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ジロリンタン備忘録211107

スー・グラフトンが化けて出る?

 1週間前のスー・グラフトンの話で、大事なことを提案するのを忘れていた。
 キンジー・ミルホーンものの私立探偵シリーズがTVシリーズになったら、その出来映えに注目すべきかどうかの問題ではない。遺族が創作者本人の意思に反して、キンジーものの物語をTVを含むハリウッドに打ってもいいのかという、もっと複雑な問題なのだ。グラフトンはちゃんと遺言を残したのに、家族に裏切られて、可哀想だと思うのか? もしくは、今回TV映像権を買ったA+Eスタジオはキンジーの人格を変えずに、小説どおりのストーリーを作れるから、グラフトンの考えを無視しても、読者やファンのために、TV映像権を売っても問題はないのか?
 長年一緒に生きてきた夫が代表として、映像製作責任者の一人として、売ったのは法律上は合法でも、倫理上はどうなのだろう? これでは、遺族を信頼できず、本人の意思を遺族に伝えても無意味ということになる。
 これからは、遺言を伝えるためには、遺言執行人、もしくは著作権継承者として遺族にも反対できる弁護士が必要になるかもしれない。

 スー・グラフトンの珍しい未発表の短編小説があることをご存知だろうか? 
晩年は短編を書かなくなったグラフトンだが、初期には8編のキンジーもの短編があり、8編とも日本語に翻訳されている。
 8編のキンジーものと、その前に(母親の死後に)書いた自伝的スケッチ13編を集めた Kinsey and Me という短編集が1991年に夫スティーヴ・ハンフリーの自主出版社<ベンチ・プレス>(ダジャレである)から326部限定版が刊行された。
 そのあと2013年1月に、そのハードカヴァー市販版がパトナムから、ペイパーバック版が同年12月にバークリー社から刊行された。この2013年版にはキンジーものの超短編も加えられている。これは日本語に翻訳されていない。 "The Lying Game" は2003年にアウトドア製品の会社<ランズ・エンド>40周年特別号のために書き下ろした非常に珍しい作品である。
 ”If You Want Something Done Right..." は Mystery Writers of America の創立75周年記念アンソロジー Deadly Anniversaries(Hanover Square, 2020) (見出しの画像を参照)に収録されたノンシリーズ短編である。グラフトンは2017年12月に亡くなっているから、このアンソロジーにために書いたものではなく、編纂者のマーシャ・マラーとビル・プロンジーニが見つけた未発表の作品なのだ。
 そして、2021年にはオットー・ペンズラーのシリーズ編纂、リー・チャイルドのゲスト編纂による The Best Mystery Stories of the Year (Mysterious Press, 2021) に収録された。もともとは、こっちのアンソロジーの書影を見出しの画像にしていたのだが、途中でMWAアンソの書影に変えたのは、前置きが長くなりすぎたからだ。
 次回はペンズラー編纂の年刊ベスト・アンソのゴタゴタについて書く予定だが、予定は未定だからなあ。//

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