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『ひだまりが聴こえる』6話(日本/テレビドラマ/2024)

中学卒業時に患った突発性難聴のせいで人と距離を置いて付き合うようになった杉原航平役を中沢元紀、航平と偶然に大学のキャンパス内で出会い、授業補佐のためのノートテイクを引き受けて仲良くなる佐川太一役に小林虎之介。

5話で航平の太一に対する特別な気持ちが明かされて、今までの雰囲気が変わってしまったら嫌だなぁと、ちょっと心配だった。
でも、6話もいい感じだった。
友達のヨコとヤスが優しくていいやつ。航平の笑顔がかわいい。太一は子供みたいで、人にまっすぐで気持ちがいい。憎めなくて、応援したくなる。

あらすじ

太一は、航平のために正式なノートテイカーになるための講習を受ける事を決め、申し込む。

ある日、太一はいつも一緒に遊んでいるヨコ、ヤス、そして航平や仲のいい女子とみんなでキャンプに行く。みんなが夕食の支度をしている間に、食材調達のため川に魚釣りに行く二人。航平があまり楽しそうでない事を心配した太一だったが、実は航平はとても楽しくて嬉しくて、それを必死に隠そうとしていただけだった。そんな必要はないと太一に言われ、安心して気持ちを素直に現して嬉しそうに笑う航平だった。そしてその嬉しそうに笑う航平の横顔を見つめる太一の気持ちは揺れた。

夜、眠れず、外に出て夜空を見上げる航平のもとに、太一がやってくる。簡単な手話を航平に教えてもらう太一。太一の手話を訂正しようとそっと手に触れた途端、航平はハッとして手を引っ込め顔を背ける。教えてもらった自分の名前を練習して「できた。こう?」と嬉しそうに見せた太一の手首を航平は急に掴むと「そんなに無防備だと、またキスとかされちゃうよ」と呟く。俯いて戸惑いを見せた太一に「冗談」と微笑んで、航平はその場を後にした。

皆が寝静まる部屋に戻り床についた二人は、あの日航平が太一にした突然のキスを思い出していた。「もう、あんなことはしないよ。太一が嫌がるようなことはしない」と航平は暗闇で隣の太一に伝える。「嫌じゃなかったらどうすんだよ・・・」静かに言った太一の言葉は、航平には聞き取れなかった。

休み明け、太一と航平は二人一緒にノートテイクの講習会に参加する。太一に大変な思いをさせたくないから、本格的なノートテイクでなくても今まで通りいいいと言う航平に、諦めず頑張りたいと言う太一だった。嬉しそうに微笑む航平。
講習を受ける傍ら、普段の授業でノートテイクを続ける太一とその横に並ぶ航平には、穏やかな時間が流れる。

新しい春が来て、新入生がやってくる。サークル勧誘で、太一は偶然航平の後輩マヤに出会う。

感想

太一からの週末キャンプへの誘いのメールが来た時、息を飲んでメールに見入っていた航平が、そのキャンプはいつのも友人たちとのグループキャンプであると分かり、ほっとしながらちょっとがっかりしていたのが可愛かった。二人でキャンプ!?って、ドキッとしたでしょうねぇ。と、泊まり!?って。何だ、二人きりじゃないんだ・・・ってなったでしょうねぇ。

以前航平のことで太一と喧嘩別れした美穂ちゃん(ヨコの従姉妹)もキャンプに参加。仲直りできてよかった。彼女の喫茶店での航平に関する言葉は確かに思いやりにかける部分はあったが、彼女が特段無神経な人物というわけではなく、自分も陥りやすい失敗で、現実にありがちな感じがした。彼女はあとで太一の言葉や航平の状況を改めて考え、自分の言葉を反省し謝ることができるまともな心を持っていた。世の中こういういい人ばかりではない。

ノートテイクの講習の説明がとても興味深かった。難しいということが、講習会での簡潔な説明からもわかった。すごいスキルだ。

あれほど嫌がっていた手話サークルに5話で参加を決めた航平だったが、サークルでは楽しくやれていた。聴覚に障害があるというだけで、いきなり手話を交えて自分に話しかけてきて勧誘するサークルの女の子二人をずっと迷惑がっていたが、彼女たちも太一と同じように、気持ちを伝える事を諦めない人たちだった。断られ受け入れられなくても、それに腹を立てたり恨んだりしない。いつでも待っているから、と言い続け、相手がドアを叩けばいつでも受け入れる。こういうことも、なかなかできることではないと思う。

太一と航平の育った環境の違い

1話から6話までドラマを見てきて感じた事を少し。

私は航平の言葉遣いが優しくてすきだ。「〜でしょ?」「〜なの?」と、普通にいう。ドラマを見返して、この航平の話し方は、あのお母さんと二人での生活から身についたものなのかなと思った。お父さんは仕事で不在がちのようで(確か単身赴任)、ドラマでは家で明るくてかわいい母親とふたりの暮らしが描かれている。その生活のなかでよく使いいつしか当たり前になった話し方があの優しい話し方なのかなと。
他方の太一の言葉遣いは、ぶっきらぼうで勢いがある。これは存在感抜群のあのおじいちゃん譲りだろう。親元で暮らしていた頃はもっと違う話し方だったのだろうけれど、おじいちゃんと暮らすようになってその言葉遣いが後付けで入ってきたのだろう。
二人の生活ぶりが、言葉遣いに現れていて面白い。
生活ぶりといえば、二人の住環境もかなり違う。
航平の家は、立派な門がある大きな家。母親が料理教室をしているので多くの人が出入りすることもあり、白系を基調にした、日当たりのよさそうな明るくておしゃれな部屋が印象的。
太一の家はおじいちゃんの家で、昭和な雰囲気。時に薄暗さが強調されるシーンもあり、それは太一の心の影もあらわしている。
二人はかなり違う環境の中で育ってきたのだと、それぞれの家のシーンをみても感じる。

航平は、聴覚に障害をおい、人との関係に傷ついた。でも、頭も見た目もよく、家庭環境や経済的にもとても恵まれていると言える。今、太一という信頼できる相手ができて、人間関係にも希望を見出せている。
そして、一番信頼できるはずの両親に見捨てられた太一の寂しさ悲しさ不安もまたとても大きいのだ。人間関係について抱える心の傷は、実は太一もまた航平とおなじくらいに深いのだと思う。そんな太一にとって、恋か友情かはともかく、航平は失いたくない大事な存在になっているのだろう。航平はよく太一の事を鈍感だ、鈍いというけれど、太一が航平を失いたくないとどれほど強く思っているかを、航平はわかっていないのかもしれない。

眠れなかったキャンプの夜の二人

眠れなかったキャンプの夜、星空の下での二人のやりとりは恋が溢れていて切なかった。
航平は太一への特別な想いを隠すことができない。航平の恋の気持ちはかなり高まっていて、その航平の言動は時に太一を怯ませる。あんな事を夜空の下で言ってしまう航平はやはりモテるタイプの人だ。
航平は太一が好き。太一はどうなんだろう。航平のことは相変わらず好きだし、一緒にいたいし、航平を支えたい、笑顔が見たい。でも、どうしたいのかどこかまだ戸惑う感じが、とてもいい。

気持ちを伝えても、そこから先になかなか進めないとか、やっと手を繋ぎ、たとえキスまでしても、それ以上に何をどうしたいのかわからず悶々として関係が一進一退するという展開は、最近のBLドラマではあまり見なくなった気がする。主人公が学生だとそう言う展開はまだまだあるが、大人が主人公だと、世間のBLドラマに対する心理的ハードルが低くなったせいか、どんどん深い関係に進むストーリーが少なくない。そして、私もそれに慣れてきてしまった。
でも元々私は "なかなか深い関係に発展していけないストーリー" が好きだった。今年初めに見た『マイ ストロベリー フィルム』の中の、男子二人のとても淡い恋は美しかった。激しいラブシーンやベッドシーンも珍しくなくなり、肌の露出が多くなったBLドラマを見ながら、今でも心のどこかでそうではない切ない恋物語を見たいと思っている。だから私は今このドラマにはまっているのかもしれない。
このドラマの授業シーンの中で、”プラトニックラブ”という言葉が出てきた。中沢くんの演じる航平と虎之介くんの太一なら、そんな関係も素敵だと思う。原作もあるし、今後どうなるかわからないけれど。

今だからこそ、プラトニックラブのBLだって、いい。


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