PROSPEROとは？

前回の最後で原著論文の読み方を紹介すると書いたのですが、改めてWebで検索すると、論文の読み方に関するわかりやすい資料が多くありました。
Noteの記事にもたくさんあるようですので、興味がある方は検索してみてください。

ですので、今回は代わりに、「PROSPERO」を紹介したいと思います。

PROSPEROという単語を聞いたことがありますか。聞いたことがあるという人は、システマティックレビューのプロトコル(計画書)を作成したことがあるか、システマティックレビューを注意深く読んだことのある人だと思います。

PROSPEROはイングランドのヨーク大学が提供している、システマティックレビューのプロトコルを始めとした、研究計画に関するデータベースです。オープンアクセスになっているので、誰でも閲覧することができます。
このデータベースには、現在計画中または進行中、完了済のシステマティックレビューについての情報があります。タイトルや著者の情報だけでなく、目的や対象論文、論文の検索式などについての情報も公表されています。

普段皆さんが使っている論文データベースとPROSPEROは何が異なるのでしょうか。
PROSPEROのサイトにはこう書かれています。「PROSPEROは、開始時に登録されたシステマティックレビューの包括的なリストを提供することで、重複を避け、完成したレビューをプロトコルで計画されたものと比較することで、報告バイアスの機会を減らすことを目的としています。」

システマティックレビューのプロトコルのうち、論文として発表されているものはMEDLINEなどで検索が可能です。しかし、プロトコルを公表せず、そのままシステマティックレビューを行う事も不可能ではありません。
そうすると、世界中で同時多発的に同じシステマティックレビューが行われる可能性があります。通常の研究と異なり、システマティックレビューの目的や意味を考えれば、研究者の労力を無駄にしないために、プロトコルの段階で重複をなくすことは有用です。
そのため、最終的にはコクラン共同計画やJBIなどの雑誌に投稿されるであろうシステマティックレビューのプロトコルは、事前にPROSPEROに登録しておくことが求められているのです。
私がシステマティックレビューのプロトコルをJBI Evidence Synthesisに投稿する際も、私が計画しているレビューがすでに行われていないか、論文データベースだけでなく、PROSPEROでも検索するように手順が示されています。また、プロトコルの投稿前にPROSPEROへ登録し、プロトコルに登録番号を記載することも求められました。

試しに、私が登録しているプロトコルはリンクのようになっていますので、良かったら見てみてください。

https://www.crd.york.ac.uk/prospero/display_record.php?RecordID=147751

PROSPEROの主旨には賛同しますが、一方で課題もあります。
1つ目は、プロトコルの登録はしているが一向に進んでいないレビューが多数あることです。もちろん、色々な理由でプロトコルの作成はしたが、システマティックレビュー自体を行う事が難しい場合もあります。
しかし、PROSPERO上でOngoing(進行中)のまま止まっている場合は、他の研究者が行いたくてもできないのです。
そのため、PROSPEROに登録した著者は、レビューの進行状況を適切に登録し、時には真摯に中止したことを報告すべきだと思います。

また、もう1つの課題は登録スピードです。最初に述べたように、このデータベースはヨーク大学が行っています。無料で審査や登録、公開を行っており、あくまで運営側の善意に寄っています。
そのため、レビューの審査には限界があります。一方で、データベースの進歩と共に、世界中で行われるシステマティックレビューの数は増え続けています。
そのため、現在、PROSPEROはイギリス国内からの登録申請で3か月以内、国外からの登録には3か月以上かかることが示されています。実際に、私が登録した際は4か月かかりました。
プロトコルも論文として投稿を考えている場合は、PROSPEROの登録に係る期間を考慮する必要があります。時間がかかる場合は、雑誌の編集者と相談したほうがよいかもしれません。

以上、簡単ではありますがPROSPEROの紹介としたいと思います。
興味が湧いた方は下記のURLからPROSPEROに行き、いくつかのプロトコルを見てみてください。あなたがもし、これからシステマティックレビューの実施を考えているならば、様々なヒントが手に入ることでしょう。

文責：古藤雄大

参考
PROSPERO. https://www.crd.york.ac.uk/prospero/

画像
いらすとや：データ分析のイラスト