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オンオフ最上位ピカチュウの統計学的比較①

初めに

 初めまして。スマブラSPでピカチュウをメインに使っているジャムと申します。今回,ピカチュウというファイターでオンラインを勝ち続けるのが非常に難しく感じており,標記のようなことを考えてみました。
 ピカチュウはTier listで様々なプレイヤーがほぼ毎回,最高ランクに位置付けている印象があります。しかし,スマメイトのランキングではディディーやスティーブ,ロボットなどに比べると高レート人口の割合が高いとは言えません。なぜこのような乖離が起きるのでしょうか?
 オンの舞台では唯一,ショーリミさんがピカチュウでレート2200を達成しています(15期,レート2211で全体13位)。オフでは大会への参加は少ないものの,キシルさんが篝火#5で13位タイという結果を残しています。この最上位2人のピカチュウを比較して,オンとオフの違いでピカチュウが勝ちづらくなる要因などがあるのかを統計学的に検討してみたいと思います。
 ESAMやShinymarkなど海外最上位ピカチュウは環境などの違いから,今回は特に触れないことにします。

統計学的にとは

 時折,2人のプレイヤーが振った技などを比較したグラフや表などを見かけることがあります。例えば,2人のマリオ使いがいて,3試合ずつデータを取ったとします。即死コンボを前者が1回,後者が3回決めたとしたら,後者の方がコンボが上手いと言えるでしょうか? 言えませんよね。「たまたま」,後者が即死コンボを決める試合が3試合選ばれてしまったかもしれません。詳しい話をするとキリがないので,この程度の認識で結果を見てもらえればと思います。この「たまたま」が起こるのが本当に偶然なのか,それとも真に後者の人がコンボが上手いのかを,統計ソフトを用いることで明らかにします。詳しい検定方法などは小難しくなるので述べません。
 統計学的に2人に確かに差があることを「統計的有意差がある」と言います。この有意差を示すものにp値と言うものが登場します。詳しい説明は省きますが,p値が0.05未満であれば統計的有意差があると考えてください
(本当は様々な背景因子を鑑みて検討するのですが,今回は考慮しません。)


方法①:勝ち試合で電撃や電光石火,撃墜択を分析する.

 統計的にとは言いましたが,スマブラは流動的なゲームなのであらゆる事象を検討するのは無理があります。統計的な有意差を見出すには,ある程度の試合数が必要です。しかし,ネットに転がる膨大な試合を闇雲に比較しても正確なデータの把握ができないので,個々のデータの信頼が落ちてしまい,多くの試合を見ても意味がなくなってしまいます。そこで,勝ち試合のみを抽出し,ピカチュウの立ち回りの肝となる電撃,電光石火に加えて撃墜,差し合いについてだけ解析しました。防御面については検討が難しいので今回は割愛しました。できれば50試合ずつくらい見れればかなり信頼性が取れると考えたのですが,オフの対戦配信が少ないこともありキシルさんの動画を集めるの難しく,18試合ずつとなりました.

方法②:比較項目について

結果が早く知りたい人は飛ばしても大丈夫ですが,読んだ方が内容はしっかり伝わると思います。
試合因子
①試合時間 ②敵キャラの体重 ③弾キャラかどうか ④反射吸収技持ちかどうか(いずれも私の独断で決定しています)。
立ち回りに関する因子
①試合を通しての電撃数
②復帰やライン回復以外での(差し込み技としての)電光石火数
③ニュートラルでの差し合いで用いた技:掴み,空前,空後,空上,DA
(③についてはニュートラル状態を独断で判断していますのでやや信頼性に欠ける項目です。)
・撃墜択
①復帰阻止
②コンボ(空N→下スマや空上雷など)
③崖狩り
④ダウン展開
⑤雷(コンボの締めで用いた場合②と重複する)
⑥スマッシュ(こちらはコンボの締めで用いてもカウントしない)
⑦寿命撃墜(DA, 上投げ,空上など)
※雷はピカチュウの特徴的な技で,独特の当て感が必要であり,雷に繋げるコンボは非常に難度が高いため重複のカウントを設けた.


結果①:両群の単純比較

赤字で示したものがp<0.05で「統計的有意差」があった項目です.
試合時間~撃墜%までの項目は「中央値[最小値~最大値]」で示しています。数字のみで示している項目は実数になります。ここで平均値を用いていないのは検討項目がいわゆる正規分布を示さない可能性が高いからです。

2群の特性

 これを見ると統計的にショーリミさんの方が試合時間が長く,電光石火での差し込みが多く,弾キャラとのマッチが多いことが分かります。
 撃墜%を見ると127.1% vs 115.2%でキシルさんの方が撃墜がやや遅く見えますがp値が0.05以上なのでこの差は「たまたま」起きたということになります。しかし,実際は敵キャラやステージによって当然,差が出ます(仮にキシルさんがカロスで多く試合をしていれば撃墜%が高くなる可能性がありますよね?)のでこれだけでは「たまたま」とは言い切れません。このキャラ差など結果に影響を与える因子を「交絡」と呼びますが,この調整に関しては次回行うつもりです。

結果②:グラフで比較(差し合い)

 有意差があったのは空前,空後,空上です。繰り返しになりますがニュートラル状態の判断を私がしていますので,やや信頼性に欠けるデータです。これを見ると二人とも空前を差し合いの主軸にしていることが分かります。大きな違いはキシルさんは空上(多くは反転空上),ショーリミさんは(反転)空後を次点として差し合いで用いています。おそらくオフでは全体フレームの長い空後は差し返しやガーキャンで咎められやすいため,このような差になったのではないでしょうか。反転空上は持続は短いですが,全体フレームが短く反撃も貰いづらいのでオフでは使いやすいのかもしれません。
 また,オンではオフより間合いが少し広くなる傾向にあるためか,全体の技数ではショーリミさんが多くなりました。グラフには表れていませんが,キシルさんは丁寧にダッシュガードなどで密着状態を作り,しっかり反確を取り自分のターンを取っていく印象でした。

結果③:グラフで比較(撃墜択)

*が付いているものが有意差あり

 思った以上に差が出る結果になりました.ショーリミさんが復帰阻止で全撃墜の約半数を占めました。オフではピカチュウと言えど,やはり復帰阻止の難度は上がるようです。逆に崖狩りでキシルさんが有意に多く撃墜していました。しっかり崖離し行動やその場上がりを咎めている印象でした。
 ここで注目してほしいのですが,雷とスマッシュで共に10:2という比率なのに雷のみが有意差ありで,スマッシュでは有意差なしとなっています。つまり,スマッシュ撃墜の差は偶然ということです。これは検定方法の問題で生じたものと思われます。同じ試合でスマッシュを3回決めるのと,3試合で1回ずつ雷で撃墜することの差のようなもので,後者の方が統計的にパワーがあるとみなされる検定だからです。実際,キシルさんが対ヨッシーで3回ともスマッシュで撃墜する試合がありました。統計的に有意でないものの,キシルさんのスマッシュの当て感はオフで磨き上げたものだなと思います。
 一方で,ショーリミさんは雷で全体の1/5程度を撃墜していました。上投げの読み合いやジャンプ読み,空上からのコンボなどで命中させていました。オフでは雷のような後隙の大きい技は咎められやすく,打ちづらいのもあっての差でしょうか。オンで勝つには雷の当て感を養うのが成長の一歩なのではないかと感じました。


全体を通して

 今回はピカチュウの勝ち試合を解析しました。
 ショーリミさんの勝ちパターンとしては雷か復帰阻止で1ストックは早期撃墜を通して最終ストック有利を作って,最後は時間を使ってじっくり倒すという印象でした。この早期撃墜への嗅覚がオンでピカチュウが勝ち抜くための1つなのかなと思いました。
 一方,キシルさんはターン継続で着実に%を稼ぎ,様々な撃墜択で相手に的を絞らせないような立ち回りが印象的でした。特に釣り行動などでスマッシュ撃墜を通しているのは特徴的でした。また,ここにはありませんが下強攻撃もショーリミさんに比べて多い印象でした。
 これらの結果だけではベストなピカチュウの立ち回りは分かりませんが,オンオフで勝ち抜いているピカチュウにはだいぶ技選択の違いがあるようです。オンでは早期撃墜をしっかり通さないといけないというのが,ピカチュウでの難しいところなのかもしれません
 ただ、これがオンオフの違いなのか、そもそものプレイヤーの違いなのかは判断が付きません。キシルさんが仮に同じ動きでスマメイトで勝ち続ければ、それはプレイヤーの差ということになります。


最後に:補足

最初に少しふれましたが、今回は「交絡」を調整していません。スマブラは80体以上のキャラがいますので,それだけで技の選択に幅が出ます。交絡の調整法にはマッチングという方法があり、対戦キャラだけでも同じように抽出しようと思いましたが,やはりオンオフでキャラに差があってできませんでした。そのため、次回は回帰分析という方法で,交絡を調整したいと思います。
(※未知の変数がたくさんあることと,試合数が少ないので形式上の調整であって,意義のある調整はできないと思います。)

使用した統計ソフト

R (R studio)ver 4.2.0


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