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連峰の夢

 今日、僕は途中に覚醒を挟みながらも連続性のある夢を三つ見続けた。物語そのものには多少の断絶があるのだが、それらの夢には一つ重要な共通点があった。夢の舞台となる「地形」が三者ともに一致していたのだ。
 北に岩山が聳えている。僕はその岩山のことを火山だと認識している。南には高地が広がっており、高地にも小さな峰が連なっている。高地の北の縁には学校が建っている。学校と岩山の間の谷には低地が広がっている。
 第一の夢においてそれらの地形は並べて赤々と乾燥していた。第二の夢においては低地のみ森林に覆われていた。第三の夢においては低地だけでなく高地や岩山もまた木に覆われていた。夢を見返すたびに緑が増していったのである。しかし、なぜ緑が増していったのかはさっぱり分からない。夢の中で季節が変わったのだろうか。

第一の夢

 夢の中で僕は周囲の人間の気持ちを汲み取ることに失敗し続けていた。そのせいで僕はついに恋人(I嬢)から愛想を尽かされた。
 僕は学校の窓辺にいた。窓の下には生徒ひとりひとりに関する情報を記した紙が掲示されている。窓の向こうは崖だ。そしてその彼方には岩山が聳えている。赤茶けた山肌、枯れて禿げ落ちた灌木。ナバホの聖地を思わせる光景だ。
 いつの間にか僕はテラスに移動していた。僕の傍らにはN嬢が立っている。N嬢が僕に「疲れてるみたいだね」と声をかける。僕は苦笑して「もう恋愛なんてこりごりだよ。僕は全てに興味を失ってしまった」と答える。するとN嬢は蔑みと誘惑を混ぜ合わせたような表情をこちらに向けた。そして次の瞬間、彼女は転落するような速度で崖を駆け下りていった。
 僕は驚愕した。大丈夫だろうか。怪我をしたかもしれない。崖の下を見に行かなければ。しかし、まさか同じように崖を駆け下りるわけにもいかない。安全のため回り道をしようと思い、僕は階段を降りて校舎を飛び出した。すると僕は教師たちによって捕らえられた。「なんで学校を出ようとするんだ」。そう教師たちに問われ、僕は「Nさんが崖から落ちたんです」と答えた。「そうか、それなら見てきてやりなさい」。そう言って教師たちは僕が校外に出ることを許可した。かくして僕はN嬢が駆け下りていった先の谷間へと足を踏み入れた。
 谷間の雑木林にて、僕は数人の集団と遭遇した。彼らは僕を一つの小屋へ導いた。小屋の中にはN嬢の姿もあった。
 小屋の中にて、彼らは自分たちが反体制派であることを明らかにした。どうやら彼らが戦っている「体制」とは今のところ「学校」のことを指しているらしい。また、僕という人間は彼らの計画にとって重要な存在となっているようだ。
「学校側は君の引き渡しを求めている」と集団の人間は僕に語った。「私たちは君を空港に連れて行く。そして引き渡すふりをして君を連れ戻す。分かったね?」。僕は「分かりました」と答えた。かくして僕はその集団と行動を共にすることになった。

 ここで僕は一度目を覚まし、再度眠りに就いた。

第二の夢

 僕たちは谷底の森を彷徨っていた。学校側の勢力に追われているのだ。しかし、僕たちに逃亡者としての切迫感は無かった。むしろ僕たちは物見遊山のような気楽な気分で森の最奥へと向かっていた。森は深く、暗く、湿っていた。
 森の最奥にて、僕たちは一羽の巨大な鳥を目にした。その鳥は鳥というよりも太古の翼竜に似ていた。その鳥は三つの嘴を有していた。従来の嘴の他に、両頬から一対の嘴が突き出ているのだ。また頭部からは王冠のような形の骨が突出していた。体表は羽毛ではなく、人間のような皮膚に覆われていた。その姿はまさしく「異形」と呼ぶに相応しかった。異形の鳥は巨大な巣の中央にて翼を休めていた。
 集団の人間は僕に対して「この鳥は『森の王』だ」と語った。「そしてこの森には『森の女王』もいる。まだ姿を現してはいないが」。そう説明を受けたとき、僕は自分の中になにか女性性のようなものがほとばしるのを感じた。
 そして次の瞬間、僕は「森の女王」と化して空へと飛び立った。「森の女王」は巨大な雀のような姿をしていた。羽毛の先から橙色の火炎を放っている。僕は大きく翼を広げて眼下を見渡した。眼下には夜の森が広がっていた。
 僕は森の上空を周回すると、元いた地点にふわりと舞い降りた。羽毛から散る明るい火花が草木の葉をちりちりと焦がす。いつの間にか僕は人間の姿に戻っていた。集団の人々は驚きもせず、ただ温かい眼差しで僕のことを見つめていた。

 ここで僕は一度目を覚まし、再度眠りに就いた。

第三の夢

 僕は学校にいた。学校のある高地は緑に覆われていた。彼方に聳える火山もまた緑に覆われている。谷間だと思っていた低地は広い平野へと姿を変えている。その光景をよく見た僕は、向こうに聳える山が赤城山であるということに気付いた。ということは学校のあるここは上野村のあたりだ。間に広がる低地は関東平野。
 なんだ、現実の風景じゃないか。そう思って僕がテラスから赤城山を眺めていると、K嬢とR嬢がこちらにやってきて僕を非難した。なんでも僕は彼女たちの意図を汲もうとせず、彼女たちとの対話を避けるためにこのテラスへと逃げてきたのだという。少なくとも彼女たちには僕の態度がそう見えていたらしい。僕は彼女たちに謝罪し、彼女たちとともに校舎の中へと入っていった。
 学校にて僕は教師から叱責された。どうやら僕はずっと居眠りをしていたらしい。その罰として、僕は本来であれば別の生徒が書くはずであった書類を作成するよう指示された。元々の生徒はいま失踪しているのだという。
 僕はその生徒に代わって書類を作成し始めた。しかし、その生徒がどのような人間だったのかを知らなければ書類を完成させることなど出来ない。ああ、あのとき掲示されていた紙を今見ることが出来たらな、と僕は思った。あのときの紙はもう隠されてしまっていたのだ。

 ここで僕は目を覚ました。

考察

 第一の夢と第三の夢において僕は女性の気持ちを汲むことに失敗している。いっぽう第二の夢において僕は内なる女性性を自覚し、「森の女王」と化して空へと飛び立った。どうやらこの夢の底流には「女性性」というテーマがあるようだ。それが具体的にどのような意味を持っているのかは、未だ分からないが。
 ちなみに起床後「夢日記を書こう」と思ってPCを開いたとき、ロック画面には岩山の写真が偶然表示されていた。不思議なこともあるものだ。

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