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『I Told Sunset About You』(タイテレビドラマ/2020)に出会えてよかった

2023年3月も終わりになる頃、私はまだ『劇場版 美しい彼』に心が向いていなかった。ずっと前からあれほど楽しみにしていたのに、公開まで1週間を切ってもまだ心が劇場に向かなかった。
その理由は1月から4月はじめまで放送されたこのドラマだった。
毎回見る度に私の心はこのドラマでいっぱいになり、しばらく余韻に浸った。タイドラマの質の高さを実感させられる素晴らしい作品だった。このドラマに出会えてよかった。

私がタイドラマを見るのは『2gether』『ニラの復讐』についでこれが3作品目。このドラマは心にしみる作品で、毎回みては泣きそうになっていた。2月はドラマ『美しい彼2』と並行して見ていた(そちらもよかった)のだが、『美彼2』放送終了後はいよいよ『I Told Sunset About You』の方が佳境に入り、4月はじめの最終回を見終わるまで『美彼』映画の存在がしばし薄らいでしまった。それほどまでにこのドラマは魅力的だった。

各話に心にしみるよいシーンが幾つもあり、本当は1話ずつ感想を書きたいくらいだ。でもそんなことを言っているといつまでも書きそびれる気がするので、今はまず見終わった全体の感想を、素敵な作品に出会えた自分の記録として書いておきたい。

脚本 ・ ストーリーがいい

このドラマはBLドラマと紹介されているが、主人公二人に加え、彼らを取り巻く人々の心情もとても丁寧に描いており、映像もとても美しく、ただの”胸キュンBLドラマ”という感じではなかった。
BLドラマと言ってもドキッとするような二人のラブシーンなどはあまりなく、少年二人の恋愛がテーマというより、二人の青春物語、成長物語という感じが強かった(”BLドラマ”と言わなくてもいいのではないかしら)。
性別に関係なく、誰でも人生の中で多かれ少なかれ遭遇しそうな様々な感情や出来事が描かれていた。二人の少年の心の揺れ動きや彼らを取り囲む人々とのやり取りをみながら、いつしか自分も過去の様々な出来事を思い出して時に胸が疼いて涙してしまうような、どこかほろ苦い物語だった。

私はタイ語がわからないので、タイ語脚本と翻訳字幕にどのくらいの違いがあるかわからないのだが、字幕のセリフを見ていていいなぁと感じた。気持ちをそのまま言葉にせず、含みや ”言いたいけど言えない、言わない” 沈黙も多く、見ている側がいつの間にかたくさんの感情を呼び起こされてしまうような台詞やシーンが多かった。「好き」「愛してる」と言うより「いや、いいんだ」といって不機嫌な表情で視線をそらす方が、募る思いをより強く表せることもある。

映像が美しい

日差しの明るいプーケットの風景をバックに、人がシルエットになる映像が美しかった。また、赤の使い方がとても印象的だった。光と影、色使いを生かした美しい映像が得意な監督なのだろうか。ドラマを見ていて、映像の撮り方の美しさにハッとさせられることが何度もあり、映像美もこのドラマを気に入った理由の一つ。ナルベート・グーノー監督、覚えておきたい。

主演の二人がよかった 〜テー(Billkin)とオーエウ(PP Krit)〜

主演の二人を全く知らなかったので、ドラマを見始めた時は特に思い入れはなかったが、見ているうちにどんどん惹かれていった。演技が素晴らしく、作品中でよく泣いていた二人を見ていると、辛くて自分も何度も泣きたくなった。
他のドラマで共演したことがきっかけで二人を主演にすえたこのドラマが作られたということで、役柄が二人にとても合っていた。

明るくてちょっとおちゃらけたところもありながら、繊細故に時にやや気難しそうにも見える、少しお節介で面倒見のいいテー(Billkin/プッティポン・アッサラッタナクン)。食堂を切り盛りしながら自分を育ててくれた母親をとても大切に思っており、その母をがっかりさせたくないと悩むことも多い。オーエウに対する得体の知れない感情をもてあましながらも、必死に向き合おうともがいていた。
そして、気が弱くて優しくてちょっと泣き虫で、テーのことが昔から大好きだからこそテーに時々意地を張ってしまう、笑顔が可愛いオーエウ(PP/クリット・アンムアイデーチャコーン)。両親はリゾートホテルを経営していて、お金持ちのお坊ちゃんらしいおっとりしたところがある。

二人の心は何度も引き寄せあいながら、何度も傷付け合って離れた。どちらが悪いともいえない状況での複雑な感情のやりとりは、胸キュンというより、見ていてかなり辛いものだった。単にお互いを好きか嫌いかの感情に翻弄されているだけではなく、恋愛と同時に、社会の常識や世間体、肉親への恩や愛情、友情、将来の夢などに向き合う姿が描かれていた。
すらりとした綺麗な二人だが、ドラマは決して彼らがかっこよく見える場面ばかりではなかったように思う。美しい二人のファンへのご褒美イチャイチャシーン満載のドラマではなかった。様々な感情を見せながらプーケットで青春を過ごす彼らがとにかく魅力的だった。

音楽もいい 〜ビウキンの歌う主題歌が心地よい〜

中国テイストな主題歌を、主演のテー役のビウキンBillkin(プッティポン・アッサラッタナクン)が歌っている。温かみのある優しい声で、聴くと物語を思い出してジーンとする。他にもドラマの中で歌が出てくるが、どれも素敵な曲で、このドラマのサントラが欲しくなってしまった。
他の方のnoteでこの主題歌のMVを見たのだが、もう一人の主演・オーエウ役のPP(クリットKrit・アンムアイデーチャコーン)も出演している。砂浜で互いを見つめ合いながら走るシーンがとてもいい。
音楽にのせられたタイ語はなんとも耳に心地よい。タイの音楽にはまりそうだ。

バス

ドラマの中で、オーエウにずっと心を寄せている同級生の男の子。とても大人しく、優しい子だった。よく出てくるもののあまり台詞もなく、オーエウをどのくらい好きなのだろうかと思いながらずっとドラマを見ていたが、受験直前の中国語の塾での最後の授業で、皆の前で好きだという気持ちをオーエウに伝えた。タイでも同性の恋愛はまだまだ受け入れられない中で(私はこのことを『ニラの復讐』を見て知った)、彼が自分の気持ちを皆の前で堂々とオーエウに伝えたことは、当時テーから恋を拒否されたばかりのオーエウにとっては、バスの誠実さ、優しさ、勇敢さを感じる出来事だったはず(この告白の時のテーの表情も見ていて辛かった)。
私はバスが好きだったなぁ。優しくて誠実でいざというときに頼りになる。大学入試も無事合格し、ずっと好きだったオーエウとやっと付き合えることになったのに、最後にオーエウの本当の気持ちを察して、テーとちゃんと向き合うようにとオーエウの背中を押してやったバス。いつもあまり感情を表に出さない内向的なバスが、ボロボロと涙を流して泣いていて、こちらも泣けてしまった。
オーエウの若さだったら、確かにテーを追いかけるのもわかる。
でも、歳を重ねた今の私は、バスのような人もいいと思える。振り返るといつもちゃんとこちらを優しく見つめていて、手を差し伸べてくれる誠実なバスのような人が。

ターン

テーの元?一時?彼女。ベタベタした感じのない、爽やかで可愛い人だった。
何か心に引っかかるところのあるような、態度のはっきりしないテーにしっかり向き合ってあげて、時に怒りを爆発させながらも、相談に乗り、心配し、慰め、励まし合い、恋人のような友人であると同時に、姉のように母のようにテーに寄り添ってきた彼女を、いつしか私はとても好きになっていた。
彼女の演技もとてもよく、最終話でテーから思いがけない気持ちを伝えらている時の表情はかわいそうで見ているのは辛かったが、短い間に驚き、戸惑い、失望、悲しみ、思いやりと優しさの表情が次々と映し出されて、見ていて泣けてきた。
タイの女優さんも、とても魅力的だ。

テーのお母さん

優しいお母さん。決して声を荒げることがない。タイのお母さんのイメージはこういう感じなのだろうか。台湾や中国のドラマで、眉間にシワを寄せて子供を叱りつけたり、静かな威圧感でいい子でいるようにじっくりとわが子に言い含める母親をいくつか見た後に(それはそれで愛情深い母親なのだが)このドラマを見ると、あまりにテーのお母さんが優しくてなんだかいつもちょっと泣きそうになってしまった。お兄ちゃんも優しくて、物静かだけど頼れる人だった(付き合っている彼女が日本人)。


繰り返しになってしまうが、素晴らしい作品だった。
現在は続編の『I Promised You the Moon』を見ている。こちらは舞台がバンコクに移り、都会での大学生活が始まって、音楽もちょっと都会的な感じに変わった。
こちらもとても面白いので感想をいずれ書きたい。





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