第28回ESG投信に関する「監督指針」の改正について

株式会社日本資産運用基盤グループのJAMPビジネス・イノベーションは、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。

今回は、金融庁から2022年12月19日に公表された「ESG投信に関する「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)」についてです。なおこの改正案は、令和5年1月27日までの間、意見募集に付されていましたので、当該パブリックコメントの結果は近日中に公表されるものと思われます。


1.今般の監督指針改定の背景

まず、金融庁が2022年5月に取りまとめた「資産運用業高度化プログレスレポート2022」の「Ⅱ.ESG関連公募投資信託を巡る状況」の最後に記載された「ESG投信を取扱う資産運用会社への期待」の存在があります。それは、近年、名称や投資戦略においてESGを掲げるファンドが国内外で増加しており、運用実態が見合っていないのではないかとの懸念(グリーンウォッシング問題)が世界的に指摘されている中で、金融庁において2021年11月以降、国内の資産運用会社37社・投資信託225本を対象に調査を実施して、取りまとめたものです。

20220527_1.pdf (fsa.go.jp) 

概要は次の通りです。


「ESG投信を取扱う資産運用会社への期待」の概要

資産運用会社において、提供するESG投信の特徴や運用プロセスの説明として「ESG要素を考慮

している」等の記載を行っている場合は、以下の事項に留意し、取組みの改善・向上を図ることが

期待される。

(1)運用プロセス・アプローチの一層の強化を継続的に図るとともに、顧客が投資判断を適切に行えるよう、運用プロセスの実態に即して一貫性のある形で、明確な説明や開示を行うべき。

(2)サステナビリティ推進体制の強化やESG投資手法の高度化などを所掌する部署の設置やESG専門人材の確保等、ESG投資を実施するための実効的な体制整備を進めるべき。

(3)ESGアナリストや運用チームが、個別企業に関するESG評価の内容や理由を正確に共有し、適切な企業価値の推計や企業に対するエンゲージメントを行えるよう、ファンドマネージャーの属人的な判断のみに委ねず、組織としての一貫性や継続性が確保された体系的な対応も進めていくべき。

(4)より深度ある企業調査・分析を行うため、ESG評価や個別データの正確性や質を確保する観点から、ESG評価・データ提供機関に対する適切な検証を行うべき。

(5)投資戦略に応じて、積極的なスチュワードシップ活動を行い、銘柄選定時に特定したESG関連の事業機会の向上・事業リスクの低減により、企業価値の向上を図るべき。

(6)顧客が投資商品の内容を誤解することなく正しく理解し、他の商品と比較するなどして適切な投資判断を行えるよう、運用プロセスの実態に即して一貫性のある形で、適切な情報提供や開示を積極的に進めるべき。

(7)受託者責任を果たす観点から、外部委託先に対する適切な管理を行い、顧客に対して、商品特性に応じた正確な情報提供を行うべき。


2.監督指針の改正

上記の「ESG投信を取扱う資産運用会社への期待」を受ける形で、金融庁が、金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針の所要の改正を行ってESG投信の範囲を定めるとともに、ESGに関する公募投資信託の情報開示や投資信託委託会社の態勢整備について、具体的な検証項目を定めるものです。

「金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針」の一部改正(案)(新旧対照表)

概要は次の通りです。


「監督指針改正案(Ⅵ-2-3-5 ESG投信に関する留意事項)」の概要

(1)ESGを投資戦略の主要な要素として掲げる我が国の公募投資信託(以下「ESG投信」)について、市場の信頼性を確保し、ESG投資の促進及び持続可能な社会構築を図る必要がある。このため、投資家の投資判断に資するよう、ESGに関する公募投資信託の情報開示や投資信託委託会社の態勢整備について、以下の点に留意して検証する。

(2)ESG投信は、下記に該当する公募投資信託とする。

①ESGを投資対象選定の主要な要素としており、かつ、

②交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に、その旨を記載しているもの等

(3)開示

    ①投資家に誤解を与えることのないよう、ESG投信に該当しない公募投資信託の名称又は愛称に、ESG、SDGs(Sustainable Development Goals)、グリーン、脱炭素、インパクト、サステナブルなど、ESGに関連する用語が含まれていないか。

②ESG投信の交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に、ESGの総合評価又は環境や社会の特定課題等、投資対象選定の主要な要素となるESGの具体的内容等を記載しているか。

③ESG投信の純資産額のうち、ESGを主要な要素として選定する投資対象への投資を目標や目安としている場合、又は、ESG投信の投資戦略において主要な要素となるESGの評価指標について、目標や目安を設定している場合、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に、当該比率やその他の計数を記載しているか。目標や目安を設定していない場合、その理由を説明しているか。

④公募投資信託の運用において、特定のESG指数への連動を目指す場合、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」に、参照指数におけるESGの勘案方法を記載しているか。

⑤ESG投信の交付運用報告書及び交付目論見書の「運用実績」に、以下の事項を継続的に記載しているか。

イ. 純資産額のうち、ESGを主要な要素として選定した投資対象への投資について、目標や目安とする比率がある場合には、実際の投資比率

ロ. 投資戦略において主要な要素となるESGの評価指標について、目標や目安を設定して

いる場合には、その達成状況

ハ. 持続可能な社会の構築に向けて、環境や社会のインパクト創出を目的としているESG投信について、インパクトの達成状況

ニ. 投資信託委託会社として、ESGを主要な要素とする投資戦略に関連するスチュワードシップ方針がある場合、当該方針に沿って実施した行動

ホ. イ~二について、詳細をウェブサイト等で開示する場合には、その参照先

⑥ESG投信の運用を外部委託する場合、外部委託先に対する適切なデューディリジェンスや運用状況の確認を行い、交付目論見書の「ファンドの目的・特色」や交付運用報告書に、外部委託運用の②~⑤の内容を反映した開示がなされているか。これらの開示が困難な場合には、その理由を説明しているか。

(4)態勢整備等

①ESGに関連するデータやITインフラの整備、人材の確保等、ESG投信の投資戦略に沿った運用を適切に実施し、実施状況を継続的にモニタリングするためのリソースを確保しているか。ESG投信の運用を外部委託する場合には、上記のリソースの状況を把握する等、外部委託先に対するデューディリジェンスや(3)②~⑤の内容の確認を行うための体制を整備しているか。

②公募投資信託の運用プロセスにおいて第三者が提供するESG評価を利用する場合や自社のESG評価に第三者が提供するデータを利用する場合、ESG評価・データ提供機関の組織体制や評価の対象、手法、制約及び目的を理解する等、デューディリジェンスを適切に実施しているか。


3.グリーンウォッシング問題とは

グリーンウォッシングとは、環境に配慮したイメージを思わせる「グリーン」と、上辺だけという意味の「ホワイトウォッシュ」を組み合わせた造語で、実態はそうではないのに、環境に配慮しているように見せかけて環境意識の高い消費者に誤解を与えるようなことを指します。

最近のある調査では、回答した消費者の85%が「購入行動において、企業が環境に配慮していることを重視する」、さらにその多くが「持続可能な代替品にもっとお金を払っても構わない」と考えていると言う結果も出ているそうです。

金融庁が「資産運用業高度化プログレスレポート2022」において、特に「ESG関連公募投資信託を巡る状況」を取上げ、「ESG投信を取扱う資産運用会社への期待」を公開し、更には監督指針を改正してESG投信を定義し、投資家の投資判断に資するような情報開示の内容や、投資信託委託会社の態勢整備に関する確認内容等を公開すると言う事は、本問題への関心の深さと、その対応への相当の本気度を感じさせるものです。

従いまして、ESG投信を設定・運用する投資信託委託会社だけではなく、投資一任会社や投資助言会社等の金融商品取引業者全体としても、今般の金融庁の示唆するところに真摯に対応し、もって市場の信頼性を確保し、ESG投資の促進及び持続可能な社会構築を図る必要があるものと考えます。


当社は、国際金融都市を目指している東京都に協力して、金融商品取引業に関する登録申請手続き及び金融商品取引業者等の内部管理体制強化等に関する国内外の方々のご相談に対応させていただいております。ご心配な点等ございましたら、是非当社までお問合せ下さい。



以上

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