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AU#30 米国高校生における脳振盪体験と自殺念慮、計画そして未遂

AU#30 米国高校生における脳振盪体験と自殺念慮、計画そして未遂

序文
近年、アメリカ・日本で脳振盪に関する注目が高まっています。脳振盪受傷後に起きる身体的な影響に焦点を当てられることが多いですが、メンタルヘルスへの影響も、重要視されることが多くなりました。特に中高生の年代でスポーツやリクリエーション関連の脳振盪(Sports- and Recreation-Related Concussions: SRRCs)の報告数は毎年確実に増加し続けており、神経発達が起こる時期の思春期に脳振盪などの脳損傷を受けると、回復が複雑になるリスクが高まります。したがって、アスレティックトレーナーをはじめとする医療従事者は、青少年の脳振盪後の心理的・行動的影響の範囲を完全に理解することが重要です。近年の疫学研究ではSRRCsが青少年の自殺行動(Suicidal behavior)や自殺念慮(Suicidal ideation)に及ぼす潜在的な影響について調査しましたが、残念ながらこれまでの研究ではSRRⅭsの頻度による影響を調査しておらず、青少年の脳振盪後の自殺傾向に関する理解は不完全なままです。このAU記事をきっかけに、脳振盪後のメンタルヘルスを考えるきっかけになれば、と思いまとめましたので、是非ご一読ください。

論文概要
背景・目的
度重なる脳振盪のメンタルヘルスとの関連に関心が高まっている。しかし、青少年の男女における脳振盪の頻度とメンタルヘルスへの悪影響を調べた研究は不足している。したがって、本研究は青少年における自己申告による脳振盪の頻度と非致死的自殺行動との関連、さらに生物学的性別との関連性を探ることを目的とした。

方法
2017年と2019年の全国青少年リスク行動調査システム(Youth Risk Behavior Surveillance System: YRBSS) のデータを統合し横断的に分析した。YRBSSは青少年の優先的な健康リスク行動の傾向を監視する目的で、2年に一度、学校ベースでの調査を実施している。9年生から12年生(日本の中学3年生から高校3年生)までの公立・私立学校の生徒を対象に、全国を代表するサンプルを作成するために3段階のクラスター・サンプリングデザインが用いられた。前歴変数は、過去12か月間の自己申告によるスポーツまたはレクリエーションに関連した脳振盪の頻度(0回, 1回, 2回以上)であった。結果変数は、自己申告による悲しみや絶望感、自殺念慮、計画、未遂であった。共変量は年齢、性別、人種・民族、いじめ被害、性的指向、身体活動であった。2017年と2019年の調査を通じて、合計28442件のアンケート回答のうち最終17393人の生徒(全サンプルの61.16%)のサンプルが分析対象となった。

結果
2回以上の脳振盪を報告した生徒は、過去12か月間に1回の脳振盪を報告した生徒と比較して、自殺未遂を報告する確率が有意に高かった(調整オッズ比=2.03; 95% CI = 1.43, 2.88)。しかし、性差を調べたところ、この所見は男性に起因する可能性があることがわかった。女性では、脳振盪が1回から複数回に至るまで、関連性の強さは増加しなかった。

結論
この研究の調査結果は、脳振盪を報告した青少年は、メンタルヘルスの不調や自殺行動を報告する確率が高いことを示唆している。さらに、脳振盪の受傷数の増加と、男性における自殺未遂の報告が有意に高かったことは関連しているかもしれない。しかしながら、医療従事者は性別に関係なく、短期間内で脳振盪を再受傷した青少年の、精神衛生行動を注意深く観察すべきである。

まとめ
今回の研究では、脳振盪を受傷した青少年におけるメンタルヘルスの臨床的評価と、綿密な経過観察などの重要性と必要性が浮き彫りになりました。この調査では、アメリカの青少年における脳振盪と自殺行動との関連を調査した結果の為、日本の中高生に当てはまるかは定かではありませんが、脳振盪後に起きうる精神衛生への影響は計り知れません。この論文をきっかけに、青少年と関わる臨床家の皆さんには是非、身体的なリハビリや回復だけでなく、精神面でのケアを考えるきっかけになれば幸いです。

Reference
Kay JJ, Coffman CA, Harrison A, et al. Concussion exposure and suicidal ideation, planning, and attempts among us high school students. Journal of Athletic Training. 2023;58(9):751-758. doi:10.4085/1062-6050-0117.22


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