三行詩・『看却下』


ある修行僧が叡智を授けてくれるという導師を探して旅をしていた
途中で出会った村人から山の頂上にある寺に導師が住むという話を聞く
しかし、そのためには5000段はある険しい石段を昇らなければならない

修行僧が石段を上り始めて間もなく、一人の老人に追い越された
「今日は良い天気ですな」
老人はそれだけ言うと信じられない早さで石段を上っていった

この付近に住んでいる人だろうか
きっと毎日上っていて慣れているのだろう
修行僧は気にすることなく石段を上る

しばらくすると、一人の女が石段に座っている
「石段は長いからここで休んでいるのです」
修行僧は軽く会釈をして、気にすることなく先を急いだ

やっと頂上が見えて来たところで
一匹の蝶が飛んできて石段の近くに咲いている青い花の上に止まった
先を急がねば。修行僧は最後の力を振り絞って石段を上がる

石段が終わると、そこには見覚えのある老人が立っていた
修行僧が最初に出会ったあの老人が
「よく来たな。ワシが寺の主じゃ」

導師よ、私はあなたに叡智を授けてもらうためにここまで来たのです
「ところで、ワシがお前に会ったのは何段目の石段か覚えているかね?」
覚えてるわけがない。そんなことよりも私の入門を許可してください

「お前はまず153段目でワシに会った
次に2687段目で女に会っただろう
そして4899段目にキレイなスミレの花が咲いていたはずじゃ」

修行僧は沈黙した
「お前は頂上ばかり見て足元は全く見ていないね
一歩、一歩よく観なさい。上ではなく自分の足元を」

真理の道は低いところにある
明日、もう一度上っておいで
導師はやさしく微笑んだ

修行僧は雷鳴に打ち砕かれた岩のように
しばらくその場から動くことが出来なかったが
何かを理解すると栄志颯爽とした姿で石段を降りていった。

(PCのサイズに合わせて書いているのでスマホで見た場合は三行になっていない事があります)

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