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プロサッカー選手におけるハムストリングス損傷後競技復帰の予測因子としてのBritish Athletics Muscle Injury Classification System

序文
ハムストリングスの肉離れは、競技を問わず発生率・再発生率の多い傷害であり、アスリートやスポーツチームに大きな影響を及ぼしています。このようなスポーツ傷害において、重症度・タイプの分類、および安全にスポーツ復帰するための予後を予測することはリハビリテーションを進めていく中で重要となってきます。したがって、これまで多くの筋肉関連の傷害の重症度・タイプの分類システムが提案され、利用されてきました。多くの臨床家によって用いられている分類システムは、重症度・タイプを1度(筋線維の微細損傷)、2度(筋線維の部分断裂)、3度(筋線維の完全断裂)と、臨床症状や超音波検査による筋繊維の損傷の程度をもとに3段階に分類するものです。一方で、近年の研究により、損傷部位の長さだけでなく、損傷した部位・組織(筋膜部、筋腱移行部、腱部)なども予後に影響していることが明らかになっています。したがって、ハムストリングス肉離れの発生率・再発生率を減らすためには、これらの要素を考慮した分類システムが必要だと考えられます。今回紹介する論文は、2014年に提案されたthe British Athletics Muscle Injury Classification分類の、肉離れ後競技復帰の予測因子としての有用性1について検証しています。

論文概要
背景・目的
ハムストリングスの肉離れ(Hamstring Strain Injuries: HSI)はプロサッカー界において最も多く見られる筋肉関連の傷害である。HSIの発生数を少なくするために多くの取り組みがされている一方で、HSIの発生数は上昇している上、再発率も12-33%と報告されており、アスリート・チームにとって多大な負担となっている。

HSIは、治療および競技復帰の効率化の側面においてメディカルチームに大きな課題を課している。したがって、HSIからの競技復帰の過程、およびHSIの診断・分類を促進させるために、磁気共鳴画像(Magnetic Resonance Imaging: MRI)が使われることが多い。MRIは筋肉関連傷害の評価において最も正確で感度の高い方法であると認められている一方で、アスリートにおける競技復帰予測因子としてのエビデンスは限られており、HSI後の競技復帰において、MRI上でのHSI完治の確認は現時点では必要とはされていない。

これまでは、筋肉関連傷害のMRI分類はmodified Peetron分類が用いられてきた。この分類法は高い信頼性が認められている一方で、筋肉損傷部位の長さ、起始からの距離、浮腫の断面積、および腱の関与などの要素の考慮に欠けていることが批判されている。したがって、近年、英国サッカー界においては、the British Athletics Muscle Injury Classification (BAMIC)分類が用いられることが多くなっている。BAMIC分類は、浮腫の長さ、断面積、および筋肉内の損傷部位の情報を考慮しており、検者内および検者間信頼性も完璧に近いと報告されている。一方で、BAMIC分類をプロサッカーにおいて用いたデータは限られている。したがって、本研究ではプロサッカーにおけるHSI後競技復帰の予測因子としてのBAMIC分類の有用性と、Peetron分類システムとの一致性を調査することとした。

BAMIC分類

グレード
・Grade 0:
   Grade 0a:局所性神経筋損傷と正常なMRI
   Grade 0b:広範な筋肉痛と正常なMRIまたは遅発性筋肉痛に多く見ら  
        れるMRI結果
・Grade 1:MRI上10%未満の線維断面または縦方向の長さ5cm未満の高い 
 Short-tau inversion recovery (STIR)の信号、および1cm未満の線維断裂
・Grade 2:MRI上10-50%の線維断面または縦方向の長さ5-15cm未満の高
 いSTIRの信号、および5cm未満の線維断裂
・Grade 3:MRI上50%以上の線維断面または縦方向の長さ15cm未満の高い
 STIRの信号、および5cm以上の線維断裂
G・rade 4:完全断裂

下位分類
a:筋膜性
b:筋腱接合部・筋部
c:腱性

方法
英国のプロサッカークラブにおけるハムストリングス肉離れの39例の後ろ向きコホート研究を実施した。2人の筋骨格系放射線科医が過去のMRIをレビューし、BAMICとPeetronの分類システムに照らして分類した。分類、および浮腫長と断面積と、競技復帰までの日数(Return to Play: RTP)との関連を調査した。

結果
Pearson’s相関係数は、BAMIC分類とRTPの間に、弱いが統計的に有意な正の相関を示した(r = 0.32; 95%CI 0.01 - 0.58; p = 0.05)。筋肉内浮腫の最大長はRTPと有意ではない弱い正の相関を示した(r = 0.3; 95%CI -0.02 - 0.56; p = 0.06)。損傷断面積の割合はRTPと有意ではない弱い正の相関を示した(r = 0.02; 95%CI -0.3 - 0.33; p = 0.91)。重回帰では、RTPの分散の16%がモデルによって説明された。BAMIC分類とPeetron分類の一致度のKappaは0.21(95%CI 0 - 0.42)で、弱い一致度であった。

結論
本研究では、BAMIC分類とRTPの間に統計学的に有意な相関があることが明らかとなった。これらの知見は、臨床におけるハムストリングス肉離れにおけるRTPの予測因子としてのBAMIC分類の有用性を示している。また、本研究では、浮腫長とRTPおよび筋損傷の断面積とRTPとの間には、統計的に有意ではない弱い相関があることがわかった。

まとめ

今回紹介した論文では、浮腫の長さ、断面積、および筋肉内の損傷部位・組織を考慮した肉離れBAMIC分類システムが、プロサッカーにおけるハムストリングス肉離れ後の競技復帰までの日数と関連していることがわかりました。一方で、BAMIC分類システムにおいて分類基準とされている各項目とRTPとの間には有意な相関は見られませんでした。したがって、本論文からは、浮腫の長さ、断面積、および筋肉内の損傷部位・組織を競技復帰の予測因子としての有用性に関しては、さらなる研究が必要であるが、各項目を包括的に考慮することによって競技復帰の予測因子の一つとして有用であるという結論となります。本論文はプロサッカー選手を対象としていますが、先行文献ではラグビー選手や陸上選手においても、同分類システムが競技復帰までの期間と関連していることが明らかになっています。様々なスポーツにおいて多くみられる肉離れですが、このように、より怪我の特徴を考慮した分類システムを用いてアセスメント・リハビリをすることによって、良いリハビリテーションの結果に繋がることが考えられます。例えばMacDonaldら(2019)3は、BAMIC分類をもとにどのようにリハビリを進めていくことができるかを提示しています。BAMIC分類はMRIを利用しているという限界があり、全ての臨床家がそのまま応用することはできませんが、怪我のアセスメント・リハビリをする上で考慮するべき点などは、学べることがこの論文には多くあると思います。今回の論文の紹介によって、より適切なアセスメント・リハビリに繋がれば幸いです。

Reference


  1. Pollock N, James SL, Lee JC, Chakraverty R. British athletics muscle injury classification: a new grading system. Br J Sports Med. 2014;48(18):1347-1351. doi:10.1136/bjsports-2013-093302


  1. Tears C, Rae G, Hide G, et al. The British Athletics Muscle Injury Classification grading system as a predictor of return to play following hamstrings injury in professional football players. Phys Ther Sport. 2022;58:46-51. doi:10.1016/j.ptsp.2022.08.002


  1. Macdonald B, McAleer S, Kelly S, et al. Hamstring rehabilitation in elite track and field athletes: applying the British Athletics Muscle Injury Classification in clinical practice. Br J of Sports Med 2019;53:1464-1473.

文責者:水本健太

編集者:井出智広、姜洋美、岸本康平, 柴田大輔, 杉本健剛、(五十音順)

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