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投稿 安倍元首相銃撃事件から考える「宗教と政治」――旧統一協会と政権        『Q&Aでわかる 宗教と教育・人権・平和』の紹介を兼ねて 吉川徹忍(僧侶・元教諭) 

  

はじめに

 2022年7月8日、安倍晋三元首相銃撃事件で明らかになったのは、山上徹也容疑者(41)供述による宗教団体「世界平和統一家庭連合(旧統一協会、以下「統一協会」と記す)」。容疑者は、母親が入信後に破産するほどの献金をして家庭が崩壊したため同会への恨みを持ち、同協会とのつながりが深い安倍氏を狙うことにしたという趣旨の供述をしている。もちろん、いかなる理由であれ殺人は絶対許せないことを前提にしなければならない。


政教分離の原則

今回の容疑者による犯行動機の背景から、日本の「宗教と政治」状況が顕わになった。憲法でいう「信教の自由」「政教分離」の問題。長年の自民党政権と神社本庁、勝共連合(統一協会)などとの癒着。日本の精神風土に政治と宗教との関係が正しく理解されていない実態がうかがわれる。

政治と宗教がからむとき、たとえどんな関わり方にせよ、そこに人間の存在・運命に大きな問題を生じる。政治はこの人間社会で、国家(権力)によって現世的支配や政策を目指す。宗教は信仰・信心を通して真理・普遍性を求め、現世を意味づけ人間がどのように主体的・自覚的に関わり生きるかを問う(信教の自由)。

そこに近代社会における政治と宗教の直接的立場の次元の違いがある。ただ同時に両者ともに現世的な生きた人間たちの生活事実に立っている限り、葛藤と緊張が生じる。だからこそ権力支配としての政治が宗教に結び付くことも、宗教に干渉することも慎重でなければならない。すなわち、宗教に対して中立でなければならない原理が導きだされている(政教分離の原則)。

言論を銃撃で阻止することはまずもって民主主義への重大な挑戦である。同時にその背景には、以下に見るように政教分離の原則を現政権と宗教団体が侵害してきたことも民主主義の土壌を掘り崩している大きな要因である。

日本国憲法第20条1項には、「信教の自由」を保障している。「日本臣民たるの権利」(大日本帝国憲法)ではなくて「基本的人権」として保障されている。同じく第20条1項後段と3項、第89条には、「政教分離」の原則が規定してある。信教の自由が本当に生きて機能するには、政教分離という制度的保障が必要である。


統一協会の成立と勝共連合

世界基督教統一神霊協会(当初の略称「統一協会」)をつくったのは韓国人牧師・文鮮明。当初新興宗教に入っていた文鮮明は1948年に「社会秩序混乱罪」、翌49年には「姦淫罪」で逮捕・投獄された。1954年、ソウルにきて統一協会の看板を出した。教義は文氏が考案した「統一原理」と呼ぶ思想・理論によって、理想の家庭や世界平和を実現する指針を与えるとする。

韓国では、1961年に朴正熙による軍事クーデターで独裁政権が誕生した。1978年、アメリカ下院の国際機構小委員会(フレーザー委員会)は、次のような内容を明らかにした。朴政権は対外謀略干渉組織・韓国中央情報部(KCIA)をつくり、その庇護の下、新興宗教団体・統一協会を組織化し、反共の政治的手段として再組織し利用した。

統一協会が日本に持ち込まれたのは1958年(大学の中には原理研究会)。勝共連合が結成されたのは1968年。文鮮明らが韓国で勝共連合をつくった直後(「勝共」は朴独裁政権創作)。この結成に大きな役割を果たしたのは、日本の右翼の巨頭・笹川良一や岸信介元首相だった。

 

宗教(キリスト教)の衣をかぶった統一協会

80~90年代の「霊界で苦しむ先祖を救うため」と多額の献金を集める霊感商法などによる統一協会の犯罪的洗脳によって、容疑者宅だけでなく多くの信者の家庭で悲劇を生んできた。「サタン」の「血統」を取り除くために、教祖(文鮮明の「聖血」をいただく)使命による「儀式」を行った。名前も知らない数千組の会員同士を組織が結婚させる、非人間的、反社会的な合同結婚式(集団結婚)を、一部政治家たち(主に自民党議員)の賛同も得ながら公然と実施してきた。合同結婚式は信者の「婚姻の自由を侵害する」として違法と判断された判決も出ている。

文鮮明は、キリスト教の「再臨論」を利用して、自分が現代のメシア(救世主)と教えてきた。キリスト教が説いたサタンと神のたたかいは、«共産と民主のたたかい»といい、サタンとのたたかいの第一線にたっている韓国(現代のメシア、文鮮明の地である)にすべてを奉仕しなければならないと説いてきた。

統一協会は東京都知事の認証をうけた宗教法人ということになっている。しかし、今見てきたように宗教(キリスト教)の衣をかぶった謀略団体と言える。過去にも各国のキリスト教団体は、彼らはキリスト教ではないと強く批判してきた。韓国では1975年、キリスト教五団体が「統一協会はキリスト教ではない。文鮮明はにせものの再臨イエスだ」「若い世代を性的に刺激し、誘惑で導く、キリスト教とは無縁のサタンの御用団体」との声明を出している。

同じく75年、アメリカではカトリック、プロテスタント、ユダヤ教の指導者会議が、「統一協会は、ナチの初期をまねた欺瞞的で抑圧的で全体主義的で、個人の自由を破壊する非民主的で、キリスト教の基本原理とは全面的に矛盾する異端である」との声明を出した。日本でも日本キリスト教協議会が『キリスト新聞』紙上で、統一協会との「根本的な相違点」をあげて、統一協会との「決定的な違い」と表明している。

 

カルト宗教と政権政策との近似性

フランスの経済紙「レゼコー」は銃撃事件後、欧米では「カルト宗教」と認識されていると報じた。上越教育大の塚田穂高准教授(宗教社会学)は「活動の基軸はあくまで宗教的理念と実践。その活動の中において多くの問題を抱え、人権侵害や違法行為を積み重ねてきた宗教団体だ。他の宗教一般と同列には扱えない」と話す。 宗教学者の島薗進氏は「ある時期までは、『異端のキリスト教』という枠内にあったと思うが、70〜80年代にかけ、非キリスト教化し、同時期に霊感商法に傾いていった」と分析する。島薗氏によると、新興宗教の中では比較的若い人の入信が多く、高学歴の者も少なくなかったという。「現代文明への失望感が背後にあった。また、離婚が増え始め、家族的な道徳基盤を求める人の流れもあっただろう」(「東京新聞」22年7月、以下同新聞記事を参考)。

勝共連合設立に見られるように、統一協会は理念的に近い岸信介ら右派政治家と結び付いてきた。今では改憲や家族観、反ジェンダーフリーなどで考えが合致する政治家との距離が近い。最近の報道で明らかになってきているように、政治家は選挙などで支援が得られる。右派政治家と団体がお互いに利用し合う関係になっている。


第2次安倍政権との癒着

 問題となっている安倍元首相との関係について。「各地の紛争の解決に努力してきた韓鶴子総裁をはじめ皆さまに敬意を表します」。昨年2021年9月、旧統一協会の友好団体「天宙平和連合(UPF)」が開いた大規模集会に、安倍元首相がビデオメッセージを寄せた。UPFは文鮮明氏と、妻で現在の教団トップである韓氏が2005年に創設したNGO。安倍元首相は「UPFが家庭の価値を強調する点を高く評価します」「偏った価値観を社会革命運動として展開する動きを警戒しましょう」と家族観への共鳴を明示した。

 ジャーナリスト鈴木エイト氏によると、安倍氏と旧統一協会との関係の深まりは、12年に首相に返り咲いて以降になる。憲法改正と長期政権を目指す安倍氏や自民党にとって、「組織票に加え、秘書や選挙の運動員などの人員を提供してくれる旧統一協会は有用な存在だった」。安倍氏に限らず、教団関連の行事に出席したり、祝電を寄せたりする自民党議員が続出していたという。「単に容疑者の思い込みで片付けるのでなく、安倍氏と旧統一協会の関係を解明しないと、事件の全容はつかめない」。

全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)の山口広代表世話人は「旧統一協会を宗教団体と一般化してはならない。巧妙、計画的、組織的にカネを集める団体だ」とくぎを刺す。09年、旧統一協会の霊感商法に対して、幹部らが特定商取引法違反(威迫・困惑)で有罪判決を受けた。山口氏によれば、この事件を受け教団は政治家への働き掛けが不十分だったと総括し、関係強化を図ったという。その時代に第2次安倍政権は重なる。

全国弁連では2019年、全国会議員に、旧統一協会関連の行事に参加したり、メッセージを送ったりしないよう要望書を提出した。昨年の安倍氏のビデオメッセージに対しては、抗議文を内容証明郵便で送ったが、地元事務所からは返答がなく、国会事務所には受け取りを拒まれた。メッセージは事件の動機の一つとも言われる。旧統一協会に限らず、政権や政治家との結び付きを誇示し、広告塔扱いしたい宗教系組織・団体は存在する。


「国葬」…これでいいのか

岸田文雄首相は、安倍元首相の「国葬」を9月27日に行うと閣議決定した。非道な銃弾に斃れた故の追悼の思いは尊重しつつも、政策の評価が大きく分かれている中、国費全額負担し国民の税金を使っての賛美・礼賛でよいのだろうか。国民一人ひとりへの弔意の押し付けになり内心の自由の侵害となる。法令も定められてはいない。

「(安倍氏の)功績の過大評価には異論も多い」「(岸田)首相は国葬にすることで『民主主義を断固として守り抜くという決意を示す』と述べた。しかし実際は、安倍氏が民主主義の原則を軽んじた面があったことを忘れてはならない」「人の死を政治利用していると疑われても仕方あるまい」(中国新聞、7月19日)。

戦後、国葬について定めていた「国葬令」(1926年制定)は、「言論・表現の自由、内心の自由」(19条)、「政教分離」(20条)の観点から1947年に廃止された。1967年、吉田茂元首相の国葬でも「言論・表現の自由、内心の自由」「信教の自由」(憲法20条)との関係で是非の論議があったとされる。自民党は改憲草案で「政教分離」を削除している。神道は宗教ではなく「国柄」だという人たちもいる。国葬を、事実上の宗教的儀式を「国柄」だと押し切り、既成事実化する懸念もある。岸田政権は「無宗教」にすると述べてはいます(7.28現時点、「国葬」反対の動きもあります)。

➡ 参考までに、以下の◆資料『「日本国憲法」と「自民党憲法改正草案」(第19条と第20条)その違いとは⁉』参照。

*ちなみに、統一協会と一体の「国際勝共連合」は独自の憲法改正案を公表している(17.4)。改憲の優先課題として掲げる①緊急事態条項の創設、②家族条項の創設、③9条の自衛隊明記――いずれも自民党の改憲案と全く同じである。勝共連合が、日本会議勢力と並んで、自民党の改憲路線と軌を一にしている実態が明らかである。


おわりに

今に至って改めて、もし今回の容疑者が中・高校教育課程の中で、カルトを含めた宗教と政治の問題を系統的に学ぶ機会があったらと思う。家庭崩壊を生み出した統一協会の問題に暴力・銃撃ではなく、多くの宗教者・研究者・弁護士や友達に相談し、非暴力で冷静な判断力で、対応できたのではないだろうか。歴代政権の新自由主義による格差と貧困による孤独化、「自己責任」論が彼を追い込んだ側面もあるような思いになる。

私たち「平和・国際教育研究会『宗教と教育』」部会では30年前から、今は亡き森田俊男先生のもと、若者・保護者・教師を対象に「宗教と教育・人権・平和」について研究を深めてきた。もちろん1995年のオウム真理教事件を受けて、さらに子どもたちに『自己の内心』(思想・良心や信教の自由・政教分離)の意識化を励まし、支えていくかの問題も突き付けられた。

今回の統一協会問題を見ても、カルトに無防備に引き込まれることを防ぐために宗教・哲学の教育課程に本気に取り組んでこなかった「政治と教育の貧困」を指摘せざるを得ない。オウムの問題があったにもかかわらず、現代社会、特に教育現場では宗教とカルトの課題を忘却の闇に閉じ込めてしまった。今回明らかになったように、自民党政権と旧統一協会、神道政治連盟などの宗教団体・組織とは根深い癒着の構造が横たわっている。「宗教と政治の問題」に不熱心だった理由が垣間見える。一方、道徳教科や歴史教育改編などを通して、「畏敬の念」とか「人間の力を超えたもの」などの心情論には異常なほど熱心だった。このような国家主義政策により、学校や教師・子どもへの管理・統制が強化され、子どもや若者を無力感や思考停止におとしいれるとともに、「愛国心」などで画一的な価値観への同調に誘導してきた。

「宗教と政治」などの課題を考えるために

――『Q&Aでわかる 宗教と教育・人権・平和』のご案内

7年前、私たち「平和・国際教育研究会『宗教と教育』」部会は以上の状況を踏まえ、『Q&Aでわかる 宗教と教育・人権・平和』(平和文化、1800円)を出版した。「甘露の会」(信楽峻麿先生の教え子で結成。僧侶・門信徒の「広島真宗研究会」)の全面的協力をいただいた。

私たちは信教の自由を固く守る。しかし同時に、今回の旧統一協会問題でも窺えるように、非合理的な超常現象、易信性(霊や占いなど)、カルトに無防備に巻き込まれる現実がある。正しく宗教についての知識を理解し、理性的・知的に学ぶことも問われている。

子どもたちや若者たちに思想・良心や信教の自由への励ましと、それを支えていくために、宗教者・研究者・ジャーナリストや現場の教師たちが対話・交流を重ねてまとめた。執筆にあたっては、次の二つの趣旨を大事にすることに心がけた。一つは、戦争のために宗教が国家に利用されてきたことの問題をともに深く考え、二度と、一人ひとりの心が時の権力者に利用されたり、支配されたりしないようにすることを願って。二つ目は、現代の社会が抱えている宗教と教育・人権とのかかわり、或いは、宗教と社会のあり方、宗教が向かいあわねばならない現代的な課題を、一問一答式で紹介するもの。

この機会にあらためてご購入いただければ幸いです。

◆資料「日本国憲法」と「自民党憲法改正草案」(第19条と第20条)その違いとは⁉

【日本国憲法】 1946(昭和21)年11月3日公布 1947(昭和22)年5月3日施行

第19条【思想及び良心の自由】思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

第20条【信教の自由】①信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。

②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

③国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。

    ↓

  *傍線は改正部分、ゴシックは自民党が「主な(実質的な)修正事項」としている部分。

【日本国憲法改正草案】 自由民主党  平成24(2012)年4月27日(決定)

第19条【思想及び良心の自由】①思想及び良心の自由は、保障する。(個人情報の不当取得の禁止等)

②何人も、個人に関する情報を不当に取得し、保有し、又は利用してはならない。

第20条【信教の自由】①信教の自由は、保障する。国はいかなる宗教団体に対しても特権を与えてはならない。

②何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。

国及び地方自治体その他の公共団体は、特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない。ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない。


《第20条の改憲の中身について=どう変わるか‼》

・自民党改憲案は、信教の自由と一体の政教分離の原則を緩和しようとしている。

・第20条①後段で明示している、宗教団体が「政治上の権力を行使してはならない」という規定を除外している。

・第20条③項は、国の宗教活動の禁止を定めているが、草案はただし書きを補足し、「社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない」としている。国家と宗教との「完全な分離」を求めず、「ゆるやかな分離」を容認する可能性がある。社会的儀礼、習俗的行為の名の下に、公人がさまざまな宗教行事に参加すること(政治家の靖国参拝など)が可能となる。国民一人ひとりの人権保障という立憲主義の価値を骨抜きにする恐れがある。

 【参考資料】

・日隈威徳『現代宗教論』(白石書店、1983.1.20)

・真下信一・宮田光雄の論文『政治と宗教』(時事通信、1974.5.1)所収

・伊藤 真『赤ペンチェック自民党憲法改正草案』(大月書店、2013.5.31)

・加藤西郷・信楽峻麿・森田俊男・山口和孝・「平和・国際教育研究会『宗教と教育』部会」編著

『Q&Aでわかる 宗教と教育・人権・平和』(平和文化、2015.8.15)

・中国新聞 ・毎日新聞 ・東京新聞 ・しんぶん赤旗


 

*『Q&Aでわかる 宗教と教育・人権・平和』(平和文化)が必要な方はご連絡ください。
連絡先 (携帯)090・7506・6015 E-mail:kikkawa@bg7.so-net.ne.jp (吉川徹忍)。出版社には在庫はありません)


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