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アイスランド・サガの翻訳書案内
1970年代以降、大変ありがたいことに数多くのサガが北欧中世史や北欧古典の研究者によって日本語に翻訳されている。
最近では、北欧神話を題材にしたゲームや、アニメ化もされている人気漫画『ヴィンランド・サガ』(幸村誠著)、海外ドラマ『VIKINGS 海の勇者たち』などから北欧の古典であるエッダ・サガに興味を持たれた方も多くいらっしゃることと思う。
散文作品である〈サガ〉は、主にノルウェー王の事績を扱う〈王のサガ〉、アイスランド移住者たちを主人公にした〈アイスランド人のサガ〉、伝説的な英雄の生涯を描いた〈伝説的サガ〉、キリスト教の司教らの話を扱う〈宗教的学問的サガ〉に分けられる。
※谷口幸男著『エッダとサガ ―北欧古典への案内―』による分類
サガの多くは13世紀に書かれているが、例えば〈アイスランド人のサガ〉に分類される話の多くは、10~11世紀のアイスランド人たちの家系についての説明から始まる。一族の祖はノルウェーからの移住者で、彼らの子孫たちが土地を受け継いだり、別の場所へ移り住み、その地の有力な一族と婚姻関係を結んだりしている。それぞれのサガの主人公を中心に、彼(または彼女)と家族の日々の営みが生き生きと描かれている。
書かれた時期がサガの舞台となっている時代から200年ほどを経ているため、史料として扱えるか否かは問われるところだが、農場での暮らしや商取引、当時の慣習(とりわけ訴訟や血讐など)についての記述は大いに参考になるのではないかと思う。
この記事では、これまでに出版されたサガの翻訳書の一部を紹介する。
『アイスランド サガ』
谷口幸男訳 新潮社 1979年
![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/84091292/picture_pc_68b09713d338c1a52fdf3771e64cc844.jpg?width=800)
サガ翻訳の草分け的存在である谷口幸男氏が翻訳された6作品を収録。
「エギルのサガ」
「グレティルのサガ」
「ラックサー谷の人びとのサガ」
「エイルの人びとのサガ」
「ヴォルスンガサガ」
「ニャールのサガ」
シグルズ伝説(ジークフリートの北欧版)「ヴォルスンガサガ」を除く5編はアイスランド人のサガの〈五大サガ〉と呼ばれることもあり、いずれも大作である。
サガを読みたいけれど、何から手を付けてよいかわからない……と思われた方におすすめの書籍。
ただ、箱入りで分厚く重い上、現在は絶版しており、中古市場で入手するか図書館で借りるしかない。
谷口幸男氏は、他に下記の翻訳作品がある。
★が付いているものは現在も新品で購入可能
★『エッダ ―古代北欧歌謡集』新潮社
★『ヘイムスクリングラ ―北欧王朝史』(一)~(四)
プレスポート・北欧文化通信社
★『北方民族文化誌』上・下 オラウス・マグヌス著 溪水社
『デンマーク人の事績』サクソ・グラマティクス著 東海大学出版会
『赤毛のオルムの冒険』フランス・G. ベングトソン著 社会思想社
※『ヘイムスクリングラ』は歴代ノルウェー王のサガ
※『赤毛のオルムの冒険』は現代スウェーデンの作家によるヴァイキング小説だが、サガのような物語で面白い
『サガ選集』
日本アイスランド学会編訳 東海大学出版会
1991年
![画像4](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/84091313/picture_pc_3ffaa8773fac99471d31193ab9348c16.jpg?width=800)
日本アイスランド学会設立10周年の記念出版物。
錚々たるメンバーによる翻訳で9作品を読むことができる。用語解説付き。
「アイスランド人の書」 中島和男訳
「めんどりのソーリルのサガ」 大塚光子訳
「蛇舌グンラウグのサガ」 菅原邦城訳
「グリーンランド人のサガ」 谷口幸男訳
「棒打たれのソルステインのサガ」 早野勝巳訳
「ヴェストフィヨルド人アウズンの話」 清水育男訳
「ハーコン善王のサガ」 八亀五三男訳
「勇士殺しのアースムンドのサガ」 西田郁子訳
「司教パールのサガ」 阪西紀子訳
用語解説 熊野聰
『アイスランド サガ』収録作品の次に読みたいサガが揃っているが、残念ながら、こちらも絶版……。
「グリーンランド人のサガ」は「赤毛のエイリークのサガ」とともに「ヴィンランド・サガ」と称されることもある。
幸村誠氏の『ヴィンランド・サガ』に登場するトルフィン・カルルセヴニとグズリーズのモデルと思われる二人も主要な人物として描かれている。
「ハーコン善王のサガ」は『ヘイムスクリングラ ―北欧王朝史』(一)に谷口幸男訳がある。内容に大きな隔たりはなく、安心して読める。
『アイスランドのサガ 中篇集』
菅原邦城 早野勝巳 清水育男訳
東海大学出版会 2001年
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2000年代に入り、久しぶりに出版されたサガの翻訳集。
「〈フレイル神ゴジ〉フラヴンケルのサガ」 菅原邦城訳
「ヴァープナフィヨルドのサガ」 早野勝巳訳
「ドロプラウグの息子たちのサガ」 早野勝巳訳
「パンダマンナ・サガ」 菅原邦城訳
「〈赤毛〉のエイリークルのサガ」 清水育男訳
※「赤毛のエイリークのサガ」は、山元 正憲氏による新訳がプレスポートから出ているので、読み較べてみるのもおすすめ。
菅原邦城氏の翻訳は、他に下記のものがある。
『古代北欧の宗教と神話』フォルケ・ストレム著 人文書院
『巫女の予言―エッダ詩校訂本』シーグルズル ノルダル著 東海大学出版会
『ゲルマン北欧の英雄伝説 ヴォルスンガ・サガ』 東海大学出版会
『オージンのいる風景―オージン教とエッダ』ヘルマン パウルソン著 東海大学出版会
『サガのこころ 中世北欧の世界へ』ステブリン=カメンスキイ著 平凡社
その他、デンマーク語入門など多数
早野勝巳氏の翻訳・著作は、
『ヴァイキングの世界』ジャクリーヌ・シンプソン著 東京書籍
『デンマーク文学史』 ビネバル出版
『バイキング王ハラルドの冒険』 東京書籍
『バイキング王ハラルドの冒険』はハラルド苛烈王を主人公にした歴史物語。子供向けながら本格的な内容であるのはやはり研究者の筆だからか。
このほか、複数のサガが収録されているものとしては、
『スカルド詩人のサガ コルマクのサガ / ハルフレズのサガ』
森 信嘉訳 東海大学出版会 がある。
![画像1](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/84087452/picture_pc_80b12805ed13ad0754846384f83e1206.jpg?width=800)
収録されている2作品はいずれもスカルド詩人が主人公。物語性が高く、フランスあたりの騎士物語の影響もありそうだが、ヴァイキングらしい場面(決闘や訴訟)も多く描かれている。
スカルド詩人の作といえば彼らが仕えた主君の頌歌がよく知られているが、「コルマクのサガ」と「ハルフレズのサガ」には報われない愛を謡った恋愛詩が沢山収録されている。
「オーラヴ・トリュグヴァソンのサガ」で主君オーラヴ王から〈厄介詩人〉の綽名を頂戴したハルフレズの異なる一面が観れるのが面白い。
二篇のサガのほか、「初期アイスランド文学概説」と付録(サガ登場人物の系図、関連地図、サガ関連年表)が25ページほど付いている。
2005年に出版された書籍ながら、現在は入手困難になっている模様。このまま埋もれさせるには惜しい本なので、復刊を期待したい。
2009~2010年には待望の『ヘイムスクリングラ』の邦訳がプレスポート・北欧文化通信社より1000点世界文学大系(北欧篇)として刊行された。
訳者は谷口幸男氏。
![](https://assets.st-note.com/img/1677805616549-9hDodt8zA8.jpg?width=800)
『ヘイムスクリングラ』はアイスランド出身のスノッリ・ストゥルルソンが著したノルウェー王朝史。サガの分類では〈王のサガ〉にあたる。
各巻に収録されている〈王のサガ〉は以下の通り。
(一)
「ユングリンガ・サガ」
「ハルヴダン黒髪王のサガ」
「ハラルド美髪王のサガ」
「ハーコン善王のサガ」
「灰色マントのハラルド王のサガ」
(二)
「オーラヴ・トリュッグヴァソンのサガ」
「オーラヴ聖王のサガ」(一)
(三)
「オーラヴ聖王のサガ」(二)
「マグヌース善王のサガ」
(四)
「ハラルド苛烈王のサガ」
「〈無口のオーラヴ王〉のサガ」
「〈素足のマグヌース王〉のサガ」
「マグヌースソンのサガ」
「〈盲目のマグヌース〉とハラルド・ギリのサガ」
「ハラルドの子のサガ」
「〈広肩のハーコン王〉のサガ」
「マグヌース・エルリングスソンのサガ」
※(一)に序文と解説、全巻にそれぞれ関連地図と年表、索引が付いている
(現在も新品で購入可能。電子書籍版もあり)
プレスポート・北欧文化通信社からは、アイスランド・サガのシリーズとして「ギスリのサガ」、「赤毛のエイリークのサガ(他)」、「赤毛のエイリークの末裔たち ―米大陸のアイスランド人入植者―」、「赤毛のエイリークの末裔たち(2)―ニューアイスランダー―」が出ている。
(いずれも新品購入可能)
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/84088683/picture_pc_d89bfff1040ce27e62da018be2077ac2.png)
本の紹介記事にもかかわらず、絶版書籍が多くて申し訳ありません。
近年はまとまったサガの翻訳書が出ていませんが、研究者が紀要等に発表されているものが幾つかあります。
まだ日本語に翻訳されていないサガも数多く、なかには面白いものもあるので(オークニー諸島の人々のサガなど)、いずれ世に出していただけたら……と願うばかりです。
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