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1月に見た映画 - 記憶を記録に残して

映画を見るのが好きである。が、今まで漠然と見て、漠然と脳まかせに記憶してきた。しかし、この漠然とした記憶が老化でどんどん劣化しそうなので、これからはちゃんと記憶を記録しておこうと思う。

なぜその映画を見ようと思ったか、見てどう思ったか、直感的な感想などを書いていこう。5年後、10年後の自分に語りかけるように。将来また同じ映画を見た時、違った感想があるかもしれないから。

見る映画は新旧いろいろ。同じ映画をまた見ることもある。前回気づかなかった何かに気づくこともあるし、新たな心の動きが生じるかもしれない。そんな新しい刺激があれば、それが新鮮。成長の証しとしよう。

そのつもりはないけど、調子にのって書いているうちに、微妙にネタバレ的なことを書くとも限らないので見ていない方はご注意を。


ター(TAR:2022年、トッド・フィールド監督)

ケイト・ブランシェットの力強さと迫力が存分に出ている写真。惚れるわ。

今更ながらだが、「ター」を見た。スリリングで、現実と幻覚の区別がつかないような出来事に眩暈が起こる。冒頭から何やら不穏な空気が漂い、女性指揮者として成功を遂げた設定であるが、このあと何かあるであろうことを想像させて、ぐいぐい引っ張られる。ケイトブランシェットの淀みないセリフ、パワフルな指揮には圧倒され、彼女の容貌とあいまって見惚れる。残念なのは彼女のセリフの字幕が男言葉になっていたこと。だからといって女言葉にするのも役柄には合わない。にしても、もう少しニュートラルでジェンダーレスな言葉遣いにできなかったのかな。日本語はそういうところが難しい。

トランボ(Trumbo:2015年、ジェイ・ローチ監督)

脚本家ダルトン・トランボの伝記映画。1950年代にアメリカで吹き荒れたマッカーシズムの嵐。ハリウッドでの赤狩りの激しさをうかがい知ることができる。「権力vs」となると体制側の恐ろしさが際立つ。自由の国アメリカとかいっているが、ディストピア的な暗黒部分もあるのだ。

ゴシップ・コラムニストのヘッダ・ホッパー役のヘレン・ミレンがたいそうビッチで、あまりにビッチすぎてかえってスカッとする。

ビッチビッチしたヘレン・ミレン。
人のアラを見つけようとする意地悪な眼差しがいい。

カーク・ダグラス役のディーン・オゴーマンが若き日のカーク・ダグラスに似ていて驚いた。役づくりのためにカーク・ダグラス本人に手紙を書いてアドバイスを求めたとか。

カークダグラス役のディーン・オゴーマン。ニュージーランド人の役者。そっくりでびっくり。

ダルトン・トランボが脚本を手がけた「スパルタカス」や「栄光への脱出」も近いうちに見てみたい。

スワンソング(Swan Song:2021年、トッド・スティーブンス監督)

ウド・キアが好きだ。怪優という表現がぴったりな役者である。独特な風貌でありながら、どんな役でもしっくりとこなしてしまうのだ。

ひらひらのブラウスやミントグリーンのパンタロンスーツなど、どんな奇抜な衣装も違和感なく馴染む。

ゲイのヘアアーチストで、とてもチャーミングな役柄。亡き親友の死化粧を施すために老人施設を抜け出して旅に出る。旅の間、エイズで亡くなったかつての恋人のことや、それによって差別を受けたこと、ゲイとして年齢を重ねていくことの葛藤などと向き合っていくのだ。昔の友人に出会って昔話に花を咲かせるが、結局それは幻想。だんだん見ているこちら側も現実と幻想の合間を行ったり来たりすることになる。旅の途中で出会う人々の皆がとても優しく温かい。最後はクスっと笑えるし。ちなみにスワンソング(白鳥の歌)とは、Wikiによると、白鳥は死ぬ前に美しい声で鳴くそうで、その言い伝えから、人が亡くなる直前に人生で最高の作品を残すことを表すようになったそうだ。タイトルもストーリーにピッタリで、素敵だ。

ウィッカーマン(The Wicker Man:1973年、ロビン・ハーディ監督)

メイクイーンが舞い踊る明るさの中に怪しさが漂う。

元祖「ミッドサマー」(アリ・アスター監督、2019年)という触れ込みでスカパーで放映された。いわゆる奇祭ホラー映画というやつだ。ただ、ミッドサマーはホラー要素が強いが、ウィッカーマンはもっとミステリー性が強く、ストーリーにも奥行きがある。

行方不明の少女を探すために、スコットランド本土から孤島へ単身渡った巡査部長。厳格なキリスト教徒である彼は、島の風習を異教徒として見下し、何かと島民とぶつかりエラそうに持論を押し付ける。もうそんな状況からして、この人は生きてこの島から出られないのではないかと想像できる。少女の捜索やそれにまつわる謎が最後のどんでん返しに繋がるのも面白い。メイクイーンを選んだり、生贄を捧げたり。ミッドサマーも影響を受けていると思う。私はこちら(ウィッカーマン)の方が好き。

ダンディーな領主役のクリストファー・リー。声が素敵。

テルアビブ・オン・ファイア(Tel Aviv on Fire:2018年、サメフ・ゾアビ監督)

ポスターの右の方にフムスが写っているが、これがドラマのちょっとしたポイントになる。
そしてお腹がすいてくるのだ。

イスラエルvsパレスチナ的な映画で、しかもコメディ。どんなだろうな?ということで興味を持って見てみた。

1960年代、エルサレムに住むパレスチナ人の脚本家見習いの青年。人気ドラマの制作に関わっているが、ひょんなことから検問所でイスラエル軍司令官と知りあう。司令官の妻はドラマの大ファン。司令官がやたらと脚本に口出しするようになり、思わぬ方向へストーリーが展開して….。コメディとはいうものの、パレスチナ人がイスラエル軍の検問所で尋問を受けたり、地区を隔てる高い壁やイスラエル兵士の横柄な態度など、政治色こそ濃くないが、複雑な情勢を皮肉っぽく織り交ぜている。主演のカイス・ナシェフのなよなよぶりが雰囲気を和らげる。

ドリーム・ホース(Dream Horse:2020年、ユーロス・リン監督)

きっと楽しい映画に違いないと思わせるポスター。本当に楽しかった。

スーパーとパブでバイト掛け持ちする一人の主婦が、競走馬を買って育ててレースに出すという、実話をもとにしたという映画。ポスターからして、絶対楽しい内容だと思った。トニ・コレット主演。彼女が競走馬を購入するために村民を出資者として募るのだが、みんなそれぞれ個性的過ぎ。でも意見の違いをいろんな方法で乗り越えていくわけ。なんのかんの反対意見も噴出するけど、問題にぶつかりながらも、協力して助け合う。ほっこりして、ホロっとくることもあり、最後はスカっと気持ちよく終わる。トニ・コレットというと今までクールな役柄のものばかり見てきたが、ここでは馬に対してとても優しい表情を見せる。ああ、馬が、動物が好きなんだなと思わせるのだ。

ほらね。トニ、とても優しい表情。レース中に少女のようにはしゃぐ姿も可愛らしい。

ブラジルから来た少年(The Boys from Brazil:1978年、フランクリン・シャフナー監督)

ナチスの悪名高きメンゲレ医師をグレゴリー・ペックが怪演。さらにナチスハンター役にはローレンス・オリビエという2大名優の共演である。グレゴリー・ペックは「ローレンス・オリビエと共演できるなら」と、悪役を演じることに同意したそうだ。白いスーツ姿(似合う!)で、狂人の如くナチスの残党を演じ、南米に逃亡してあるとんでもない策略を企てる。そして終盤にはローレンス・オリビエと取っ組み合いの死闘を繰り広げるのだ。このツーショットは見もの(笑)。

ドクター・メンゲレを演じたグレゴリー・ペック。血走った目が狂人ぽい。

原作は「ローズマリーの赤ちゃん」の作者アイラ・レヴィン。原題は「The Boys from Brazil」なのだから、邦題も「ブラジルから来た少年たち」とした方がよかったと思う。その方がストーリーに合うはずだ。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴン(Year of the Dragon:1985年、マイケル・チミノ監督)

今年は辰年。ということで、ふと思い出してイヤー・オブ・ザ・ドラゴンを見た。公開当初(日本では1986年)に1度見ているから、それから実に38年ぶりになる。Youtubeで配信していたから久しぶりに見てみた。

ニューヨークのチャイナタウンを舞台に、ミッキー・ローク演じるベトナム帰りの刑事と、ジョン・ローン演じる若きチャイニーズマフィアの対決を描いたバイオレンスもの。やたらと拳銃をバンバン打ちまくり、人がたくさん殺され、あげくには生首シーンもあって、初見当時20代だった私はショックを受けた(今でも平気なわけではないが)。ミッキー・ロークは奥さんや部下が殺されたのに、浮気相手と最後はハッピーエンドになるという展開に釈然としないものを感じたのだ。

ちなみにこの映画が公開された1985年はイヤー・オブ・ザ・ドラゴンではない。
丑年。イヤー・オブ・ザ・カウ、だ。

ジョン・ローンの端正な面持ち、佇まいの美しさは今でも惚れる。このあとラスト・エンペラーを演じたが、その後の活躍が見られなかったのは残念。

ジョン・ローンさま❤️

ラヴィ・ド・ボエーム(La Vie de bohème:1992年、アキ・カウリスマキ監督)

売れない画家、脚本家、音楽家がまったくの偶然から知り合い、共同生活。
それだけですでにドラマだ。

アキ・カウリスマキ監督の映画では「レニングラードカウボーイズ・ゴー・アメリカ」「過去のない男」「コンタクトキラー」が好きな上位3本であるが、今回また好きな映画が一つ増えた。画家と脚本家と音楽家の貧しい3人の共同生活。人のものは自分のもの。自分のものは人のもの。パンも酒も服もなんでも分かち合い、貧しいながらもしたたかに、ユーモラスに生きながら、最後は切ないエンディングとなる。小さな3輪自動車に6人乗り込み公園へピクニックへ行くシーンが美しい。どのカットも絵になるほどだ。最後に流れる「雪の降る街を」が泣ける。エンディングにこの曲を持ってくるカウリスマキ監督のセンスにただただ感服。最新作の「枯れ葉」も楽しみ。

カウリスマキ監督の愛犬「ライカ」も登場。役名はボードレール。
どんなに困窮しても犬のエサは欠かさない、心優しい画家ロドルフォを演じるマッティ・ペロンパー。
好きな役者の一人である。右下にある楕円形の物体は何なのか、気になる。

古い映画を見て感じるのだが、みな一様にタバコを吸う。それが演出の小道具であるかのように。老いも若きも。どんな場面でもタバコが登場する。

イヤー・オブ・ザ・ドラゴンだってラヴィ・ド・ボエームだって、登場人物のほとんどがタバコを吸うし、吸っていないシーンの方が少ないぐらいだ。

いやいや、最近の映画だって。スワンソングのウド・キアなんか、ずーっとタバコをくわえっぱなしで、有り金はたいてタバコを買う場面すら出てくる。

テレビドラマは規制があってうるさいが、映画界はまだまだタバコシーンは多いのだな。まあ見ている分には受動喫煙にはならないし。臭くもないし。

ということで長々とお付き合いいただきありがとうございました。また2月に見た映画をまとめますので、見ていただけるとうれしいです。ではまた。

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