第23回「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る態勢整備の期限設定について」―シリーズ4

株式会社日本資産運用基盤グループのJAMPビジネス・イノベーションは、金融商品取引業者様及びその登録を目指しておられる方々向けに、当局の動向などをまとめた「JAMPコンプラ・メルマガ」を発信しています。

今回は、先般5月にお伝えしている令和3年4月28日付で、「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る態勢整備の期限を2024年3月に設定」されたことが金融庁のホームページに公表されたことについての、シリーズ4となる「リスクの低減およびリスクの低減においての「顧客管理」(カスタマー・デュー・ディリジェンス:CDD)」についてのお話です。


■「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)の改正までの振り返り


ガイドラインの策定・公表から3年が経過し、金融機関等において態勢整備への意識が浸透してきたことから、より実効的な態勢整備を行うよう、今般、ガイドラインで対応を求めている事項に対する完了期限(2024年3月)を設け、態勢を整備することが、各業態団体を通じて要請されました。


・2018年2月「ガイドライン」の公表

・2019年4月に一部改正。

・2020年12月11日から2021年1月22日にかけて公表し、広く意見の募集が行われ137件の寄せられたコメントを踏まえ、「ガイドライン」の趣旨をより明確化するために改正が行われました。


今回の改正では、今まで「対応が期待される事項」であった事項が多数「対応が求められる事項」に格上げされ、2019年4月改正時よりも大幅な改正となっています。


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リスクの低減について

ガイドラインには、自らが直面するマネロン・テロ資金供与リスクを低減させるための措置は、リスクベース・アプローチに基づくマネロン・テロ資金供与リスク管理態勢の実効性を決定付けるものであると記されています。

また、リスク低減措置は、個々の顧客やその行う取引のリスクの大きさに応じて実施すべきものであり、自らが定めるところに従って、マネロン・ テロ資金供与リスクが高い場合には、より厳格な措置を講ずることが求められる一方、リスクが低いと判断した場合には、より簡素な措置を行うことが許容されることも記されています。


リスクの低減に際し、具体的に対応が求められる事項として、以下のように記載されています。


① 自らが特定・評価したリスクを前提に、個々の顧客・取引の内容等を調査し、この結果を当該リスクの評価結果と照らして、講ずべき実効的な低減措置を判断・実施すること

② 個々の顧客やその行う取引のリスクの大きさに応じて、自らの方針・ 手続・計画等に従い、マネロン・テロ資金供与リスクが高い場合にはより厳格な低減措置を講ずること

③「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」の記載事項のほか、業界団体等を通じて共有される事例や内外の当局等からの情報等を参照しつつ、自らの直面するリスクに見 合った低減措置を講ずること


「顧客管理」(カスタマー・デュー・ディリジェンス: 以下、「CDD」)について

リスク低減措置のうち、リスクの特定およびリスクの評価を前提として、個々の顧客の情報や当該顧客が行う取引の内容等を調査し、調査の結果をリスク評価の結果と照らして、講ずべき低減措置を判断・実施する一連の流れをガイドラインにおいて「CDD」と呼んでおり、これはリスク低減措置の中核的な項目としています。

また、個々の顧客に着目した手法のほかにも、取引状況の分析・異常取引の検知等の個々の取引に着目した手法があり、これらを組み合わせて実施していくことが有効であると記されています。


「CDD」に際し、具体的に対応が求められる事項として、以下のように記載されています。


① 自らが行ったリスクの特定・評価に基づいて、リスクが高いと思われる顧客・取引とそれへの対応を類型的・具体的に判断することができるよう、顧客の受入れに関する方針を定めること

② 前記①の顧客の受入れに関する方針の策定に当たっては、顧客及びその実質的支配者の職業・事業内容のほか、例えば、経歴、資産・収入の状況や資金源、居住国等、顧客が利用する商品・サービス、取引形態等、顧客に関する様々な情報を勘案すること

③ 顧客及びその実質的支配者の本人特定事項を含む本人確認事項、取引目的等の調査に当たっては、信頼に足る証跡を求めてこれを行うこと

④ 顧客及びその実質的支配者の氏名と関係当局による制裁リスト等とを照合するなど、国内外の制裁に係る法規制等の遵守その他リスクに応じて必要な措置を講ずること

⑤ 信頼性の高いデータベースやシステムを導入するなど、金融機関等の規模や特性等に応じた合理的な方法により、リスクが高い顧客を的確に検知する枠組みを構築すること

⑥ 商品・サービス、取引形態、国・地域、顧客属性等に対する自らのマネロン・テロ資金供与リスクの評価の結果(Ⅱ-2(2)で行うリスク評価)を踏まえて、全ての顧客について顧客リスク評価を行うとともに、 講ずべき低減措置を顧客リスク評価に応じて判断すること

⑦ マネロン・テロ資金供与リスクが高いと判断した顧客については、以下を含むリスクに応じた厳格な顧客管理(EDD)を実施すること

イ. 資産・収入の状況、取引の目的、職業・地位、資金源等について、リスクに応じ追加的な情報を入手すること

ロ. 当該顧客との取引の実施等につき、上級管理職の承認を得ること

ハ. リスクに応じて、当該顧客が行う取引に係る敷居値の厳格化等の取引モニタリングの強化や、定期的な顧客情報の調査頻度の増加等を図ること

ニ. 当該顧客と属性等が類似する他の顧客につき、顧客リスク評価の厳格化等が必要でないか検討すること

⑧ 顧客の営業内容、所在地等が取引目的、取引態様等に照らして合理的ではないなどのリスクが高い取引等について、取引開始前又は多額の取引等に際し、営業実態や所在地等を把握するなど追加的な措置を講ずること

⑨ マネロン・テロ資金供与リスクが低いと判断した顧客については、当該リスクの特性を踏まえながら、当該顧客が行う取引のモニタリングに係る敷居値を上げたり、顧客情報の調査範囲・手法・更新頻度等を異にしたりするなどのリスクに応じた簡素な顧客管理(SDD)を行うなど、円滑な取引の実行に配慮すること

(注1) この場合にあっても、金融機関等が我が国及び当該取引に適用される国・地域の法規制等を遵守することは、もとより当然である。

(注2) FATF、BCBS 等においては、少額・日常的な個人取引を、厳格な顧客管理を要しない取引の一例として挙げている。

⑩ 「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」Ⅱ-2 リスクの特定・評価・低減(3)リスクの低減「(ⅴ)疑わしい取引の届出」における【対応が求められる事項】 のほか、以下を含む、継続的な顧客管理を実施すること

イ. 取引類型や顧客属性等に着目し、これらに係る自らのリスク評価や取引モニタリングの結果も踏まえながら、調査の対象及び頻度を含む継続的な顧客管理の方針を決定し、実施すること

ロ. 各顧客に実施されている調査の範囲・手法等が、当該顧客の取引実態や取引モニタリングの結果等に照らして適切か、継続的に検討すること

ハ. 調査の過程での照会や調査結果を適切に管理し、関係する役職員と共有すること

ニ. 各顧客のリスクが高まったと想定される具体的な事象が発生した場合等の機動的な顧客情報の確認に加え、定期的な確認に関しても、確認の頻度を顧客のリスクに応じて異にすること

ホ. 継続的な顧客管理により確認した顧客情報等を踏まえ、顧客リスク評価を見直し、リスクに応じたリスク低減措置を講ずること特に、取引モニタリングにおいては、継続的な顧客管理を踏まえて見直した顧客リスク評価を適切に反映すること

⑪ 必要とされる情報の提供を利用者から受けられないなど、自らが定める適切な顧客管理を実施できないと判断した顧客・取引等については、取引の謝絶を行うこと等を含め、リスク遮断を図ることを検討すること

その際、マネロン・テロ資金供与対策の名目で合理的な理由なく謝絶等を行わないこと


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■「対応が求められる事項」への対応が不十分と認められた場合には、

「ガイドライン」の要請事項に係る各金融機関の取組状況について、検査やモニタリングを通じて確認していくほか、管理態勢に問題があると認められる場合には、報告徴求・業務改善命令などの法令に基づく行政対応を含む対応を実施する旨が記載されています。


このメルマガをお読みになられていらっしゃる金融機関の方々におかれましては、本稿が貴社の取締役会や経営会議などの場における協議のご参考にしていただけるようでしたら幸いです。

引き続き、皆様方の「マネー・ローンダリング及びテロ資金供与対策に係る態勢整備」に向けた一助となりますように、シリーズでこのトピックを掲載させていただく予定です。


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