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エビデンス/EBM/EBNの歴史と、言葉のもつ本当の意味

エビデンスだ、EBPだ、EBNだ、と叫ばれる昨今ですが、皆さんは言葉の意味や、由来、歴史をご存知でしょうか。
かくいう私も医療従事者 兼 研究者として、上記の言葉の意味を知っているつもりでしたが詳しくは知りませんでした。由来についても然りです。おそらく習ったことはあるのでしょうが、学生時代は遠い昔・・(先生すみません)
今回は、エビデンスやEBP、EBM, EBNの言葉の意味や歴史について深堀りします。

エビデンスの意味
まずはエビデンスという言葉の意味です。
・広辞苑
 エビンデンスというカタカナの言葉では意味は載っていませんでした。
・ジーニアス英和辞典
 「証拠、根拠」とありました。
・広辞苑
 再び広辞苑に戻り、「根拠」という言葉の意味を調べると、「ある言動の よりところ、また議論などのよりどころ」とありました。意外にふわっとした意味であるという印象でした。
・オックスフォード現代英英辞典
 Evidenceという言葉を調べました。
「(noun) The facts, signs or object that make you believe that something in true」、つまり、「真実であることを信じさせる事実、兆候、または物体」という訳になります。

エビデンスも根拠も、真実を真実というためのモノやコト(物証や事実)といったことでしょうか(ちょっと哲学的ですね).


EBM/EBNの意味
EBMはevidence-based medicineの略です。「根拠に基づいた医療」と訳されます。これを看護に応用したのがEBN、evidence-based nursingです。
「根拠に基づいた医療」は、上記の日本語の「根拠」の意味でいうならば、「医療を行うための証明された真実に基づいた医療」といった意味になるでしょうか。

EBMという言葉は1970年からありましたが、「根拠に基づいた医療」という言葉が登場したのは1990年代初頭でした。システマティックレビューのデータベース化を目的としたコクラン共同研究が成立されたのも、このころ(1993年)です。

この、1990年代に発刊されたEBMに関する有名な論文を紹介します(1)。

Sackett DL, Rosenberg WM, Gray JA, Haynes RB, Richardson WS.
Evidence based medicine: what it is and what it isn't. BMJ.1996;312(7023):71-2.

この論文ではEBNは「個々の患者のケアに関する意思決定を行う際に、個々の臨床専門知識や患者の嗜好や価値観と組み合わせて、現在の最善のエビデンスを良心的、明示的、かつ賢明に利用すること」と定義されています。
SackettはさらにEBMの言葉の意味を述べています。以下、論文を引用します。


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エビンデンスに基づいた医療の実践とは、個々の臨床の専門知識を、システム的研究から得られる最高の外部臨床エビデンスと統合することを意味する。

個々の臨床の専門知識とは、個々の臨床医が臨床経験と臨床実践を通じて身に着けた熟練度と判断力を意味する。

専門性の向上とは、様々な形で反映されるが、特に、より効率的な診断や、個々の患者の状況や権利、嗜好をより注意深く見極め、思いやりを持って治療に関する臨床的な意思決定を行うことができるようになることが重要である。

利用可能な最高の外部臨床エビデンスとは、臨床的に関連性のある研究を意味する。

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引用ここまで

これは、1996年に発表された有名なEBMに関する論文で、今も世界中で引用・紹介されています(ちなみにScopusという論文の被引用件数を調べる検索サイトによると、8993件、Web of scienceでは7118件でした/note投稿現在)。

約25年前にこのような概念が登場し、それまで「EBM」という概念がなかったことに驚きです。筆者の学生時代(約20年前)には既にEBMという言葉は日本の授業でも普通に紹介されていましたので、論文発表後、ものすごい勢いで、世界中にEBM/EBNという概念が広まったのでしょう。

EBMは医療における比較的近代的な概念ととらえられていますが、その実践は新しいものではありません。18世紀のスコットランドの医者であったJamse Lindは、船乗りを悩ませた壊血病の治療のために、6つの方法を比較した臨床試験を行いました。結果、当時の王立医師会が推奨する硫酸や酢などよりも、柑橘類が優れていることを示しました(なおLindの実験は比較群を用意した世界初の臨床試験とされています)。これは、専門家の意見だけにとらわれず、公正な医療を提供した例(EBMの例)として有名です(2)(3)。
ただ、実際の臨床の現場でもEBMは行われていたのでしょうが、Sackettのように医学論文で言葉として明示し、発表することで、全世界の医療従事者がEBMの重要性を認識することができました。

EBM/EBNで重要なのは、真のEBM/EBNは①臨床研究によるエビデンス②医師の診療技術(看護師の場合はケア技術)③患者の価値観の状況の3つが必要なことです。いくらエビンデンスに示されているからといって、患者の状況では用いることができないエビデンスもあるでしょう。その際にも医療者は適切な診療・ケアを提供する必要があります。

Sackettはこう論じています。
「優れた医師は、個人の臨床的専門知識と、利用可能な最善の外部エビデンスの両方を利用しているが、どちらも単独では十分ではない。臨床の専門知識がなければ、臨床はエビデンスに支配されてしまう危険性がある。最新の最良のエビデンスがなければ、実践は急速に時代おくれになり、患者の不利益になる危険性がある」。

これは、看護師や他の医療従事者でも同じです。
臨床の経験も、エビデンスもどちらも重要です。そして、それらを用いて目の前の患者に合わせた医療を提供することが最も重要なことなのです。

(文責 山上)

引用文献
1) Sackett DL, Rosenberg WM, Gray JA, Haynes RB, Richardson WS. Evidence based medicine: what it is and what it isn't. BMJ. 1996;312(7023):71-2. doi:10.1136/bmj.312.7023.71

2) Swanson, J. A., Schmitz, D., Chung, K. C. (2010). How to practice evidence-based medicine. Plastic & Reconstructive Surgery, 126, 286-294

3) Claridge JA, Fabian TC. History and development of evidence-based medicine. World J Surg. 2005;29:547-553

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