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楠木建著「ストーリーとしての競争戦略」のススメ

ストーリーとしての競争戦略」は今から14年前に出版された書籍で、この本の名前を知ったのは、当時僕が勤めていたソニーグループの役員だった十時さん(2024年時点でソニー社長)が、全社会議で軽く紹介していたことがきっかけだった。

本来ならその時に読むべきだったのだが、当時の僕はMBAを卒業した後に、実践の場として就職した職場で、MBAで学んだ様々な理論やフレームワークが全然に立たない現実に直面しており、ビジネス書疲れを起こしてしまっていた。

代わりにハマっていたのは中国や日本の歴史小説で、歴史の偉人達の足跡からビジネスや人生についての本質的なヒントを学びたいと思っていた。

あれから10年以上経って、今更ながらようやく「ストーリーとしての競争戦略」を手に取って読了することができた。500頁くらいの中々分厚い書籍だったが、読み始めてほんの数日で読み終えてしまった。

感想としては、最高に面白い本だった。出版当時に手に取らなかったのは本当に大きな失敗だったと思う。

以下、個人的に面白かったと思うポイントを備忘録としてまとめてみたいと思う。

ポイントその1:様々な競争戦略のフレームワークの総括ができる

「ストーリーとしての競争戦略」では、ポーターの競争戦略や、ポジショニング分析、トヨタのカンバン方式など今まで書籍で学んできたものを、それぞれが競争戦略の中でどのような位置付けにあるのか、繋がりを教えてくれる。

楠木氏は、企業の様々な競争戦略をOCとSPのふたつに分類している。SPはStrategic Positioningの略で、OCはOrganizational Capabilitiyの略になる。

以下は読みながら僕の頭の中に浮かんできたイメージなのだが、企業のあらゆる打ち手は、SP=WhatとCP=Howの組み合わせであることが分かる。

著書によると、「現実にはSPとOCの間にはテンションがあり、企業の戦略思考はどちらかに偏るのが普通」とのことで、様々な企業を見ると確かにその通りかもしれない。

しかし、リクルートのような企業を見ると、リクルートはどちらにも恐ろしく秀でているように感じる。本書はリクルートのホットペッパーの事例も出てくるが、ちょうどこの書籍を読む前に、「リクルートのすごい構“創”力: アイデアを事業に仕上げる9メソッド」を読んでいたのだが、この本を読むとリクルートのSPとCPの凄さを垣間見ることができる。

なお、上記書籍はもう7年以上前に発行されたものだが、リクルートの事業がどのように始まり発展しし続けているのかは、最近ハマっているハイパー起業ラジオのシリーズ3「リクルート編」に詳しく解説されている。

ポイントその2:フレームワークの限界を改めて知ることができる

様々なビジネス書やMBAのクラスで多くのビジネスフレームワークを学んだが、正直、実際のビジネスのシーンでは殆ど役に立たなかった。唯一良かったと思うのは、ロジカルシンキングや概念思考についての頭の体操になった、ということくらいではないかと思う。

ストーリーとしての競争戦略」では、なぜこういったビジネスフレームワークや、他社のベストプラクティスなるものが機能しないのか、その理由を様々な角度から考察している。

詳しい考察については、ぜひ本書を読んでいただければと思うが、僕が実感した最も大切なポイントは、結局自分の目で事象を深く観察し、自分の頭で考え抜くしかない、という当たり前の事実だ。

様々なフレームワークのテンプレートが有害になり得るのは、なんとなく戦略的なことをやっているという錯覚に陥って、実は思考が停止してしまうことではないかと思う。

ポイントその3:個人として応用する上での限界と可能性

本書には戦略ストーリーの様々な事例や、それらを考えた登場人物が紹介されているが、その多くは事業を起こした起業家となる。サラリーマンとして登場したのはリクルートや日本テレビなどの事業部長クラスの人間なので、本書で紹介されている様々なエッセンスを応用するのは、組織の一歯車になってしまっている人間にとっては、実際問題、社内起業でもしない限り応用するのは容易ではないように思える。

事業部長クラスになったとしても、前任者から今までの組織や事業戦略を引き継いでいる訳で、SPにせよCPにせよ、大きな方向転換はかなりの調整労力が必要になるはず。

しかし一方で、個人のキャリア開発に視点をずらしてみると、応用できる色々なエッセンスを学ぶことができる。

業界の競争環境を分析し、理解することは就職や転職する際に非常に役立つはずで、業界ごとに標準的な利益率が変わっていることをよく理解すれば、自分が行こうとしている業界が、自分の期待する収入を与えてくれるかどうか、冷静に判断することができる。

以下のマトリックについても、どの職種を選び、そこでどのように働き組織に貢献できるのか、深く考えるきっかけを与えてくれる。

また、本書の最後のパートで、示唆に富んだ記述がある。

「好きこそものの上手なれ」です。自分が好きで、心底面白いと思えることであれば、人は持てる力をフルに発揮できます。その結果、良い仕事ができるし、自分以外の誰かの役に立てる。人の役に立っているという実感が、ますますその仕事を面白くする。ますます好きになり、能力に磨きがかかる。こうした好循環が仕事を持続させるのだと思います。「世のため人のため」はつまるところ「自分のため」ですし、本当に「自分のため」になることをしようとすれば、自然に「世のため人のため」になります。

全く同感で、自分の好きなことを仕事にできれば本当に幸福な仕事人人生を送ることができると思う。

まとめ

非常に面白かった本書だが、このまま2週目に入ろうと思っている。2回読むことで、さらに理解を深めることができるし、今の自分の仕事や今後のキャリアについての洞察をさらに深めることができると思う。

まだ読まれていない方は是非一読いただければと思う。過去色々な戦略論についての書籍を読んだことがある人は、それらを頭の中で再整理する助けになるだろうし、今まで戦略論について馴染みのなかったは、この書籍を最初に読んでから他の書籍を読むと、他の書籍についての理解をさらに深めることができるはず。


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