023年のテレビチャンネル再送信料は151億ドル、今後は伸び悩むと予測
BIA Advisory Servicesによるレポートです。このうち多チャンネル事業者(放送・配信)からの収入は2020年の123億ドルから2023年は151億ドルに22.5%の増加。ただ、今後は2028年にかけて伸び悩むと予測しています。背景にあるのは番組の配信サービスへの移行。例えばCBSの「Seal Team」という番組はチャンネルからParamount+へ移行、こういったケースが増えていることにあります。なお再送信収入がもっとも多かったのはNBC、続いてCBS、FOX、ABCとなっています。
テレコムイタリアが負債を81億ユーロに圧縮
テレコムイタリアはもともと国営の独占企業でしたが、高い人件費とネットワークの建設投資などで負債が膨らんでしました。そこで7月に米国の投資会社KKRにアクセスネットワークを売却。もし、これがなかったら負債は215億ユーロだったと言われています。
Comcast、休止していた一部MLBの試合放送を再開
放映権を持つDiamond Sports Groupとのキャリッジ契約に合意したため。5月上旬から放送が休止されていましたが8月1日から再開されます。合意金額は公表されていません。争点はComcastがより高額なテレビプランに該当チャンネルを移行させたかったのに対しDiamond Sportsが受け入れなかったことです。交渉によりComcastの主張が通り、今後はUltimate TVプランのチャンネルで放送されます。
Charter、テレビ加入者にDisney+の広告なしプランを月額6ドルで提供
CEOが第2四半期の決算発表でコメントしています。第3四半期の後半から提供予定で、第4四半期にはHuluを月額2ドルで提供する計画もあるようです。Charterのテレビ契約者はDisney+の広告付きプランを1月から無料で提供していましたが、対象者の10%しか利用していないと言われていました。その要因として挙げられていたのが、広告付きプランしか選べない点です。
CharterがEverpassと提携、飲食店などを対象としたスポーツ中継を強化
EverpassはNFLなどスポーツリーグが出資しており、NFLのサンデーチケットをレストランやホテルといった商業施設に独占配信する権利を保有しています。Charterの法人向けプランであるSpectrum Businessの顧客は、このサンデーチケットとPeacock Sports Passが利用できるようになります。
Disneyがテレビチャンネル関連の子会社で140人を解雇、事業を再編
解雇が行われるのはDisney Entertainment Televisionです。チャンネルでもっとも影響を受けるのがナショナル ジオグラフィックで約60人、スタッフの約13%が解雇されます。Disneyは昨年から75億ドルのコスト削減策を進めており、それに関連した合理化の一つだということです。
◆ 規制・政策
FCCはネット中立性命令により集合住宅を特定ISPが独占する契約を排除する方向
アパートやマンション、それにショッピングモール、オフィスビルといった複数のテナントが入る建物をMTEs(Multi-Tenant Environments)と定義。このMTEsでテナントがISPを選べるようにするものです。つまりMTEsの保有者・管理者が特定のISPと独占的な契約を結び、テナントがそれ以外のISPを利用できなくすることを禁止するもの。これに加えFCC委員長はMTEsの管理者が賃貸料などと合わせてISP料金を一括請求することも禁止しようとしています。ただ、さまざまなISPからこのルールに対して異議申し立てが出されており、まだ有効にはなっていません。
◆ 新技術
ESPNの野球放送は「技術」で視聴率を増やしている!?
統計データを駆使して、例えば投手が次に投げる球を予測する「投球予測」を開発。ライブ放送の画面に表示することで、より試合中継を楽しめるように工夫しているということです。これが全ての要因ではないと思いますが、ESPNの日曜夜の野球中継の視聴率は前年比8%増となっています。
IDC、生成AI対応のスマホが2028年には70%を占めると予測
デバイス単体で生成AIを処理できるスマホのシェアです。2024年にはスマホ市場全体の19%、2億3420万台になると予測。この急激な成長は2025年にも続き、それ以降は2桁台と成長ペースは鈍るものの2028年までに合計9億1200万台が出荷されるというものです。
◆ サステナビリティ関連
運用段階での二酸化炭素排出量はFTTHのほうがDOCSIS 4.0より96%少ない
FBA(ファイバーブロードバンド協会、Fiber Broadband Association)がイベント「Fiber Connect 2024」に合わせて公開したホワイトペーパーに書かれています。ネットワークの機器やシステムの製造では60%、アクセスネットワークの建設では7%少ないということです。
◆ その他
米国、激しさを増すAI技術のアピール合戦、広告費は前年の19倍に
さまざまなメディアの広告を分析しているMediaRaderによる調査結果です。AI関連の製品やサービスを売り込む広告に2023年上期は560万ドルが支払われたのに対し、2024年上半期は1億700万ドルと激増しています。企業数も186社から575社に増加。ただ、内訳を見るとIBM、Microsoft、GoDaddyの3社だけで5200万ドル、半分近くを占めています。
監修者・執筆者:J:COM あしたへつなぐ研究所 編集部メンバー
記事のご利用について:当記事は筆者の見解に基づき作成されたものであり、JCOM株式会社及びグループの統一された見解ではありません。当記事の全部または一部を著作権法で認められる範囲を超えて無断で利用することはご遠慮ください。なお、当社は、予告なしに当記事の変更・削除等を行うことがあります。