雲の上を裸足で歩め

あなたは雲の上を歩いたことがあるだろうか。機上より雲海を見下ろすたび、雲の上を歩きたいと思っていた。

南洋のウベア島で、地上に天国がある事を知ってしまった。
そこには真砂と碧空と、日本語では表現しえない、エメラルドを水で溶いた色の海が広がっているほかは何もない。魚や海藻すらない虚無を果てしなく透明な海水が満たす世界。砂は肌ざわりがないほど細かく、歩けば足首まで沈みこむ。
とても美しく、そして寂しい場所だ。蜜流れ蝶の舞う天国を信じるほど楽観的でもなく、閻魔様に舌を抜かれる地獄を信じるほど信心深くない私にとって、浄土というものはこのような何もない場所なのだろうと思う。雲の上を歩くような地面では走れず、潜っても水中はるか遠くまで届く視野の中には何もない。心静かに「何もしない」をするなら、世界の始まりか終わりのようなこの浜をおいて他にない。


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