見出し画像

だから何が言いてェんだよ、

自分の具合を心配された時の、あの腹の底がグツグツと熱くなるような感覚は、発狂したくなるような感覚はなんなんだろう。怒りじゃない。恥ずかしいという感覚が一番近い気がするけれど、的確ではない。激情とか言う夕立の中に立っている気分だ。これがインフルエンザとかならよかったんだけど、たかが風邪。たかが生理(生理痛はほとんど痛くないか、息ができず白目を剥くほどの激痛かのロシアンルーレットなので、軽視しているわけではないよ)。そんなことで私は今この瞬間をめちゃくちゃにしてやりたいと思う。
自分を自虐することも卑下することもほとんどないし、したとして、その数秒後には全部ひっくり返して「どうせそんなこと思ってないんだよ」と他人事のように思う人間だ。でも他人に何かしら心配をされた時だけは、心の底から自分が情けなくなって惨めになる。

薄情なことだけど、人のことを心配すると言う感覚があまりない。高校生の頃、体育の授業中に過呼吸になった他クラスの女の子がいた。もうどんな風に苦しんでいたかなんて覚えていないけど、彼女の様子を見てすぐに先生を呼んで連れて来たことがある。その過呼吸になった女の子の横にいた友達が、今の私の友達でもあるのだけど、度々友達からかっこよかったとか優しいとかお褒めの言葉をいただく。でも傍から見てかっこよかったにしろ、優しいと言われるとなんだか違う気がした。だってべつにその子のことが心配でそうしたわけではないし。彼女の呼吸が安定して落ち着いたところで、私は「良かったぁ…」と安心することもなかった。「勘違いすんなよ」と突っぱねたい。誰かが床に落としたプリントを拾ってあげるように、微妙な隙間が開いている扉を閉めるように、本当に些細なことでしかない。
他人だから淡白なのでは?とも思ったけど。もっと昔、雨の日に裸足で遊んでいたせいで肌がふやけて、何か尖ったもので足の甲をえぐった友達がいた。えぐれた傷口は小さかったけど、白い肉が見えた。白子っぽいなと思っていたことだけはよく覚えていて、大量に流れ続ける血だとか傷については何の感情も持たなかった。自分の肉がえぐれた友達も「やば」としか言わなかった。友達が泣いたり騒いだりしたらまた違っていたのかもしれない。

極端な性格だと思う。誰かが過呼吸になったら対応してくれる人を呼べばいいし、体調が悪ければ帰ればいいし、嫌いな奴は一生嫌いで、すぐに「じゃあこうすればいいじゃん」と結論を出してしまう。できない人はできないと言うこともよく理解している。だから、こう、心情的な同情がすごく苦手で、だから私には何も言わないでほしかった。目の前で辛そうにしないでほしい。共感が上手くできなくて、でも見捨てようとは全く思っていないから、0か100しかないような答えしか伝えることができない。
優しくない優しくない優しくない!何も優しくない。本当は馬鹿にしてるんだよずっと。どうせアンタたちは隣に座って背中をさすってあげるだけでしょう。大丈夫?って声をかけてあげるだけでしょ。そんなことをしても何も起こらない!喧嘩した時に中立の立場になりたがる人間と何も変わらない。当事者になっていたいだけだ。当時のことを誰よりも知っていて誰よりも分かっていたいだけだ。誰も答えを出さない。最適解を実践しようとしない。
お前もだ。お前もさっさと家帰れよ。しんどいなら家帰って寝ろ。痛いなら痛いって言え。泣けよ。なんでもないなら嘘でもなんでもないフリしろよ。早く答えを出せ。0か100か、それ以外嫌いなんだよ。

小学校から中学生頃は、季節の変わり目によく喘息になった。階段を登ると息ができないほど咳が出て、顔と目を真っ赤にしていた。咳が止まらなくて、ベッドで吐いたことがある。その時のことはよく覚えてる。夜ご飯はカレーだった。カレーを吐いた。頭を思い切り叩かれたし、めちゃくちゃ怒られた。
専門学生になってから、情緒が不安定な日は学校に行かないという選択ができるようになったんだけど。それはそれで、体調不良で学校を休むというのが本当に嫌いだった。自分でどこまでが休まなければいけないほどで、どこまでが耐えられる不調なのが分からなかった。今でもよく分からなくて、熱が出てくれると安心する。耐えなくてもいい苦痛があることは分かったけど、耐えなくてもいいってどこから?会社で吐いたからってなんだって言うんだよ。大丈夫?かって、大丈夫じゃなかったらなんなんだ。
分からないから、分からないから心配しないでほしい。分からない自分がすごく嫌で、なんで自分のことなのに自分で考えられないんだろうって、お前人にはすぐに解決策を提示するのにな。「大丈夫?」って聞かれたら「大丈夫かどうか分からないです。ごめんなさい。分からないです。大丈夫なのか分からないです。分からなくてすみません」って言いたくなる。

そんで感情的になって泣くんだろ。頭おかしいんだよお前。


2023-06-19