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ヴァイキングの綽名いろいろ

ヴァイキング時代の北欧人には姓がなく、名前の後に父称をつけていました。
エイリーク・ホーコナルソン(ホーコンの息子エイリーク)、オーラヴ・トリュグヴァソン(トリュグヴィの息子オーラヴ)、テュリ・ハラルズドーティル(ハラルドの娘テュリ)などです。
男子には息子を表わすソン、女子には娘を表わすドーティル(ドッティル)が付きます。
同じ名前の人物が多かったので、父称や綽名で区別していたようです。


『エギルのサガ』の主人公エギル・スカラグリムソンはアイスランドのスカルド詩人で、典型的なヴァイキングです。
ハラルド美髪王以後のノルウェー王とは確執があったり、友情があったり。

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エギル・スカラグリムソン(13世紀の写本より)


父称のスカラグリムソンは、「禿のグリムの息子」 の意味。
お父さんのグリムさんは禿げていたのですね。


王様も同じ名前が多かったので、綽名があります。
ハラルド美髪王(ハーラル1世)、ハラルド灰衣王(ハーラル2世)、ハラルド苛烈王(ハーラル3世)……等々。


ハラルド美髪王の末息子ホーコン1世は「善王」 と呼ばれていますが、これは彼の没後に付いた綽名のようです。
欧州はキリスト教世界ですから、「善きキリスト教徒の王」 という意味もあるみたいですが、

「ホーコン王は陽気な男で、雄弁ながら奢り高ぶることもなかった。また、ひじょうに賢明で、立法に大きな関心を示していた」

と、『ホーコン善王のサガ』(谷口幸男訳)に書かれているところから、彼の性質にも大いに関係があるのではないかと思います。

ホーコン王のもう一つの綽名は、「アザルステインの養子」。
実父のハラルド美髪王が末っ子(ホーコン)の養育を英国のアゼルスタン王に任せたからです。
(この綽名はホーコンの在位中からあったようです)
※アザルステインはアゼルスタンのノルド語読み
 アゼルスタン王はアルフレッド大王の孫で、最初のイングランド王

さらにホーコン王は「諸芸をきわめ、身の丈すぐれ、力は強く、誰にもまして眉目秀麗」(『ホーコン善王のサガ』谷口幸男訳)だったそう。
サガの記述は、たとえ相手が王であっても容姿や性格について辛辣ですが、ホーコン王のことは褒めまくってます。


肥満王と綽名されたオーラヴ2世(聖王)については、
「背は高からず中背で、ひじょうに頑健で力が強く、髪は淡褐色で、顔は大きく、明るくて赤みをおび、目はひじょうに美しく、いきいきとしていた。だが、眼光は鋭く、怒っているときその目を見るのは恐ろしいほどだった」
と、『オーラヴ聖王のサガ』(谷口幸男訳)にかなり細かく書かれています。


綽名の付け方は、
①容姿や見た目によるもの
②性質、性格によるもの
③その他
に分かれるようです。

①に属するのは、ハラルド美髪王、ハルヴダン黒髪王、オーラヴ肥満王、スヴェン双髭王、赤毛のエイリーク、のっぽのトルケルなど。

②に属するのは、エイリーク血斧王、ホーコン善王、ハラルド苛烈王、無口のソーリル、蛇舌のグンラウグ、野心のシグリーズ、深慮のウンなど。

③に属するのは、ハラルド灰衣王(灰色のマントを流行らせた)、幸運のレイヴ(ヴィンランド発見者)、雌鶏のソーリル(雌鶏を商っていた)など。

髪色については、「黒髪」「赤髪」「白髪」の3種類がサガによく出てきます。
金髪、茶髪が綽名にならないのは、それらの髪色をしていた人が大半で、綽名にするほど珍しくなかったからではないかと思われます。

サガには沢山の興味深い綽名が出てきますが、その人物の人となりが思い浮かぶようで、とても面白いですね。

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