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「従軍」慰安婦 「強制」連行はNG まるで国定教科書

政権の閣議決定で教科書を改ざんする暴挙です。琉球新報と北海道新聞が社説で書きました。

★<社説>「従軍慰安婦」変更 政府見解を撤回すべきだ

https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1392895.html

琉球新報 2021年9月16日 05:00

 日本軍「慰安婦」問題や第2次大戦中の朝鮮半島からの徴用を巡る教科書の記述について、教科書会社5社が「従軍慰安婦」「強制連行」の記述について削除や変更を申請し、文部科学省が承認した。

 政府は今年4月、これらの用語が適切でないとする政府の統一見解を閣議決定した。その決定に伴い記述が書き換えられた。歴史教科書は学術研究の知見と到達点を基に記述されなければならない。用語の記述まで時の政権が介入することは検閲に等しい。

 政府の行為は、憲法が保障する学問の自由(23条)、言論・出版・表現の自由(21条)を侵害する恐れがある。政府は統一見解を撤回すべきだ。

 安倍前政権下の2014年1月、文部科学省は教科書検定基準を改定し、近現代史の歴史的事実や領土などについては、政府の統一的な見解に基づいた記述にすると規定した。当時、自民党の特別部会は、多くの教科書を「自虐史観」と批判し「愛国心教育」を強調していた。

 その結果、16年度から使用する中学校社会科の全教科書に竹島と尖閣諸島が登場した。沖縄戦の記述は、本文から日本軍の強制や誘導などによる住民の集団死について「強いられた」との言葉が消えた。「住民はよく協力した」との記述も登場した。

 安倍政権を引き継いだ菅政権は、今年4月、「従軍慰安婦」という表現は誤解を招く恐れがあるとして、単に「慰安婦」とするのが適切とする政府見解を閣議決定した。朝鮮半島からの動員を「強制連行」とひとくくりにする表現も適切でないとした。

 しかし、今回の政府見解について3点指摘したい。

 第一に1993年8月に出された河野洋平官房長官談話と矛盾する。談話は「いわゆる従軍慰安婦」と表現している。慰安所の設置や管理に日本軍が関与したことを認めた上で「当時の朝鮮半島はわが国の統治下にあり、その募集、移送、管理等も、甘言、強圧による等、総じて本人たちの意思に反して行われた」としている。広い意味での強制性を認めた内容になっている。

 第二に根拠の問題だ。政府は軍による組織的な強制連行はなかったとする立場だ。だが、17年に女性たちの強制連行について日本軍の組織的関与を裏付ける文書19件が政府に提出されている。不都合な事実を無視すれば歴史の批判に耐えられない。

 最後に国際社会の視点だ。国連人種差別撤廃委員会は18年に、ヘイトスピーチや日本軍「慰安婦」問題、沖縄の基地問題などで日本政府に改善を勧告した。日本は過去の戦争による女性の人権侵害について国際社会から厳しい目を向けられている。

 歴史教育を通じて、日本がアジア諸国を侵略した過去に向き合い、隣国とより良い関係を築いていくことを学ぶことは、現代に生きる者として当然の責務である。

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★社説・慰安婦記述変更 国の「圧力」が疑われる

https://www.hokkaido-np.co.jp/sp/article/590075?rct=c_editorial

北海道新聞 2021年9月17日 金曜日

 慰安婦問題を巡る中学校や高校の教科書の記述について、複数の出版社が「従軍慰安婦」などの表現を訂正すると文部科学省に申請し、認められた。

 政府は4月、この表現は誤解を招く恐れがあり「慰安婦」とするのが適切とする答弁書を閣議決定した。軍の強制性を想起させるとして「従軍」を外したいようだ。

 今回の訂正の動きは、2014年改定の教科書検定基準による。これは政府の統一的な見解に基づいた記述にすると定めている。

 一連の経過を見れば、国の見解に従うよう出版社側が事実上の圧力を受けた疑いが拭えない。

 だが教育の場で最も大切なのは多面的な視点を提示し、自由に論じ合うことである。そのためにも教科書は研究上の通説を重んじ、学術的な検討を重ねて編集しなければならない。

 時の政権の見解次第で記述が変われば、教科書のみならず教育自体への信頼を揺るがしかねない。

 訂正の対象となったのは、教科書会社5社が発行する中学社会、高校地歴公民の計29点である。

 「いわゆる従軍慰安婦」との記述をなくしたり、「従軍」を削ったり、注釈を加えるなどした。

 第2次世界大戦中の朝鮮半島からの徴用についても、「強制連行」という記述を「徴用」「動員」などへ変更する。

 慰安婦問題を巡っては、1993年の河野談話が旧日本軍の関与を認め、「いわゆる従軍慰安婦」との表現を用いた。今回の答弁書も河野談話は継承を明記した。

 にもかかわらず「従軍」という表現を嫌う政府の姿勢は、軍の関与の下に多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた慰安婦問題の本質を覆い隠す恐れがある。

 文科省は訂正申請に先立ち、出版社に対して政府見解の説明会を開いている。異例の開催だった。

 萩生田光一文科相は訂正を求める圧力ではないと説明している。

 しかし、出版社側は今後の検定で不利になることを恐れ、国の意向を忖度(そんたく)して記述の訂正を申請したのが実態ではないか。

 今回の訂正申請の対象となった教科書は、いずれも既に検定に合格していたうえ、多くが発行済みだった。この事実は重い。

 戦前の日本は「国定教科書」によって全体主義的な教育を進め、国民を戦争へと動員した。

 過去の反省に立ち、戦後の教育は自由で多様な言論を重んじてきた。その積み重ねをないがしろにしてはならない。

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