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世界を視野に。M-AISにおける研究&開発&ビジネスの最前線



2020.11.27現在
三菱UFJ銀行を中心にMUFGのデータを活用し、独自のAIモデル実装を行うM-AIS。その立ち上げから携わる平山 元清は自身の経験を活かし、データサイエンティストのために、環境整備を行っています。世界に評価される成果を出すことを目標に、より良い組織創りに勤しむ日々とそのキャリアを語ります。

気象情報会社で偶然出会ったデータ分析の世界で、
現在は金融犯罪と対峙

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2020年現在、私がメインで取り組んでいるのは、三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)内のデータ活用を推進するための専門家集団M-AIS(アイス)のメンバーとして、1つはアンチマネーロンダリング業務への機械学習技術の応用、そしてもう1つはM-AISが進める全てのプロジェクトに必要不可欠なデータを収集し整備することです。

アンチマネーロンダリング分野は、2名の自社データサイエンティストに加え協力会社のデータサイエンティスト2名の全5名で一緒に取り組んでいます。また、プロジェクトマネジメントなどのビジネス上の交通整理は、それを専門とする4名の社員がサポートしてくれています。

データ収集・整備の業務は、データマネージャーがメインで取組んでおり、その他セキュリティやインフラ部門のメンバー4〜5名で構成されています。

また、社内のデータサイエンティストが最新の研究成果を吸収したり、逆に業務などを通じて得られた知見を論文として発表しコミュニティに貢献する事を支援する文化や仕組みづくりも行っています。その一環として、東京大学の鈴木大慈准教授との共同研究や、スタンフォード大学への研究員派遣、部内勉強会の運営などもしています。

そんな私のキャリアは、新卒で入社した気象情報会社、ウェザーニューズで始まりました。

最初は、ウェブ上のサービスや携帯アプリの開発などプログラマーの仕事が中心でしたが、小売業向けサービスの運営に関わるようになりデータ分析の仕事と出会いました。(ただ、当時は統計モデルや機械学習の知識はほとんどなく、先輩が考えたモデルを訳も分からずいじっていただけでしたが)

その後、データ分析を体系的に深くやっているデータ・フォアビジョン社に興味を持ち、入社します。そこで本格的にデータに携わることになりました。


しばらく働いた後、ワーキングホリデーの制度を使い、移住も考えるほど憧れていたニュージーランドへ8ヶ月滞在しました。ワーホリビザで渡航すると最大1年間働きながら滞在できるんですが、同じ雇用主のもとで働けるのは3カ月以内という制約もあります。(3ヶ月以上働き続けたい場合は、雇用主に価値を認めてもらってワークビザを手配してもらう必要があります。ただし、ワーキングホリデーは帰国を前提とした一時滞在の制度なので、ワークビザへの切り替えは制度の趣旨からは反する行為と言えますが)

私は当初、妻と2人で貯金を切り崩しながら生活していましたが、あわよくば永住権をとりたいなと思っていたので、永住権申請に有利な職を目指して就職活動もしていました。しかし、なかなかうまくいかず、とりあえず工場の日雇いアルバイトをして生活費の足しにしていました。それでも、段々と貯金はなくなってきてしまって……

そんな矢先、現地の銀行がデータ解析や統計分析、解析結果等を可視化できるSASを使って、統計分析や信用リスク分析ができる人を募集しているのをたまたま発見し応募したところ、幸いにも採用され現地銀行でデータ分析の仕事をすることになりました。

働いていたチームは、多国籍な人材の集まりでした。いろいろなバックグラウンドの持ち主と働く耐性が、そこで身についたと思います。

ニュージーランドで実際に働いてみると、その居心地の良さの虜になり、このままニュージーランドに移住したいと思いました。職場のマネージャーもワークビザの取得に協力してくれると言ってくれたんですが、妻に永住は嫌だと言われてしまって(笑)。結局、日本に戻って働くことになりました。


三菱UFJ銀行のAI研究所、M-AISを立ち上げ、JDDへ

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帰国後は、データ・フォアビジョン社に戻り、最終的にはデータサイエンス部の副部長を任せていただきました。

しかし当時、三菱UFJ銀行のデジタルイノベーション推進部に求人があるとエージェントから紹介されたのがきっかけで、三菱UFJ銀行に入社しました。前職でも銀行相手に仕事をしていたのですが、メガバンクの中で三菱UFJ銀行だけ接点がなかったので興味を持ったんです。

データ分析分野や、データサイエンティストは2013年あたりから日本でも騒がれ始め、当時は技術力とデータのどちらを持つ企業が勝者になるのかという議論もありました。私個人としては、機械学習をやるならデータを持っている企業の方が強いと考えていたので、多くのデータを保有しているという意味でも、三菱UFJ銀行には魅力を感じました。

入社後しばらくは、データやAIの活用にいかに取り組んでいくのかが業務上のタスクでした。そんな中、機械学習の研究所をつくりたいというトップのリクエストと、データ活用の裾野を広げるにはグループ全体をリードするような核となるトップ集団を作る必要があるという現場の目論見が重なり、MUFGのAI研究所として、JDDにM-AISをつくることになりました。

三菱UFJ銀行側の立場でM-AISの立ち上げに関わっていたこともあり、M-AIS立上後は私自身もJDDに異動し、M-AISに入りました。

M-AISができて最初の1年半くらいは、M-AISとしてまだプロジェクトが少なく、社内でとにかくいろいろなことにチャレンジしていました。1つの課題に対して伝統的なアプローチと論文発表されたばかりの最新手法を両方試してみたり、論文発表を目指す有志で土日に集まって勉強会を開催したこともありました。その頃の経験から、M-AIS所長も含めてデータサイエンティストのメンバー全員が、それぞれの立場でさまざまなことを学べたと思います。

2年目の後半から3年目にかけてどんどん仕事が増え、現在はデータサイエンティストの人手が足りないくらい、解決すべき課題が待っています。MUFG内での認知も徐々に上がってきており、多くの相談も寄せられるようになりました。それらにいち早く応えられるように、メンバーも随時増やしています。

業務が増えた今でも、論文発表できるような新しい試みにチャレンジすることは大切にしています。事業と研究の両立を目指せる環境は、データサイエンティストのスキルアップにおいて重要だと考えています。


M-AISの付加価値を考え、環境をつくる
──より良い組織を目指して

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幸いにも非常に優秀なデータサイエンティスト達にジョインしてもらえているので、私自身は、細かく業務上の指示を出すのではなく、チームとして最大限パフォーマンスを発揮してもらえる環境づくりを心がけています。勉強会で話して欲しい内容の共有や、学会参加や研究活動など新しいことにチャレンジする文化づくりや雰囲気づくりも重要な役割だと考えています。

データサイエンティストにとってどんな環境があればいいのか、M-AISを今後どうしていけばMUFGがより強い組織となるか、データサイエンティストの目線とMUFGの目線両方を融合した考えをM-AIS所長にぶつけ改善していくことが役割かなと、個人的には思っています。

M-AISのメンバーの多くは、現実の課題に対してデータを活用し、解決へと導くことに魅力を感じていると思います。そんな人たちのモチベーションとパフォーマンスを最大化出来るよう、いかに課題解決に集中できる環境を整えるかを常に考えていますね。

たとえば、寄せられる課題に対して、データサイエンティストがチャレンジングで面白いと思う技術を使って取り組めるようにできないか、という視点で見るようにしています。

また、データ分析に使用する計算環境も重要だと考えています。M-AISとしての付加価値を考えると、限定的な計算資源だけを使って分析結果を提出するよりも、必要に応じて最大限計算資源を活用し、M-AISにしか出せない知見を示す事がより高い付加価値を還元できると考えているからです。

実際のプロジェクトでも、多くの計算資源が必要となる場面で、やりたい分析を躊躇していたメンバーの背中を押したこともありました。データサイエンティストが、新しい価値を出していくために必要な行動をエンカレッジすることも意識していますね。


誰もやっていないことに挑戦していきたい
──それが、M-AISだから

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M-AISには、何かに妥協するよりも突き詰めていくことを意識してほしいと思っています。

なので、M-AISで取り組む案件は、ただ単に機械学習の手法を当てはめるだけや、これをすればこれくらいはできるよね、と他でも実績があるものを再現するだけだと、物足りないかなと思っています。こんな研究があるけれど実際に使ってみるとどうなのかといった、リスクをとって、まだ誰もやっていないことにチャレンジしてこそ得られる知見を蓄積していきたいですね。

また、三菱UFJ銀行の内部での評価にとどまらず、さらにその成果を論文にすることで、研究面でも世の中に還元していきたいと思っています。世界からも評価されるような成果を出せる組織を目指してがんばりたいですね。

今年は、NeurIPSやCOLINGといった世界的なカンファレンスでの論文採択やコンペ入賞がありました。これからも機械学習のコミュニティの発展に貢献できればと思います。

M-AISは、「R&D&B(Research&Development&Business)」 をミッションに掲げています。だからこそ、ビジネスだけをやるのではなく、リサーチとビジネスをいかにつなげるかに挑戦していきたいですね。そして、成果をちゃんと形にできる組織となるよう、貢献できればと考えています。