魚とみず②

『魚(うお)とみず』 徳田公華

※本作は2018年の函館港イルミナシオン映画祭シナリオ大賞応募作品です。応募した作品を加筆せずにそのまま掲載しております。

【登場人物】

池田 青葉(いけだ あおば・27)   雑誌の編集社の会社員
池田 柊花(いけだ しゅうか・29)   青葉の姉 
北原 海斗(きたはら かいと・5)   麻実の息子

池田 圭子(いけだ けいこ・55)   青葉の母
北原 麻実(きたはら まみ・25)   新田の孫

池田 博史(いけだ ひろし・享年58)   青葉の父
橋本 泰介(はしもと たいすけ・28)   青葉の彼氏
新田 茂吉(にった もきち・62)   池田家の隣に住んでいる、元教員

森野 梨華(もりの りか・21)   青葉の勤める会社の後輩
山田(やまだ・45)      青葉の勤める会社の上司

(①の続き)
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◯函館空港(昼)
    到着口から出てくる青葉の姿。
    辺りを見回し、タクシー乗り場へ向かう青葉。

◯タクシーの中(昼)
    険しい顔で景色を見ている青葉。

◯池田家・前(昼)
    タクシーから降りてくる青葉。
    呼吸を整えようとするが呼吸が浅くなる。
    ふと視線を感じ、そちらを見ると坊主頭でクリッとした目をした
    北原海斗(5)が立っている。

青葉「……こ、こんにちは」
    走って逃げていく海斗。
青葉「……」

◯同・玄関の前(昼)
    呼吸を整え、おそるおそるインターホンを押す青葉。
青葉「……」
    しかし反応はない。
    その時、携帯にメッセージが入る。
  『そろそろ着いた? 鉢植えの下にカギ置いてあるから。もう少しで帰
 る』
    壁際に小さな鉢植えが置いてある。
    鉢植えの下から鍵を取り出し、慎重に鍵を開ける青葉。

◯(同)・居間
   荷物を運ぶ青葉。奥には仏壇。
   父、池田博史(58)の遺影が飾ってある。
青葉「……」
    後ろから「おかえり」と声を掛けられる。
    青葉が振り返ると、姉の池田柊花(29)が帰ってくる。
青葉「お姉ちゃ……」
    柊花のあとに続き、母の池田圭子(55)が顔を出す。
圭子「青葉!」
青葉「……」
柊花「お母さんが倒れたって言ったら、駆けつけてくれたの」
圭子「……」
青葉「……」
柊花「お母さん、ただの脳貧血でよかったね。倒れた時はどうなるかと思っ
 たわ」
圭子「……あんたと話すことはない」
青葉「……」
    荷物を持ち、出て行く青葉。

◯池田家・前(昼)
    青葉が家の中から勢い良く出てくる。
    続いて柊花が追いかけてくる。
柊花「ちょっと青葉」
    立ち止まらない青葉。
柊花「青葉ってば」
    青葉の腕を掴む柊花。
青葉「……どういうつもり」
柊花「どういうって」
青葉「余計なことしないで」
    再び歩き出す青葉。
柊花「もういい加減にしたら? いつまで変な意地張ってるのさ」
青葉「……」
柊花「あんた、あぁゆう言い方でもしないと帰ってこないでしょ」
青葉「……」
柊花「せっかくここまで来たんだからさ」
    俯く青葉。視界に海斗が入ってくる。
青葉「あ」
海斗「ケンカ?」
青葉「えっ」
海斗「柊花ちゃん、おばちゃんは?」
柊花「おばちゃんね、大丈夫だったよ」
    海斗、満面の笑みで柊花に抱きつく。
海斗「元気になったの?」
柊花「うん。さっき病院から帰ってきたよ」
海斗「お姉さんは誰なの〜?」
    柊花に隠れながら、青葉をまじまじと見る海斗。
柊花「このお姉さんは私の妹」
海斗「ふーん」
柊花「海斗、ちゃんと『こんにちは』できるかな?」
海斗「こんにちは! 北原海斗です」
柊花「えらいね。上手に言えたね」
    青葉の反応を窺うように見ている海斗。
青葉「……池田青葉です、どうも」
柊花「子供相手に『どうも』って」
青葉「別にいいでしょ」
    海斗、青葉の顔を見て笑い出す。
    つられて笑い出す柊花。
青葉「……」
柊花「よし! いいこと思いついた。海斗、これからお出掛けしよう」
海斗「やった〜」
柊花「じゃあ、青葉お姉ちゃんも一緒でいいかな?」
青葉「は?」
海斗「うん!」
柊花「先、車に乗ってて」
    青葉に向かって車のキーを投げる柊花。
青葉「……」
    家の中から、そっと見守っている圭子の姿。
圭子「……」

◯車の中(昼)
    松前国道を走る車の中。
    運転席に柊花、後部座席には青葉と海斗が座っている。
青葉「……」
柊花「海斗、海きれいだね」
海斗「うん。青いね」
    窓の外一面に広がる海。
    夏の日差しが反射して、キラキラと光っている。
柊花「青葉」
青葉「……」
柊花「元気にしてたのかい?」
青葉「……普通」
柊花「そう。仕事は?」
青葉「特に」
柊花「ふーん。相変わらず、つまんなそうな人生送ってるのね〜」
青葉「うるさい」
柊花「だって、そうでしょ。普通とか特にとか」
海斗「つまんない?」
青葉「……」
柊花「海斗に聞かれちゃ終わりだな」
青葉「あー、もううるさい」
海斗「うるさい」
青葉「真似しないで」
海斗「真似しないでぇ」
柊花「おっかしいね」
    笑っている柊花と海斗。呆れている青葉。

◯トラピスト修道院・入り口(昼)
    青葉たちを乗せた車が走ってくる。
    正面の入り口を通り過ぎる車。
青葉「……」
柊花「今日は少し奥まで行きま〜す」
    興味津々に窓の外を覗く海斗。

◯同・裏の駐車場(昼)
    車のエンジンを切り、降りてくる三人。
柊花「まったくいい天気だ」
青葉「どこ行くの?」
柊花「いいからいいから。さ、海斗行くよ」
海斗「うん!」
    自然に柊花と手を繋ぐ海斗。
青葉「……」
海斗「お姉ちゃん?」
柊花「青葉?」
青葉「……」
海斗「はいっ」
    青葉に手を差し出す海斗。
青葉「え」
海斗「ほら!」
    青葉と手を繋ぐ海斗。
青葉「……」
柊花「……」
    手を繋ぎ、並んで歩き出す三人。

◯同・ルルドの洞窟へ続く道(昼)
    階段を登っていく、三人。
    少し息があがっている青葉と柊花。軽快に進む海斗。
海斗「柊花ちゃん、お姉ちゃん! あっちに何かある!」
    走り出す海斗。
柊花「海斗ー、走ったら危ないよ」
青葉「元気だねぇ」
柊花「子どもだもん、あれくらい元気じゃないと。あんたも昔、ここ来た時
 はあぁやって走って行ったっけね」
青葉「こんな奥まで来たことあったっけ?」
柊花「やっぱり覚えてないか。小学生の頃にみんなで来たっしょ」
青葉「そうだっけ?」
柊花「ほら、青葉がはしゃいで走って行って転んで大泣きして。全然泣き止
 まなくて、帰りに入り口のところでソフトクリームを食べさせたら嘘みた
 いに泣き止んでさ」
青葉「そんなことよく覚えてるね」
柊花「家族の思い出ってやつだから」
青葉「……」
海斗「柊花ちゃん、お姉ちゃん早く! 早く!」
柊花「よし、海斗のところまで競争!」
青葉「ちょっと、お姉ちゃん」
柊花「ビリはソフトクリーム奢りね」
    柊花のあとに続いて、走り出す青葉。

◯同・ルルドの洞窟(昼)
    岩肌の中からマリア像が見守っている。

◯同・正面入り口の売店内(昼)
    売店の中を見ている、青葉と海斗。
青葉「……ソフトクリーム好き?」
海斗「うん!」
青葉「じゃあ、ソフトクリーム三つ」
海斗「おねえちゃんは?」
青葉「もちろん好き」
    海斗がバター飴を見つめている。
青葉「それ、ついつい食べちゃうよね」
海斗「……」
青葉「どうしたの?」
海斗「お母さんにあげたいなぁ」
青葉「(思わず)お母さん?」
海斗「(頷く)お母さん、これ好きなの」
青葉「そうなんだ。じゃあ、それ買ってあげようか?」
海斗「え! いいの?」
青葉「うん、お母さんにプレゼントしてあげたら?」
海斗「うん!」

◯同・正面入り口(昼)
    ソフトクリームを食べる三人。
    口の周りにアイスがついている海斗。
    溶けそうなところから必死に食べようとする柊花。
    二人を見て、笑っている青葉。
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(③へ続く)

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