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ハードボイルドだけじゃない、ボギーの名演技! ケイン号の叛乱 (1954) 米

エドワード・ドミトリク監督

原作は
ハーマン・ウォークの ピューリッツアー賞受賞作で
世界的大ベストセラーとなった同名小説。

当時、その面白さで 読み始めたら寝られず
翌日に残る 睡眠不足から来る疲れを
"ケイン疲れ"と呼んだそうです。

映画も勿論、面白い。

製作には スタリー・クレーマーが加わり
主演は 『マルタの鷹』や『カサブランカ』などで
既にハードボイルド・スターとしての地位を確立していた
ハンフリー・ボガード  (ボギーですわ)

戦争を舞台としていながら ほとんど戦闘シーンはなく
軍艦という 閉鎖的な空間の中での人間模様。

そして後半は一転して 法廷が舞台となりますが
検事側、弁護側の 激しい応酬に
最後まで緊張感が途切れないまま 物語は進行していきます。

ではお話、いきます。
ネタばれご免!

          〇

第二次世界大戦中 1943年の真珠湾。 

優秀な成績で士官学校を卒業し
海軍に入った キース (ロバート・フランシス)は
少尉として ケイン号に配属される。

しかし理想に燃えて乗り込んだケイン号は
スクラップ寸前の
"海軍のゴミ箱"と揶揄される 老巧掃海駆逐艦だった。

ケイン号

下品で行儀の悪い乗組員たちや
口の悪い がさつな艦長にも失望する。

それでも 副長のマリク大尉 (ヴァン・ジョンソン)や
キーファー大尉 (フレッド・マクマレイ)という
気の合った友人も出来、任務に励むキース。

キーファー大尉 マリク大尉 キース

しばらくすると 艦長が交代することになり
新しい艦長が赴任してくる。

その人が クイーグ艦長 (ハンフリー・ボガード)

「私の艦では 優秀が普通であり
 普通は普通以下、普通以下は存在しないと思え」

そして この乱れきったケイン号の風紀を
徹底的に規律あるものに変えていくと云う。

キースはクイーグ艦長の厳しい姿勢に
たちまち傾倒していくが

しかし、ほどなくして
クイーグ艦長のメッキが剥げて来る。

この人、部下には非常に厳格な態度で臨むが
自分のミスは 整備のせいにしたり
部下に擦り付けたりする。

服装の乱れなど
細かいことに異様にねちねちと叱り
些細なことで
映画上映などの娯楽や休暇を取り上げる。

ある時は まだ残っているはずの
自分の所有物である 冷凍イチゴが無くなったと騒ぎ
午前1時に招集をかけ
乗組員全員の所持品検査までした。

ここまで来ると もはや艦長は
偏執症(パラノイア)であるという 噂まで出てくる始末。

また、敵前上陸作戦の 上陸用舟艇の先導中
敵の砲撃に恐れをなして
上陸部隊を見捨ててUターンするなど・・

クイーグは次第に 部下から孤立していく。

しばらくしてケイン号は フィリピンへ侵攻中
激しい嵐に見舞われ
古い掃海駆逐艦であるケイン号は あわや転覆という事態に陥る。

クイーグは その恐ろしさに取り乱し
一時、心神喪失となり 操艦も出来なくなる。

そのとき
「万一の非常時には 下級指揮官が上級指揮官を解任出来る」
という 海軍規定に従い

副長のマリクが 抵抗するクイーグを解任
自らが指揮をし 無事に嵐を乗りきった。

ところがこの行為が 後日、叛乱罪と見なされ
マリクと彼に協力したキースは 軍法会議にかけられる。

何と言っても 戦闘中の叛乱罪である。
罪は非常に重く 有罪となれば絞首刑である。

裁判にあたって
クイーグの精神鑑定をした 3人の医師は
全員、彼は正常であると判断し
マリクたちは窮地に立たされるが

ここに登場した
弁護人グリーンウォルド大尉 (ホセ・ファーラー)
この法廷弁護人が秀逸!

検事側の追及は
精神医療の知識もない副長が
クイーグ艦長を精神疾患と 判断した根拠について
明瞭な説明が出来ない点である。

それに対し 弁護側のグリーンウォルドは
今回、鑑定した精神科医には 実戦経験がなく
平時と極限状態での 診断の違いを指摘するなど
前半の圧倒的、検事側優勢に立ち向かい

それによって追い詰められ、次第に自分を見失っていき
やがて興奮のため
証言が支離滅裂になり 破綻して行くクイーグ。

このハンフリー・ボガードの見事なこと!

しかし、グリーンウォルドは
クイーグの名誉も弁護する。

「勿論、彼は狂人ではない。
貧しい生い立ちや 長い戦争体験によるストレスからだろう」

結果、裁判には勝利するが
祝杯を挙げて喜ぶ マリク、キースたちを前に
グリーンウォルドは云う。

「この裁判は後味が悪い。
 戦時中、君たちが大学で勉強したり 遊んでいた時
 誰が国の為に 命がけで戦っていたか」

それは勿論、クイーグのような現場の指揮官である。

          〇

ダンディなボギーも カッコいいけれど
クイーグ艦長も素晴らしかった!

そしてこの映画では 巨大な軍艦の姿を
俯瞰で何度も見せてくれる、それも嬉しい。

しかし、この映画でキースを演じた
ロバート・フランシスは
その後を期待されましたが 映画公開の翌年
自らが操縦する飛行機の墜落事故で
25歳の若さで亡くなったそうです。

1955年アカデミー賞の 作品賞、主演男優賞に
ノミネートされましたが
どちらもマーロン・ブランドの『波止場』に持っていかれました。

『波止場』も観ましたが
ジャスミンはこっちのほうが 面白かったけどな。

おしまい

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