見出し画像

ジロリンタン備忘録211010

松坂健が死んだ!

 松坂健さんが10月8日朝に亡くなった。死因はすい臓癌だった。72歳。家族や知り合いや元生徒のみんなは、もちろんショックだったよね。おれもショックを受けたよ。おれの物書き仲間であり、ライヴァルでもあったからだ。(まあ、おれ以外の人間はみんなライヴァルかもしれない。)
 まず、同年輩であった。同年輩の知り合いの死亡はかなりショックだ。志村けん(なぜか一方的に身近な人間と思っている)とか、作家の藤田宜永の死亡は最近特にショックを受けた。
 50年ほど前は、『ミステリマガジン』に寄稿しているただの物書き仲間だと思っていた。それが、彼の存在を意識し始めたのは、いろいろと思い起こして観ると、この20年ぐらいの間だろう。
 21世紀になってからだと思うが、ニューヨークのアッパー・イースト・サイドにあったミステリー書店<ブラック・オーキッド>へ行ったとき、女性店主のボニーがおれにこう言った。「ジローのことを知っている日本人がこの間来たわよ」しかし、その日本人の名前は覚えていなかった。
 2003年のラスヴェガスか2008年のボルティモアの<バウチャーコン>で、作家の故ジェレマイア・ヒーリー(当時は国際犯罪作家協会、IACWのアメリカ代表)がスペインの IACW (スペイン語ではAIEP)の集まりで日本人に会ったよと、おれに言ったのだが、名前は覚えていないらしい。日本人でIACWの集まりに参加するのは誰なんだろう?とおれは思った。おれのほうはIACWの北米支部の事務局長(故メリー・フリスク)の友人だったので、そっちに所属している。
 それで、いろいろ調べてみたら、松坂健という男だった。(IACW会議には小山正さんも一緒だったかもしれない。)慶應大学推理小説同好会出身なので、ほかの大学のミステリー研究会出身者にも知り合いが多いらしい。『ミステリマガジン』にもよくエッセイや評論を書いているなあと思う程度だった。『ミステリマガジン』にはIACWの会議の様子を書いていて、これは情報豊かで役に立った。しかし、おれの友人でも知り合いでもなかった。
 でも、2011年の4月頃からローレンス・ブロックやサラ・ワインマンの提案でツイッターやフェイスブックに参加することになった。(フェイスブックに関しては、参加年があやふやである。)そのときに、特にこっちから「友達」を求めることはなかった。学生時代の旧友や仕事上の知り合いからの「友達リクエスト」には応じるが、こちらから「友達」は滅多に求めなかった。そのあと、業界の知り合いの多くと「友達」になり、松坂健さんからも「友達リクエスト」が来て、知らない仲じゃないし、断わる理由もないので、「友達同士」になったわけだ。そのあと、なぜか奧さんの晴恵さんからも「友達リクエスト」が来て、断わる理由もないので、「友達同士」になった。でも、ファイスブック上での「友達同士」というだけだった。
 (思っていたよりも長くてなりそうなので、もっと簡潔に書こう。)
 そのあとは、松坂健さんが「小鷹信光さんお別れ会」で進行役を務めたときも、話をしていない。ただ、晴恵さんのほうから、おれに挨拶してくださったのは覚えている。「小鷹信光スクラップブック準備会」のような集まりにおれも仲間入りさせてもらったときも、あまり話をしなかったなあ。
 実際に話をしたのは、2019年の6月、小鷹信光邸で蔵書形見分けがあったときの帰りのタクシーの中だ。おれがIACWのヨーロッパ支部の会員が最近亡くなった話をしたときに、彼にヨーロッパ支部での雰囲気を聞かせてもらった。それが、彼と直接に話をした最後だった。
[ちょっと待てよ、IACWの集まりを日本で開催する予定があると、松坂さんから聞いた話があるなあ。そのときに、おれも協力するよと言ったことを思い出したが、いつ頃のことなのか、全然覚えていない。この予定は、スイスの会員が自分の国で開催したいと言ったので、流れてしまったらしい。]
 そのあとは、晴恵さんのミステリー劇の案内状を送ってもらっているが、観に行っていない。2019年秋のマルタの鷹協会の関西支部の集まりに出席したいと、松坂健さんは言っていたが、あいにく台風が関西に近づいて来たので、秋の集まりは中止になった。
 そして、去年の暮れから今年初めにかけて、おれが小説集とエッセイ集を電子書籍とオンデマンドで出すために企画しているときに、会話形式のエッセイ集『おれって本当にハードボイルド探偵なの?』(扶桑社電子出版)の原稿が少なすぎるので、CCRというミステリー業界人の集まりのメーリング・リストで、おれが『ミステリマガジン』に寄稿したのに持っていないエッセイを提供してほしいと頼んだときに、松坂健さんが2編のエッセイを彼の書斎から捜し出してくれた。感謝、感謝、大感謝だ。そして、ほかの媒体では何の宣伝もしていないそのエッセイ集『おれって本当にハードボイルド探偵なの?』を普通の刊行物で取り上げてくれたのは、『ミステリマガジン』に連載していた松坂健さんの新刊紹介コラムだけなのだ。本当に感謝、感謝、大感謝である。
 そして、フェイスブックで、彼が『ペーパーバックス読書学』(トパーズプレス、1981年刊)の著者、深野有(ふかの・ゆう)でもあることを知った。80年代前半には、おれも英語関係の雑誌にコラムを書いていたことがあり、松坂健とは共通するところがあったのだ。つまり、ライヴァルだったわけね。

 ほかにも、この1週間はいろいろな出来事があったが、きょうじゅうに公開したいので、これで終わる。そうそう、あしたの11日は「体育の日」の祝日ではなく、平日だからな。「体育の日その2」として、今年だけでも祝日を一つ増やしてもいいのにねえ。
[見出しの画像は、瀬戸川猛資との共著『二人掛かりで死体をどうぞ〜瀬戸川・松坂ミステリ時評集』(盛林堂書房、11月刊行、3500円)の書影。]//

文章を売るのが商売なので、金銭的な支援をしてくださると嬉しいですが、noteの支援方法が面倒なので、ネット書店でガムシュー・プレス刊か扶桑社ブックス刊の木村二郎著書を購入していただくほうが簡単で、大いに助かります。もしくは、「スキ」をたくさんください。よろしくね。