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『君となら恋をしてみても』(日本/テレビドラマ/2023)

江ノ島を舞台にした高校生のBL。なんだか字面だけでも眩し過ぎて、見る前はちょっと引いていたのに、このドラマは気に入ってしまった。

8回くらいあるのかと思ってみていたら、5回で終了。『ワンルームエンジェル』でも書いたけれど、話を盛り上げるためにすれ違いエピソードをねじ込んで長引かせるより、短く終わったほうがいいかなぁと、最近BLドラマを見ながら思う。優しい気持ちで見終われるいいドラマだった。
久しぶりにいいBLドラマに出会った気がするので、鑑賞の記録として今思い浮かぶことをまとまりないままだが残しておこうと思う。

天(大倉空人)の設定が面白かった

理由は忘れたが、彼は江ノ島の祖母の元に一人引っ越してきた。
天は初めから同性が恋愛対象だった。引っ越してくる前の土地では、中学時代に友人の男の子に恋を告白して揶揄されて傷つき、もう真剣な恋はしないと諦め、大人の男性と遊びの深い付き合いをしていた。江ノ島に転校してからは、体育の時間にクラスの男子の品定めをして楽しんでいたのが面白かった。女子には興味なし。そんな天が、優しくて面倒みがよく、父を早くになくして苦労してきたであろう親孝行な龍司に次第に惹かれていった。クラスで決して目立つ特別な存在ではなく、”クラスの普通の男子”の龍司に天が惹かれていったのが新鮮だった。

龍司(日向亘)がよかった

魅力的だったのが、江ノ島に転校してきた海堂天(大倉空人)が恋をする相手、山菅龍司。
父を病気でなくして以来、江ノ島で観光客相手の食堂を切り盛りする母を手伝っている。これまで見たBLドラマでは、恋する二人のどちらかは、カッコよくて女子からも人気で頭も良く非の打ちどころの”スターな人”という設定もかなりあったが、彼はそうではなかった。家の手伝いが忙しいので友達と遊びに行くこともあまりなさそうだし、勉強もそれほどできていないため、テストも赤点回避を目標に必死になっているくらい。期末テストで学年トップになったりなどしない。授業中に体育館でバスケットをしていて女子にキャーキャー言われたり、呼び出されて女子から告白されたりもしない。授業中も、疲れて机に突っ伏して居眠り。夏休みは家の食堂がかき入れ時なので忙しく、友達と遊びに行くこともままならない。クラスの女子からも特別気にされる存在でもない感じで、クラスの普通の男子の一人という雰囲気。キラキラとした特別な存在の男子ではなかった。
最初は友人としてだんだん仲良くなっていった天と龍司。転校してきた新しい友人である天を気遣う面倒みのいい優しい男の子だった。天が同性を好きだと打ち明けても、不思議なくらいそのまま受け入れた。そのことが理由で傷ついた天の経験も、優しく聞いてくれた。天から”龍司くんが好き”と告白されたときには、性別云々より「友達から初めて告白された」ということに照れまくって喜んでいた。天の気持ちを茶化したり、否定することもなく、自分はまだ同じ気持ちにまではなれないとその時点での気持ちを正直に伝え、その気持ちを受け止めて、これまで通り仲良く付き合えた。同時に、どう返事してどう向き合っていくかを真剣に考えていた。

私がこのドラマを見ていてちょっと胸がキュッとなったシーンは、BLらしい恋のシーンではなく、龍司が家の食堂で働く手をちょっと止めて、窓の向こうに広がる海を見やるところだった。父親が他界してから、彼はきっと家の手伝いをして母を支えるためにいろいろなことを我慢してきたのだろうなぁと感じた。中学から高校にかけてと言えば、家族とよりも友達と遊びに出かけたい年頃。龍司は嫌われているわけではないので遊びに誘ってくれる友達はいるようだったが、父に替わって家族を支えなければという責任感から、友達と楽しく過ごしたいという自分の気持ちにいつの間にか蓋をして過ごすようになってきたのではないかと思えた。毎年夏の海をこの食堂の窓から寂しく見つめながら、友達との夏の思い出の一つも作れないまま過ぎ去っていく夏休みを見送ってきたのだろう。それまでの夏休みはいつも店の手伝いとたまった宿題に追われて過ぎ去っていったと、ドラマの中でも語られていた。大好きだった父を亡くした辛さや母を支えなくてはという責任の重圧を心に抱え、まだ子どもなのに一生懸命に母を支えて頑張ってきたのだろうなぁと思うと、胸がきゅっとなった。

そんな龍司のこの夏は、いつもとは違っていた。相変わらず店は忙しいし、宿題もある。でも、楽しみがあった。今まではどこかで諦めていた自分のための楽しみ。大好きな友達と花火大会に行く約束。食堂のなじみ客にちょっと照れながら「今年は楽しみなことがあるんですよ」とニコニコして龍司が話すシーンにも、また胸がキュッとなった。今までは自分の楽しみは後回しにすることに慣れっこになっていた龍司が、なんとか時間を作ってでも出かけたいと思えたのだ。そう思わせてくれた相手が天だった。自分の辛い経験を打ち明けてくれた天。自分と一緒にいるといつも嬉しそうな天。自分への恋を打ち明けてくれた初めての相手、天。龍司は、恋を告白してくれた天の気持ちと共に、理由があってもなくても天に会いたい一緒にいたいと思う自分の気持ちも大切にしようと思えたのだと思う。自分の気持ちを抑えてこまなかった龍司を見て、「よかったね」と思った。

B Lドラマには、誤解から来るハプニングで二人の気持ちが噛み合わなくなり一騒動という設定がよくある。おそらくストーリーを盛り上げるために、そのすれ違いが盛り込まれるのだろうけれど、もはや定番化しているすれ違いエピソードでは、みているこちらは気持ちが盛り上がれないことが多くなってきた。でも、このドラマではその余計な一波乱はなかった。
お互いにちゃんと向き合って気持ちを伝え合い、焦らずに少しずつ想いを近づけていった二人がとてもよかった。

浜辺でのキスの後、照れて決まりが悪そうな龍司がかわいかった。そして、あんなに照れ臭そうだったのに、すぐにまたもう一度キスしたいと言った龍司がまたさらに可愛かった。
飾り気がなく、明るく、爽やかで、思いやりがあって、ちょっと照れ屋なナイスガイの龍司を、日向亘が綺麗になりすぎずに男っぽさも漂わせながらいい感じで演じていた。

予想外にいいBLドラマに出会えた。







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