見出し画像

真顔でパフェを食うな

決まった女友達とパフェを食べに行く。ケーキやかき氷の時もあるけど、二人のときはなんとなく「パフェ食べよ」と誘う。パフェが好きなのかと言われたら、これが全くそうではない。嫌いでもない。ただ見るからにあからさまに当然のように可愛いから、可愛いものを可愛い〜と言いながら写真を撮り、完食してくれる友達と行くのが好きで、パフェでなければいけない理由はない。ただ盛り上がりも雰囲気も万全な状態にしてくれるから、選ばれたのはパフェでした。

食べることが好きだ。非常に。とても。質の良い食事は特に好き。質の良い食事と言うのはつまるところ一汁三菜です。ジャンクフードやラーメンも突然強烈に食べたくなることはあるけど、やはり定食が一番。和食大好き。食べることは好きだけれど、同じ味を食べ続けるというのは中々に苦痛で。例えばラーメンとか、好み焼きとか、ピザとか。私はピザとおでんを“ご飯”として扱うことができない。ピザなんというか、そう、お菓子だ。ピザが夕飯にメインとして出てきたら私はたぶんショックで言葉も出なくなるでしょう。おでんに関しては単純に何が美味しいのか分からない。おでんに対してなんの感情も持ったことがない。染みた大根とか卵とか色々聞くけれど、あの味付けはなんとも言えないのだ。よく冬の代表になれたなといつも思う。

美味しいものを美味しそうに食べるのは難しい。私は人が想像する何倍も表情が硬い人間ですから、恋人が撮ってくれた動画を見返すと、ものすごく無表情で食べている。時々眉毛が上がっている、が、やっぱり「おいし〜!」とも何とも言わず、黙々とその小さな口を一生懸命動かしていた。よく聞くと「美味しい。うま。これ大変美味ですね」とは言っているみたいだ。
小さい頃から「もっと美味しそうに食べなさい」「不味そうに食べるのはやめなさい」と言われてきた。不味そうに食べている自覚は無いが、美味しそうに食べていないのは自覚している。だってどう見ても真顔だし、美味しいとは言っても美味しそうに言うことはないのだから。美味しいものは美味しい。終わり。焼肉屋に恋人と友達と行った時は、私が肉を口の中に入れて咀嚼している様子を二人がじ……っと見て、やはり死んだ魚のような目で口を動かしている私を見て「ほらね。さすがですね」みたいな反応する。
昔から笑わない子供だった。カメラを向けても無表情、とかではないけど。友達と会話をしている時に一人だけ笑っていなかったり、スっと笑うのをやめてしまったり、とにかく無表情な子供だった。母胎に置いてきてしまったのだろうと思い込みながら生きている。なんで笑わないのと言われても、何も面白くないから。笑うほど面白くなくて、笑うほど楽しくないから。恋人と成人式の前撮りをした時に、何がそんなにおもろいねんってくらいにキラキラした笑顔で笑っていて、私はカメラマンのおじさんに「お嬢さん!目も笑って!歯を見せて笑えるかな!?」と、七五三の撮影に来た子供を笑わせるような感じで、必死に手を振られていた。笑ってるねんけどな。いやほんまに。「本人はめちゃくちゃ頑張ってます」と母がカメラマンさんに言ったときは、少しだけ切なくなった。

そもそも美味しそうに食べるってなんだ。もちろん作り手がいるのだから、その人たちに対して美味しそうに食べるのが一番良いのだろうけど。美味しそうに食べるってどんな感じなんでしょ。一口が大きければよろしかったか。にっこにこしながら食べればよろしかったか。しかし、確かに私の反応は人を不安にさせると思う。他の人は目を見開きキラキラさせて、笑いながら「美味しい〜!」と言うのに、私は「これが非常に美味です」とか言ってそれ以降は喋らずに黙々と咀嚼するのだから、何考えて食ってんだコイツくらいは当然思われるでしょう。誰かと食べたときに、美味しそうにしなければいけないのは、正直苦痛だ。分かりやすく美味しそうにしていないと、美味しくないのかと思われるのも苦痛。美味しいものは美味しい。美味しいものには美味しいと言う。それ以外でどう表現したらいいのか全く分からない。黙って食べたい。美味しいものをしっかり噛み締めて味わって食べたいから、美味しそうな演技などしている場合ではない。

気が散る。
気が散る気が散る!
うるせ〜〜!
今食べてるんだからよォ!一生懸命「美味しい」を取り込んでんだからよォ!
ほんっっとに邪魔すんなよォ!
と思う。邪魔された気分だ。台無しだ。食べることが好きだ。好きだから、美味しそうに食べるという演技がすごく嫌いで、悪いという自覚はあるので。私は可愛くて美味しいという最強のパフェを、真顔で食べる。


2023-03-02