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短文集②

1,顕微鏡で拡大して見ると糸よりの具合が印象よくなっている美しい繊維を用いて、今冬用のマフラーを編む。編み物をする女性を描いている場合ではない、とムンクはかつてこの繊維に決別したが、実際は度々女性から顔型を模したニットをプレゼントされていたらしい。かの二人はすでに霊園のふもとに埋まり、今はただ土の粒を拡大して見ている。

2,人間はきっと、自身の「目」を見るために一生を捧ぐのだと思います。単色の青のパノラマを凝視していると、ありもしない黄色を創造して何度でも青を確かめようとするような仕方で、人間は夢を見ます。つまり、瞼の闇にわざわざ映写することは、人間が「目」への欲望を置き換えて、それを夢の全容に委託することだ、と言い換えられます。鏡に映った虚の目は生後六ヶ月の子どもを喜ばせるに十分なリアリティを有しますが、大人は実の目をいつか夢見て、決してそれに追いつくことがありません。

3,『集合写真』
新しい靴を履くところを狙う
膝先の幻肢は正しさを帯びて
化け物の誕生を真似ている
花粉が口に入ると
弱音の間隔が詰まって
かいなより後ろを突いた
その人々の数は二より多かろうが
かすかな足音は残りの譜面を満たさない

4,もはや実在するような図書館があり、そこは数年来、私の予知の場としてはたらいている。私は書籍のタイトルを確かめることはなく、ひたすらに歩き回るよう導かれている。SF的な吹き抜けの底、1Fから2Fに上がろうとして、私は知人の未来を見かける。知人は私を意識せず、時間に曝されている。彼/彼女はそのまま1Fに拘留され、私だけが上階へゆっくりと運ばれる。ここで壁と天井が吹き飛んで、あの日の階段としくみが同じことに気づく。コンベアが持ち慣れた手すりに変化する。「図書館」におそらく深い意味はない。高さをもって時間が交錯する地点として、大規模な建物が用意してある。機械任せにしても到着する4Fは憩いのスペースとして造られてあるが、奥に覗くスロープを下るとき、私の意志が必要になる。

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