魚とみず⑤
『魚(うお)とみず』 徳田公華
※本作は2018年の函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞応募作品です。応募した作品を加筆せずにそのまま掲載しております。
【登場人物】
池田 青葉(いけだ あおば・27) 雑誌の編集社の会社員
池田 柊花(いけだ しゅうか・29) 青葉の姉
北原 海斗(きたはら かいと・5) 麻実の息子
池田 圭子(いけだ けいこ・55) 青葉の母
北原 麻実(きたはら まみ・25) 新田の孫
池田 博史(いけだ ひろし・享年58) 青葉の父
橋本 泰介(はしもと たいすけ・28) 青葉の彼氏
新田 茂吉(にった もきち・62) 池田家の隣に住んでいる、元教員
森野 梨華(もりの りか・21) 青葉の勤める会社の後輩
山田(やまだ・45) 青葉の勤める会社の上司
(④の続き)
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◯移動中の車(昼)
運転している青葉。
◯池田家・居間(昼)
柊花と海斗がソファーに寝転びながら
ポッキンアイスを食べている。
柊花「無事に会えたかな〜?」
海斗「……」
柊花「青葉にとっては、過保護で鬱陶しい存在なんだろうけど」
◯(回想)フラッシュ
幼い青葉が脚立に登り、転落する瞬間を見てしまう柊花。
× × ×
お見舞いに出掛ける圭子と博史。
× × ×
親戚の家でご飯を食べている柊花。
◯元の場所
柊花「大人になってからも、お父さんとお母さんはいつも青葉を気にして
て」
◯(回想)
居間で一人、柊花が発泡酒を飲んでいる。
そこにやってくる圭子。
圭子「青葉、どうしてるかね?」
◯元の場所
柊花「自分たちからは連絡しないくせに」
◯(回想)フラッシュ
青葉が写っている写真を圭子に見せる柊花。
少し離れたところにいる博史。
◯元の場所
柊花「……でも青葉と家族を繋ぎ止めるのが、きっと私の役割なんだってそ
の為に私はここにいるんだって、そう思うようになってさ」
◯(回想)
病室には弱々しい博史と疲れ切った様子の圭子の姿。
柊花、笑顔を作り病室へ入っていく。
柊花「青葉の就職決まったんだって」
二人に笑顔で話し続ける柊花。
◯元の場所
海斗、アイスを持ったままぐっすりと眠っている。
海斗「……」
柊花「青葉のこと、ずっと羨ましかったな」
海斗に寄り添うように目を閉じる柊花。
◯湯の川・湊屋前(昼)
駐車場の方から走ってくる青葉。
青葉「あの、すみません。チェックアウトって何時ですか」
仲居「ええと、当館は十時のチェックアウトでございます」
携帯電話の時計を確認する青葉。
時刻は『10:30』の表示が出ている。
青葉「ありがとうございます……」
車に戻ろうとする青葉。
顔を上げると前には圭子が居る。
圭子「……」
青葉「あ」
無言でタクシーに飛び乗る圭子。
青葉「ちょっと!」
慌てて、車に乗り込む青葉。
◯タクシーの中(昼)
後部座席から後ろを振り返り、
青葉が付いてきているのを確認する圭子。
圭子「……」
◯車の中(昼)
運転している青葉。
青葉「……」
◯池田家・居間(昼)
圭子が帰ってくる。
ソファーで柊花と海斗が寝ている。
圭子「あらあら、こんなところで」
柊花「あぁ、おかえり」
圭子「海斗くん、部屋で寝かせてあげればいいっしょ」
柊花「そだね。よいっしょっと」
海斗を抱えて居間を出て行く柊花。
せわしなく、部屋の中を行き来する圭子。
息を切らして帰って来る青葉。
青葉「別に逃げなくたっていいでしょ!」
青葉の声をかき消すように食器洗いを始める圭子。
青葉「ねぇ」
圭子「……」
青葉「お母さんってば!」
水道の水を止める圭子。
圭子「なによ」
青葉「逃げないでよ」
圭子「逃げたのはどっちよ!」
青葉「……」
圭子「私はもうあんたと話すことはないって言ったっしょ」
青葉「私はあるの。ちゃんと話したいことがあるから」
圭子「お父さんの葬儀にも帰ってこない。元気かどうかも連絡しない。今さ
ら帰ってきて、どういうつもりなのさ」
青葉「……」
圭子「あんたはあんたで東京で暮らしてればいい。帰ってこなくていいか
ら。あんたがそう決めたんだから、もうずっとそうしてればいいでしょ」
青葉「……ごめんなさい」
圭子「もう帰ったら? 東京に」
青葉「……」
圭子「……」
青葉「……私が勝手に出ていって、勝手に家族のこと嫌になって。もうあの
人たちとは関わらなくていいんだって思ったら、すごく楽になった。そう
したら、お父さんが死んで、私には関係ないって割り切れたつもりだっ
た」
圭子「……」
青葉「でも久しぶりに帰ってきて、お父さんの遺影を見たときに、後悔して
るってやっと分かって」
圭子「……」
青葉「ここに住んでた私は自分が思ってたより楽しそうで幸せそうで、それ
で」
圭子「……あぁだこうだ言ったって、お父さんはもう居ないから」
居間から出て行く圭子。
◯同・廊下(昼)
居間から出てくる圭子。
ドアのところに柊花が立っている。
柊花「また、どこ行くの」
圭子「……」
柊花「一回、青葉とちゃんと話してみればいいでしょ」
圭子「……」
出て行く、圭子。
柊花「……親子だねぇ」
◯七重浜海浜公園(夕方)
海岸に座っている青葉。橙色に染まる景色。
◯池田家・駐車場(夜)
青葉が歩いて帰って来る。
新田茂吉(62)が外でパイプを吸っている。
青葉「こんばんは」
新田「あれ、青葉ちゃんかい?」
青葉「お久しぶりです」
新田「ずいぶん綺麗になって〜」
青葉「そうですかね?」
新田「だって帰ってくるの十年ぶりくらいだろう?」
青葉「まぁ……」
新田「そういえば、海斗がいつも柊花ちゃんに世話になってて悪いね」
青葉「いえ、姉も楽しそうです」
新田「娘がだらしないもんだから」
青葉「……」
新田「あんな男と早く別れろって言っても聞く耳持たないんだわ」
青葉「……新田さんはずっと一人で暮らしてて寂しくなかったですか?」
新田「ん?」
青葉「すみません、変なこと聞きました」
新田「そうだなあ」
青葉「……」
新田「不思議と寂しくはなかったな。どんなに会わなくたって、家族がどこ
かで元気で笑ってるんだったら、それが一番いいなって思ってなぁ」
青葉「側にいなくても?」
新田「あぁ、だって俺との生活が合わなかったんだから出て行ったんだよ。
でも一度は惚れた女だからな、そりゃどこかで幸せならそれでいいよな
ぁ」
青葉「そういうものなんですかね?」
新田「不思議だよな。所詮他人なんだけどな。でも家族はきっと切っても切
れないように出来てるんだよ。どこかでな」
笑う新田に小さく会釈をする青葉。
◯池田家・廊下(夜)
青葉が帰って来る。
圭子の部屋の前で立ち止まる青葉。
× × ×
(フラッシュ)
その写真をそっと壁から外し、二つに破り捨てる青葉。
× × ×
青葉「……」
◯同・圭子の部屋(夜)
床に落ちている破れた写真。それを拾おうとする青葉。
棚の一番下に古いアルバムと新しいアルバムが並んでいる。
古いアルバムには家族で楽しそうな写真が年代ごとに並んでいる。
新しいアルバムには青葉が今まで担当した記事のスクラップが綺麗
に切り抜かれ、並んでいる。
青葉「これって……」
青葉の目から涙が溢れ出る。アルバムの一番後ろのページに何かが
挟まっているのを見つける青葉。
青葉「?」
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(⑥へ続く)
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