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声なき声に耳をよせて ~スマートニュースとGEZANと大統領選前日

自分は元パンクキッズ・オルタナティブバンドのフリークで、ルーツは今も変わらずパンクだと思っている。だから、無意味にも意味があると信じるし、美しいものを見たら、衝動で刻むようにそれを共有したい。


あらゆるコミュニティの出自は、どこか近いと感じられた「他者」と交わす熱情にある。まず大事なのは身近な人。インターネットは長年その物理の強度を越えようともがいている。そして、インターネットがなかった時代から、人は、他者から浴びた愛情や悲しみ憎しみに反応して、世界に「表現」を問うてきた。

その小さな表現から、周りの数人の世界が、時には数億人の世界が変わりうる。Appleがヒッピーカルチャーから生まれたように。パンクが、レイヴカルチャーが僕に教えてくれたのは、そういう精神だ。2008年のKAIKOOフェスや山形Do Itで見た光景は、インディペンデントであることの大切さを僕に深く刻みこんだ。

僕は、資本主義の真ん中で起業家として生きることで、自分の自己が形成されて育まれたコミュニティとの遠い遠い距離も実感しながら、でも今もそうしたコミュニティには真実があると信じて2020年を生きている。


今日殴り書きたいと思ったのは、同じ日にハードコアバンド・GEZANのドキュメンタリーと、スマートニュースのスズケンさんの記事を見て、揺さぶられたからだ。スタートアップと、アンダーグラウンドに息づく音楽シーン。

大統領選に影響力を持つスタートアップの葛藤の想像と、ハードコアバンドの葛藤の記録。その両方に感動して、接続を大統領選の前日に書き残せるのは自分しかいないかも、という妙な自意識が、焼酎でカサ増しされて、筆をとっている。

スマートニュースの「米国旅行」

自分にとっても前回の大統領選はショッキングな結果だったが、鈴木健さんという起業家・思想家は、そのショックに反応し、プロダクトを通じて世に問うた。

ある強い美意識・美学を持ち、世界の分断に真摯なまなざしを向け、おそらく自己の意志以上に民主主義の力を信じ、民主主義の現代的体系を実現しようともがくスタートアップ=スマートニュース。その存在と、実際に地方を含むアメリカの現場を歩いて回りつづける彼の「行動」に、私は言いようもない嫉妬心と尊敬の念を抱いている。彼は、現地に「典型的なアメリカ人」など存在しなかった、と語る。

事業家なら誰しも知っているだろう。残念ながら美学やプライドだけでは事業というやつは何ひとつ成長しないのだ。ほとんど残酷なまでに。それでも、リリース直後から、米国に挑戦した彼らは異国でも成長し、アメリカで1000万MAUを得た状態で、2020年の大統領選を迎えている。

そして、おそらく多くのユーザーは、スズケンさんの美学など何一つ意識せずプロダクトを触り、でもそれに影響されるのだ。ビートルズを聞いて、「抱きしめたい」リビドーとかYesterdayさびしかった気持ちとかにキャーとかワァーとか共感していたはずが、気づくと「All You Need Is Love」とか「Power To The People」とか、もしかしてそうなのかも、と思ってしまうかのように。(僕は、ビートルズが真に偉大なのは、人気絶頂で解散する最後の曲で「And in the end, the love you take is equal to the love you make」と歌ったところだと思う。)

ポップミュージックも、インターネットサービスも、集まった人の意志の発露であり、表明であり、刻まれて表現された意志は人と人ををつなぐメディアなのだ。この記事と、現在進行中のその成果に、心底感動したし、嫉妬した。

ハードコアバンドの触れる「アメリカ」

同じ日に私を揺さぶったのがGEZANという日本のハードコアバンドのアメリカツアーのドキュメンタリーだ。語るには全く不足したレベルでしか今日まで聞いてきていないバンドだし、ハードコアは専門外なので、音楽的には私には書けることはない。

GEZANはインディペンデントであることにこだわり、全感覚祭という「すべてフリーミアム」な異質なコンセプトのDIYフェスを毎年開催している。

最近、鮮烈な真っ赤に染まる彼らのライブ(↓参照)を見て、2020年の東京の音楽そのもので、2020年の芸術で、クソ感動した。扇情的で、理知的。破壊的で、でも美しい。言葉が、深く根ざしていながら跳ねるようで、とても強い。それですぐにドキュメンタリーを見た。

映画の中で彼らは、その日に仲良くなった人に泊まらせてくれと頼み込むという形でアメリカをたどり、演奏する。

彼らはアメリカで市井の差別・日常にある分断に触れる。「ヒルビリー・エレジー」を絵に描いたような白人の貧困。パンクがパンクとして存在できる理由でもある、積み重なった文化の歴史。黒人への侮蔑。LGBTQ。そして、ライブで出会ったナバホ族の女性を通じて、ネイティブアメリカン特別保留地のコミュニティセンターを訪れる。


ナバホ族は、神聖とされた土地で白人に命令をされてウランを掘らされてきた歴史があり、それゆえにヒロシマ・ナガサキを知る日本人に共鳴する。

「日本も中国も沖縄も、ネイティブアメリカンも、私たちは一つだ。でも白人だけは違う。白人だけは違う。」ハグしても埋まらない歴史。安直なテーゼでは埋められない、現実としての分断。「わかりあう」とはなんて難しいことか。ショックを受けるメンバー達。監督は撮影を続けられなくなってしまう。


GEZANは帰国し、葛藤の先に投げ銭のみの「全感覚祭」を「バラバラのままで同じ場所に集まって、各々がそれぞれの心情や綺麗なものを持ち込むように」開催する。

「今たくさんの人がいると思うんだけど、わかりあうのってめっちゃ難しくて、、」と始まるラストのMCで、人を結びつける音楽の力を話した上で、こう語りかける。「どういう方法でもいいんで、反応してください」。そしてアンセミックな「DNA」が鳴り響く――。

「反応」し、想像し、増幅し、創造する

インディペンデントであること、声なき声に耳を傾けること。この国の各所にもある、絶望や断絶。Black Lives Matter。さまざまな祈り・願い。私たちは、真には「理解」することはできない、その祈りを、何とか受け止めて反応することから、新しい行動を始めることができる。


まだ何も遅くない。高尚である必要はない。真摯であればまずそれで良い。2020年を日本で/地球で生きる人たちがモノを作れば、それは何であれ表現になる。その表現が人類の連続性の先にあることをときどき立ち返り、葛藤の中で少しでも自覚的になれるなら、そこには前進があると信じる。(意志や自覚のないモノだけはクソだと思うし、自分はそういうモノは作りたくはない)

まだ何も遅くない。「DNA」の一節、「クソな真実ならエレキでかき消そう そのためにファズがある」


インターネット下の構造に生きる自分たちは、自分たちの意志をテクノロジーというファズ=増幅装置で表現し、上塗っていくことができる。コロナ下・大統領選前の世界は今日も不穏で、不穏なありのままで私たちのOutputを待っている。わかりあう願いをつなごう。政権が変わろうと、オリンピックがどうなろうと、2020年だからできる表現を僕らはすることができる。その「行動」の価値をバンドもスマートニュースも、突き付けてくる。

この先の明るい未来を僕らは信じているし、その未来の一端を作るんだというおこがましいエゴイズムや資本主義そのものに葛藤しながら、今日も音楽を聞き、モノやチームを作るHardcore will never die, but you will

「顧客が求めるものがすべて」だが、顧客が触れたモノの蓄積が人間と社会を作る自覚を忘れない。我々は大きな連続性の中に生きて生かされている。明日の結果がどうあれ、また、反応して創造する。ファズを踏む理由は、創造的破壊なのだ。

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