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初版1年で、増補版を刊行。価格も下げた、その理由。

で、本になっているのに、本に?

一昨年のいつ頃だったろうか。ある朝、編集者的には早朝に、ある方から電話をいただいた。

「あのね、変な話なのよ」で始まったのは、自費出版を考えている方の話。年に数回、出版社から来た見積が妥当か?といった相談を受けることがあり、今回もそんなご様子……眠い。

電話の主は「とにかく、原稿はあるから、騙されていないか見てほしいの」とのこと。どうもお知り合いからの相談のようで、指定された某所に原稿を置いておくとのこと……このあたりで目が覚めました。

そこで、某所に伺うと電話の主はおらず、すでに立派な上製本の『岩崎宏美論』がありました。すごいボリューム。文字量が半端ではなかった。ざっと見積もって30万字。『ち・お』の7冊分くらい? 早速、編集の技のひとつ、ある種の速読で頁をめくると、なななんだ!? これは。

30万字分に、岩崎宏美さんの歌唱愛どころか、声質愛に満ちあふれている。マニア、コア、熱情、オタク……も、ここまで来ると狂気……に近い。

で、もう本になっているのに、本に??

眞峯隆義って、いったい、何者??

いったい、これを書いたのはどこの、誰? とその上製本の奥付をみると、齢70歳を超える工学系の技術者であり、医学大学の副学長? 謎が深まるばかり。眞峯隆義とは、いったい何者?

偶然、隣町に暮らしておられるその謎の人と、待ち合わせ。そこにいらしたのは、ちゃんと70歳くらいに見える、実に柔和で愉快な方でした。立派なお仕事を成し遂げた方でもあります。でも、ご本人曰く「遅れてきた岩崎宏美ファン」になって以来、もうとにかく夢中。

5年の歳月をかけて、545曲を全批評(というか好評、絶賛)し、岩崎宏美さんの歌唱と声質の分析にまで及んだ。それを書いていたら、30万字になったそうである。

これを自家版として書籍化したものの、それでは岩崎宏美の偉大さを世間に伝えることができない。そう多く売れるような内容ではない、極めてマニアックでニッチなものであるから、製作費を用意したといわれる。笑顔で。

これは、ジャパマの本か?

大いに迷いました。ジャパマは、機械と子育て・教育。せいぜいが環境あたりをテーマにする版元です。ジャンルがちがう。もっと多くの人にというのなら、他の版元をあたるべきです。実際、持ち込まれた御原稿を別の版元に紹介することもあります。

でも、眞峯さんの妥協せぬ熱き思い、価値は自分の感じたままに、ひとつのことを掘り下げ続ける姿勢。実際目の前にある30万字が、これから私たちにとって必須の生き方、生きる道を照らしているように感じました。

好きを極める。価値は自分のなかにある。他人の目や評価を恐れず、そうしたことも楽しむ。耐えて一つのことを続ける。じっくりと年単位で時間をかける。

「オタク」といわれた生き方は、じつはもっと昔はみんなもっていたのかも。衣食住がそこそこ整えば、人は好ましいもの、自分にあったもの、不思議な世界や学問、芸術に心を満たそうとした。そこに豊かや充足感を求めた。それを社会も許し受け入れるところがあったのではないか。

人に価値を決められ、これが良いものだと教えられ、そう思い込まされた人には、後年「自分はいったいなにが好きで、なにをしたいのか」と悩まされることがあるらしい。

眞峯さん、すごい。30万字、すごい。売れないかもしれないけれど、妥協したくない眞峯さんの条件はジャパマでも整うだろう。なんで? 岩崎宏美なの? という人の声はスルーだ。そして、昨年、初版を刊行しました。

が、真のオタクは、さらにすごかった。

初版が出来上がる運びになった一昨年の年末。神・眞峯(すでに、その頃は私には神にみえた)は、寂しげな笑顔で言った。

「ぼく、これ、作り終えたら、どうしたらいいのでしょう」「もう、人生でやるべきことが見当たらない」と。

私は、「では、ネットの世界に進出されてはいかがでしょう」と、神が頷きそうもない提案をした。そうだ、神は紙でないと手応えがないのだ。刊行後も、誤植や表現や資料の修正が次々に送られてきた。

そして、昨年、神は再び言った。「松田さん、400カ所くらい修正したいのですが、それは増補版になりますか……」。営業力がなく申し分けないけれど、初版がまだ残っている。それに、一年しか、一年もまだ経っていないのに。

初版のとき以上に迷いました。でも、神は然る者。「コロナでしょ、ぼく高齢者だし、いつ、どうなるかと思うと、やり残したくないのです」。

んんんんんん。そうきたか。そして、さらに、老後資金を使い果たしてもやりたいと言われる。「つれあいにも納得してもらった」と。さらに、さらに、「ついては、初版の価格はやはり高価であったから、なんとか工夫をして値を下げ、より多くの方に読んでもらえるようにしてほしい」というのが、神の望みでした。

今般、それがかなったのです。かなり非常識ではあるけれど、神・眞峯隆義の願いがかなった初版に16頁が加わった「増補版」がここに出来上がりました。

この本は、岩崎宏美さんに魅せられた人はもちろん、もろもろで人生に迷ったとき、手にして頁をめくってほしい。きっと、なにかお告げがあるはず。

私にも「推し」がいて、コロナで散々。ライブを一切中止しているからだ。初版を刊行したあと気がついた。もし、私の「推し」のこの手の本があったら、抱きしめ眠るだろう。岩崎宏美さんのファンがうらやましくてたまらない。p松田

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なお、初版の『岩崎宏美論』をすでにお買いあげいただいている方には、弊社オンラインブックストアー【OYA.OYA】で利用できる30%クーポン(ただし、1回限り)をさしあげます。

それは他の書籍にも使えます。ご希望の方は、初版のカバー写真を添えて、ご連絡をお願いします。

連絡先は info@japama.jp

眞峯隆義(まみね・たかよし)プロフィール

1948年 長野県に生まれる

1973年 東京大学理学部物理学科卒 工学博士

1973年 ソニー株式会社入社

2001年 ソニーセミコンダクタネットワークカンパニー バイスプレジデント 

2005年 東京大学産学連携本部特任教授

2010年 独立行政法人科学技術振興機構 理事

2013年 東京医科歯科大学副学長

2015年 東京医科歯科大学を退職

この間、法政大学大学院理工学研究科客員講師、 東京家政大学非常勤講師を歴任

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