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大袈裟なコンプレックスについて

私はそもそもネガティブな人間ではない。自分のことが嫌いというわけでもないし。やけに人の目を気にすることはあるが、相手に不快な思いをさせないかとかそういう心配をしているわけではなく、相手に自分がみっともなく惨めに見えていないかを心配することはよくある。ネガティブな人間ではないけど、自分がダメであることを認識させられると、どうしようもなく頭がおかしくなってしまいそうになることがある。大袈裟に言っているかもしれないけれど、頭を掻きむしって発狂して泣いて、本当にどうにかなってしまいそうになるほどには、自分の思考に嫌気がさすことがある。

そういうのは大抵恋人と過ごしているときなんだけれど。何度かこの話をしているが、私は中学三年生の頃に恋人と付き合ったとき、「どうしてサチコなの?もっと良い人がいただろ」と言われてしまった人間だ。それに限らず、私と付き合っている恋人が可哀想だと結構言われてきた(中高が一緒だったからだと思うけど、今は違う学校なので何か言われることはあまりないです)。それが積もり積もってノイローゼになって、恋人と別れる原因になったのだけれど。自分は今までこういうことを言われてきたんだよ、という話を恋人にすると、彼は「えぇ?そんなこと言う人本当にいるの?」「そんなの聞いたことないよ」と、疑うようなことを言った。
コレが本当に衝撃だった。彼はきっと誰かの悪口を言ったことがないのかもしれないけれど、聞いたこともないのかしら。もう本当に髪を掻きむしって四肢を振り回して暴れたくなった。自分にしか分からない感覚だけど、私は恋人のこういう「平和な世界で育ってきました」感全開な発言に対してものすごい拒絶反応を起こしてしまう。いや私は彼のそういう部分に執着しているところもあるので、ずっとそのままでいてほしいけど。
私が相手を傷付けると理解したうえで相手を攻撃しているのに対して、恋人は自分の行動に一切の悪意はなく、全て善意のもとでやっているので、自分の行為によって相手が傷付くことがあるだなんて予想もしていない。この話を書いてる前日に彼に「自分が良かれと思ってやっていることが、相手にとってはそうでないことが多すぎる」と相談されたのだが、「その通りだよ。今まで気づかなかったの?」と言ってしまった。彼にとっては全て良かれと思ってやっていたことなのに、迷惑だと否定されると、まさか自分が責められるなんて!僕が間違っていたって言うの!?そんな馬鹿な!と、ものすごいダメージを受ける。私は彼のこの、『自分が危害を加えていないのだから、相手から傷付けられるはずがない』という考えが、本当に理解できない。

常々言っているけれど、自分がこんな、人嫌いで向上心もなく、できれば人との関わりを避けたいと思う人間になってしまったのは育った環境のせいだと思っている。とにかく自分を取り巻く環境が悪かった。そういうことにしなきゃもうどうすればいいのか分からない。
強気な性格だからか知らないけど、自分がいじめられることはなかった。でも自分の友達がいじめられているのを見るということが多かった。小学校5、6年のときの担任は、頼み方が気に入らなければ冷房を付けてくれなかったし、学校に行きたがらない生徒の服を掴んで引きずってまで登校させたし、授業中に誰も挙手しなければ怒って教室を出ていく。中学の頃通っていた塾では、塾長が生徒をゴキブリ呼ばわりしたり、チャッカマンの火を向けたり、ビンタしたり、壁の穴を開けたりするのなんてもう慣れっこだ。
教師という立場の人間に恵まれなかったのもあるが、同級生たちもそれはそれでどうかしていた。廊下を歩いているといきなり同級生の男子に担がれて三階の窓から落とされそうになったこともあるし、友達はリストカットしてその傷を私に触らせてくるから、「うわーボコボコ。きっしょ」なんて会話もしていた。私の恋人は恐らくこんな経験を一切したことがないんだろうな。だって兄弟喧嘩すらしたことないって言うんだもの。私は髪を引っ張ったりリモコンで殴ったり、痣ができるほどの大喧嘩を何回もしているのにな。

私の友達は唇の近くのホクロが少し大きいだけで顔を散々罵倒された。可愛かった同級生は大人しく言い返せないだけでいじめられて不登校になった。いじめをしていた他クラスの友達が、いじめた女子が引っ越すことになって「あたしがいじめたせいで引っ越すことになったんだって。謝りたい」と泣いていたとき、「お前馬鹿なんだからもう喋んなよ」と怒鳴った。私の恋人はどうもこの理不尽さとは疎遠のようで。 だから彼は人から責められたときにものすごくショックを受けるんだけど、それを見て馬鹿だなぁって思うし、馬鹿だなぁって思う自分が死ぬほど嫌いだ。
私が、自分が言われてきたことを彼に打ち明けて、「そんなことを言う人が本当にいるの?」「聞いたことないよ」と言われたとき、久しぶりに大声で叫びたくなった。環境が違うとここまで認識が変わるということをよく、よく思い知らされた。たかがそんなことで、たかがこんなことでだよ。なんでいつも自分がされたことばかり話すんですか?でも加害者意識と被害者意識でなんかこう上手いこと相殺しなきゃもうどうやってここにいたらいいのか分からない。
彼は他人が自分の恋人の悪口を言うという事実がありえないみたいで、ありえないわけがないのに、ありえないわけないだろって思っている自分が全部間違ってるのかなって思って。彼の胸ぐらを掴んで揺さぶって、思い切り罵倒してやりたくなった。お前お前さァそんな知らないなら教えてやるよって。いやごめん。ごめんねお花畑ちゃんとか呼んでさ。羨ましいだけなんだよ本当に。てかおんなじ中学校だったじゃん。なんで一緒に落ちぶれてくれなかったの?類は友を呼ぶってやつですか。アンタは優しいから優しくてアンタのことを好きな人がたくさんいて、あたしは口汚いラリッた友達しかいなくて嫌われていたからですか?そうですよね。なんだか急に悲しくなって、その日は泣いた。恋人に「サチコの育った環境の方が強くなれるから、そっちの方が良いかもしれない」って言われたとき、彼はなんでこんなに人を怒らせるのが上手いんだろうと思った。

付き合って半年くらいの頃に、彼と彼の親戚たちのバーベキューに一度だけ参加させてもらったことがある。彼と彼の親戚たちはみんな仲が良かった。芝生で恋人たちがバトミントンをして遊んでいるとき、私は離れた場所で誰とも話さず黙って彼らを眺めていた。あの輪の中で私だけが異質で、私だけが溶け込むことができていなかった。あまり死にたいとか思わない人間だけど、あの空間は気持ち悪くて、その時久しぶりに死にたいなーと思った気がする。

2022-09-04