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精神障害者の就労支援の今

精神障害者の就労支援と聞いてどんなものを思い浮かべるでしょうか。
作業所に通い、簡単な物づくりや軽作業などを経て、企業への就職を目指すという流れが一般的かもしれません。

しかし、最近は少し違う流れが注目されてきています。
従来のような就労を目指す流れを、保護的な場で訓練を受けたのち就職する「Train-then place型」とすると、今注目されているものは、就職した場で訓練と支援を受ける「Place-then-train型」である援助付き雇用支援(Individual Placement Support: 以下、IPS)です。
このIPSに関して、Cochraneから3つのシステマティックレビューが出ているため、今回は、このレビューを紹介したいと思います。

IPSは「誰もが利用可能」、「迅速な職探し」、「利用者の好みと選択の尊重」、「競争的雇用(一般就労)を目指す」など8つの原則に従って行われます。(詳細は下の記事がわかりやすいです

https://jipsa.jp/ips/about-ips-3

1つ目のレビューは、2001年にCrowtherらによって行われました。このレビューでは、IPSと従来型の支援を比較しており、介入後12ヶ月時点での一般就労獲得が、IPSで30%、従来型で12%であり、初めて一般就労には、IPSの方が効果があると示されました。

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD003080/full

2つ目のレビューは、その12年後の2013年にKinishitaらによって行われました。このれビューでは、欧米だけでなく、アジアでの研究論文も含まれました。また、比較する介入も従来型の就労支援だけでなく、通常精神医療も含まれました。12年で多くの実証研究が含まれた結果でも、12ヶ月時点でのIPSの一般就労の獲得が高いことが示されました。また、このレビューでは、就労の継続期間も示されており、IPSが他の介入よりも長い期間就労していることも示されました。

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD008297.pub2/full

3つ目のレビューは、Suijkerbuijkらによって2017年に行われたレビューです。このレビューでは、単なるIPSだけではなく、IPSに認知機能リハビリなどを組み合わせたものとの比較も行っています。IPSと他のリハビリの組み合わせでは、単なるIPSと比較して明確に雇用率に差が示されたわけではありませんでしたが、対象集団の特性によっては効果的になることが示唆されています。

https://www.cochranelibrary.com/cdsr/doi/10.1002/14651858.CD011867.pub2/full

この3つのレビューから、一般就労を目指すのであれば、IPSが従来型の支援に比べて効果的であると言え、またIPSでも対象となる人の特性に合わせた内容にしていくことが必要だろうと思われます。

また、この3つのレビューを読んでみて、研究の積み重ねによって、単に雇用率だけでなく、就労継続期間といった評価項目を変えてみることなど、一つの介入が誰の、何に、どう効果的なのかがより具体的に示されてきているのではないかと思います。
システマティックレビューがあるからエビデンスがあると考えるのではなく、このレビューで何が明らかになっており、実際の支援を行うためには何が明らかになっていないのかという視点で読むことの大切さも、この3つのレビューを通してわかるのではないかと思いました。
                            (文責:的場)

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