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『ジャックフロスト』(2023/日本/テレビドラマ)

やっと感想を書きます。
MBSドラマシャワー枠のBL作品第6弾で、満を持して登場したオリジナル作品だった。2023年2月から3月の放送で、8話かと思ったら全6話だった。

同棲している奥沢律と池上郁哉。律の誕生日に喧嘩して、郁哉から別れ話を切り出されて家を飛び出した律が交通事故にあい、郁哉に関する記憶だけを失ってしまう。郁哉は律に、自分たちが恋人であること、そして別れ話を始めていたことを言い出せないまま、病院から自宅に戻る。そして、”ただのルームメイト”として同棲生活を続けることになる・・・と言う物語。
全体的には落ち着いた雰囲気の作品で、暗めの柔らかい映像が映画のような感じで、見ていて嫌になることはなかった。

キャスティングがよかった

イラストレーターの奥沢律役を本田響矢、文具メーカーの営業マン池上郁哉役を鈴木康介が演じていた。この二人のキャスティングはとてもよかった。そうそう、律の弟・柊路君役の森愁斗も。

律は美大出のイラストレーターで、何かに囚われる事を好まず直感的に生きる自由人タイプに見えた。創作活動がのってくると他のことを忘れて没頭する芸術家肌。本田くんの容貌と相まって、口調などはふんわりとしているが小悪魔的可愛さと色っぽさを醸し出していた。

郁哉はメーカーの営業マン(二人が喫茶店で出会うシーンの郁哉のスーツ姿と、律が書いていた絵を見て言った「お上手ですね」というセリフが私をにやけさせた)。郁哉は自由人の律と暮らす中で、いろいろと律の生活の世話を焼いてきた。鈴木康介くんの優しい雰囲気と顔が、郁哉をとても愛情深く面倒見のよい優しい人に見せていた。
ただ、見終わって思うのは、この郁哉の外見に私は随分と惑わされたのかもしれないという事。郁哉を別の人が演じていたら、郁哉の人物像に初めからかなり違う印象を持っていただろう。鈴木康介くんだったから、郁哉に対して”一緒にいてほっとできそうな包容力ある優しい人”という第一印象を持った気がする。

このドラマで唯一笑えたシーン

郁哉と自分が付き合っていたと思わせる写真など思い出の品を偶然自宅で見つけた律。行きつけの喫茶店に弟の柊路を呼び出して、仲睦まじい自分と郁哉の写真を突きつけ「俺たち、どう見ても付き合ってたよな」と語気を強めて詰問。もちろん二人が付き合っていたのはよ〜く知っている柊路くんだが、今まで律に言いあぐね悩んできた郁哉のことを考えるとどう答えたものか・・・。その時困り果てた柊路君は、突きつけられたラブラブ写真を見ながら作り笑顔で顔を引きつらせつつ「と、とても、仲がよさそうだね・・・」。
このドラマで思わず笑ってしまった唯一のシーンだった。
芸術家肌自由人の兄と違って、穏やかで人の相談に乗ってくれそうな優しい雰囲気の弟・柊路。いきなり核心に迫る緊迫した質問へのご対応、ご苦労様でした。

男性が恋愛対象の律

ドラマシャワーやその他にもいくつか連続ドラマのBL作品をこの数年見てきた中、「恋愛対象は男性」とはっきり口にする主人公は案外少なかった気がする。私が見てきた最近の連続ものBLドラマは、「男の人が好きなんじゃなくて、性別に関係なくあなたという人が好き」という設定が割と多かったように思う(単発のスペシャルドラマとか映画はまた別だけれど)。それまでは女の子と付き合ったり、もしくは可愛い女子と付き合いたいなぁと思ってきた”普通の”男性が、身近で自分に思いを寄せていた(または自分が何故か魅かれてしまう)男性の存在に気づき、相手が同性であることに戸惑いながらも、性別だけに目を向けるのではなくその相手を一人の人間として向き合い受け入れて恋愛関係に踏み出していくというような内容。好きになった人がたまたま同性だったという考え方。
でも律は「自分は男の人が好き」と話し、自分の嗜好を隠すわけでも恥じるわけでもなかったところが、私には新鮮だった。
「男か女かが問題ではなく、あなたという人が好き」という設定は、男女2グループの性別で人を分けずに個人に目を向けて、皆それぞれに個性の違う人間だという見方から多様性を受け入れる考えにつなげているようにも思えるけれど、なんとなく「男性だけが恋愛対象の男性」という好みやそれを持つ主人公の設定を避けているようにも見えてしまう。

でもこの二人、別れちゃいそうだなぁ・・・

郁哉は時々”キレる”人だった。時に、まるで幼子の親のように、郁哉は愛情たっぷりの口調と態度で優しく律に接するのだが、二人の間のことで気に入らないことがあって”キレる”と、かなりきついことを言う。
私の目には、律は優しい時の郁哉は好きなのだが、郁哉の感情が爆発するとどうしていいか分からなり、怖くて彼と距離を置かずにはいられないという感じがした。家を飛び出したり、部屋に籠ったり。
郁哉は自由人の律と暮らす中で、片付けや料理など家事や雑事をおそらくは知らぬうちにかなり引き受け、また、マイペースで自由に生きる律に自分のペースを合わせていたのだと思う。そして、それを不満に思うのだが、律に伝えて嫌われるのが怖くて言えず、”気づいて欲しい”と願いながら自分の中に溜め込む。それが結局郁哉のストレスになり、時々爆発する。そして律は郁哉がいつの間にかストレスを溜めていることに”言ってくれないから”気づかない。だから感情を爆発させて暴言を吐く郁哉が理解できない。
お互い好きなんだけれど、一緒に暮らすとストレスが溜まってしまう二人。

私は最終回で、引っ越しの片付けを早く終わらせようという郁哉の腕を律が引っ張って、二人がソファに倒れ込んで結局片付けを棚上げにしてしまった時、「あぁ、この二人長続きしないかも・・・」と感じてしまった。郁哉は結局律のペースに巻き込まれてしまう。そしてそれこそが郁哉にとっての最大のストレス。これでは元の木阿弥ではないのか、郁哉よ。
ソファに倒れ込んだ二人を見て、いずれまたあの誕生日のような喧嘩をすることになりそうだなぁと思った。
元の鞘に収まった幸せな二人を見ながら「いずれ別れそうだなぁ」と思ったBLドラマはあまりなかったので、ちょっと驚いた。

もしあの時、郁哉が片付けを諦めず、律が「そうだね、まず片付けよっか」と言って二人で席を立てていたら、別れの予感はしなかっただろうと思う。

せっかく継続が決まったドラマシャワー 枠なので、今後もたまにはオリジナル作品を見てみたい。



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