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これでいいか。



幼馴染みの女が誕生日だったので、茉莉花とチャミスルとメビウスを買った。あとご飯のお供みたいなやつも。食べるだし醤油だったかな。幼馴染みの誕生日プレゼントは頭を使わなくていいから楽だ。毎年茉莉花をあげたって、彼女はきっと喜ぶ。マァそんなことはしないけど。
これは悪口だけど、あたしは幼馴染みのことをずっと見下している。見下しているというか、軽蔑しているというか。「なんでコイツはこんなに馬鹿なんだろう」と思う。呆れとか諦めとか嫌悪とか、とにかく、マァ、そういう負のぐちゃぐちゃとした感情しかなくて。会う度にやっぱり合わないなと思うし、2時間以上一緒にいると気が狂いそうになる。
誕生日に酒を渡しに行った時に、幼馴染みは「また同窓会するときはさー」と話しだした。

「バーで同窓会開こうや」
「嫌や。お前が行くバーって全部が頭悪そうやし。ふつうに居酒屋とかでいい」
「えー?ダーツあるで」
「ダーツあってもしょうがないやん」
「てか飲み比べしたいわ。マァ絶対に負けませんけど」

幼馴染みの女は、何かと飲み比べをしたがる。飲み比べをしたいだけなら同窓会じゃなくてもいいのに、同窓会という名目がなければ誰も集まらないからだろう。いかに自分が酒に強いかを知らしめたいのだ。幼馴染みの持ちネタは酒とタバコと彼氏くらいしかないんだろうか。もしかするとあたしに対してだけかもしれない。あたしたちは別に仲良くないし、共通の話題がない。強いて言えば、中学の同級生がホストになったとかキャバ嬢になったとか、この間ツケの4万払ってきましたよとか、結局はそういう話だ。でもそれも幼馴染み自身や、幼馴染みと同じ界隈にいる人間の話だ。あたしの世界には欠片も関係がない。あたしは喫茶店とかに行って、ケーキとメロンソーダの写真を撮って「かわち〜」とか言っていたい。
彼女と友達かと言われたら曖昧だ。仲良くないかと言われたら、幼馴染みはあまりにあたしを大切にしすぎているし。友達かと聞かれたら、あたしはあまりにも幼馴染みに冷たすぎる。優しくしたことなんか一度もないのに、どうしてこの女はあたしが好きなんだろうといつも思う。あたしは好きじゃない。好きじゃないと言っても、彼女は笑い飛ばすだけだろうけど。

幼馴染みは馬鹿だ。頭が悪い。昔から人に嫌われていて、舌ピを空けて血だらけになったティッシュの画像を送ってくるし、GRAVITYを完全に出会い系サイトとして使っている。広告を見たことがないのか?
幼馴染みは愛されていない期間があると狂ってしまうから、彼氏ができてもしばらくすると浮気相手がいる。彼氏と別れたあとは、次はその浮気相手が本カレになるからだ。コンビニの飲料コーナーみたい。クソみたいなシステムだ。今は福徳と将棋の駒をミクスしたような彼氏がいる。

これは悪口だ。愚痴。嫌いな女へのクレームだ。幼馴染みのことはフィクションのような、創作に使えそうな資料のような、そんな感覚で見ている。そうじゃないと手が出そうだから。あたしたちは2時間以上一緒の空間にいられないし、お前とは二人きりでしか会わない。それがお前のことをギリギリ大切にできる最低ラインだからだ。
幼馴染みのことが許せないって、別に自分は何もされていないから偉そうに許すもクソもないけど。彼女の何が嫌いなのか分からない。分かってるけど、本当はべつにそんなに嫌いじゃなくて、怒ってなくて、でも、ふとした時に「やっぱ無理だわ」ってなるから嫌いなんだろう。
バーなんて行きたくない。だってお前の行きつけのバーってなんか嫌な感じなんだよ。保険証の写真撮って住所押さえてるとか、ツケ払えないなら泡やれとか、なんなんだよ。あたしはお前が歌うふつうのイケナイ太陽を聴きたいんだよ。なんで勝手に飲みコールに替えるんだ。立ち食いなんか嫌だ。バーの知らないおばさんに「お姉さんもよければ」とか言って酒奢るなよ。誰なんだよ。一緒にご飯食べに行こうって言うから楽しみにしてたのに、なんで1000円以上も払って鶏皮ポン酢とザーサイ食べなきゃいけないんだ。美味しかったけど。ちゃんとしてよ。

幼馴染みと一緒にいる時間は楽しくない。本当につまらない。生きている世界がまるで違うし、一生分かり合えない。でも有り得ないくらい楽だ。職場のように高い声を出さなくていいし、親戚の集まりのように笑わなくていいし、他人相手では許されないことをしても彼女は許す。あたしはそれに甘えてる。彼女は人として、あたしよりも遥かに“良い奴”だ。嫌いになる理由を一生懸命探してるのはあたしだけ。

お前が無条件にあたしを愛しているように、あたしももっと上手くお前のこと愛してみたい。ちゃんと愛せたらよかった。愛憎という言葉があるように、愛と憎しみは表裏一体と言うけれど。感情が交錯することはあれど、同化はできない。

これは悪口だ。でも愛してくれるよな。


2024.1.30