水野翠(みずの みどり)

理系大学で修士号を取得後、就職しました。 本を読んだり旅をしたりするのが好きです。

水野翠(みずの みどり)

理系大学で修士号を取得後、就職しました。 本を読んだり旅をしたりするのが好きです。

最近の記事

10分ちょっとの魔力

「にじさんじって、すごい『新次元の禁じ手』っぽい気がしないですか」 深い森から現れたような魔女の衣装に身を包んだ彼女はそう言った。その声は少し誇らしげにさえ聞こえた。  10月31日はハロウィンだった。子どもの頃は色々やっていた気もするが、社会人にとっては一平日に過ぎない。そんな中で月ノ美兎委員長が久しぶりに配信をするという投稿が流れてきた。彼女はしばらく前にエジプトに行った後に熱が出たとのことだったので、どんな配信をするのかと思っていたが、まさかの新衣装お披露目とのことだ

    • 船で群馬に行った話

       僕は今、船に乗っている。今日は朝から空が灰色で時々小雨が降っていたが、今は止んでいる。水面は思ったよりも穏やかで、ロープを解くと船は滑るように岸を離れた。 「席は濡れてるかもしれないから、立ってた方がいいよ」 オレンジ色のライフジャケットを身に着けた船員の男性は、ただ一人の乗客に声をかける。僕は手すりにつかまって対岸に目をやる。そこに見えたのは群馬の姿だった。  まずは高崎線で今回の起点となる熊谷駅へと向かう。熊谷は埼玉県北部の主要都市であり、全国有数の暑い街としても有名

      • 夜更けの街で

         2024年9月21日夜の10時過ぎ、僕は釧路の繁華街のとあるカラオケ店の一室にいた。大きなモニターには目もくれず、マイク代わりに握られたスマホの画面で京都旅行の動画を見ている。ここが今夜の宿代わりだ。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。話はおよそ1か月ほど前に遡る。  東根室駅が廃止されるかもしれない。お盆も過ぎた8月後半にそんなニュース記事を目にした。東根室駅は現時点で日本最東端に位置する駅である。僕は学生時代に日本最北端の稚内駅と日本最南端の西大山駅に到達し

        • 推理する者の責任

           2024年も早いもので8月を迎えた。学生たちは夏休みを迎え、朝の電車も少し空くかと思いきや、部活に向かうユニフォーム姿が目立つようになったものの、思ったほど空いてはいない。職場は冷房が効いており、夏を感じるのは通勤時間と外歩きだけというのでは、あまりにも虚しい社会人になってしまう。だからこそ、夏ならば夏が舞台の小説を読みたくなる。例えば『真夏の方程式』は、ここ数年、夏になる度に読み返している。  『真夏の方程式』は東野圭吾の推理小説、ガリレオシリーズの長編第3作目にあたる

          日常の謎

           前の記事で『氷菓』について書いたのだが、実は米澤穂信の小説の中で僕が初めて読んだのは『さよなら妖精』であった。というのも、僕が書店で『氷菓』を買おうとしたとき、ちょうど売り切れていたのだ。仕方なく他の文庫を見ていたところ、たまたま目に入ったのが『さよなら妖精』だった。   以前の記事でも書いたが、僕はアニメ作品としての『氷菓』を既に視聴していた。それに、この作品が『氷菓』を含む〈古典部シリーズ〉の完結編として構想されたものであるらしいという話も聞いていたので、買って読んでみ

          氷菓が欲しくなる時期

           6月も半ばを迎え、ここ数日気温は上がる一方です。この週末は、ついに我が家でもエアコンを動かし始めました。こんな時期になると氷菓が欲しくなりますね。  「氷菓」という文字を見て、皆さんは何を思い浮かべますか?冷凍庫に入った冷たくて甘いものですか?今や直木賞作家となった米澤穂信のデビュー作にして〈古典部〉シリーズの第1作、もしくはそれを原作としたアニメ『氷菓』ですか? わたし、気になります。   「僕が一番好きな「氷菓」は新幹線の車内販売で売っているアイスクリームだ。ドライアイ

          氷菓が欲しくなる時期

          さん(まん)ぽ 後編

           前編から引き続き、霞城公園からさんぽを再開した。昼過ぎになるとだいぶ暑くなってきたので公園内で木陰を求めて歩いていると、変わった模様のマンホールを発見した。山形はベニバナの産地として有名である。江戸時代には前編で見た左沢の辺りを流れていた最上川を利用した水運で日本海側の酒田へ運ばれ、西廻り航路で京の都へ届けられていたようだ。この最上川の水運の整備に大きな役割を果たしたのが、この城(山形城)の城主であった最上氏ということであるようだ。  その後、霞城公園を抜けて山形の中心市

          さん(まん)ぽ 前編

           昔のことばかり書いている気がするので、最近のことを書こう。10連休なんてものとは無縁の僕はどこかへ行く気も起きず、ゴールデンウィーク前半の3連休を無為に過ごした。そしてやってきた平日。SNSで引き続き連休を満喫する知り合いを目に僕は仕事をしていた。そんな4月最後の日、月ノ美兎委員長から3D新衣装のお披露目を行うという発表があった。これで僕は3日間の平日を耐え、後半への望みをつなぐことができた。まずはこんな駄文を読む前に、この配信を見てほしい。  5月3日に行われたこの配信

          さん(まん)ぽ 前編

          白衣と『ガリレオ』(1)

           皆さんは白衣を着たことがあるだろうか?僕の家には少なくとも3着の白衣がある。それぞれ中学、高校、大学の頃に買ったものだ。だから僕は中学生のころから白衣を着ていたことになる。  僕は小学校の高学年くらいから、いわゆる科学の実験が大好きな子どもだった。特に福山雅治主演のテレビドラマ『ガリレオ』は食い入るように見ていたことははっきりと覚えているし、僕のその後の進路に少なくとも影響を与えたことは間違いないだろう。不可解な事件を天才物理学者である湯川学が科学を用いて解決する。彼は白

          白衣と『ガリレオ』(1)

          桜が咲くと思い出す

           先日、新海誠監督の映画『すずめの戸締まり』が地上波で初めて放映された。そして、東京では桜が満開になった。この時期になると毎年あの作品のことが頭によぎる。僕が初めて見た新海監督の作品『秒速5センチメートル』である。僕が初めてこの作品を見たのは2013年の春、『言の葉の庭』の公開直前のことだった。  第1話「桜花抄」では、中学生になった主人公の遠野貴樹が、小学校の同級生で栃木に転校してしまった篠原明里に会いに小田急線の豪徳寺駅から両毛線の岩船駅へ向かうシーンが描かれている。僕

          1Q84と2024

           僕はここ1か月ほどの通勤時間を使って、村上春樹の『1Q84』を読んでいた。今まで村上春樹の作品はいくつか読んだことがあったが、『1Q84』は未読だった。読み始めたきっかけはバーチャルYoutuberの月ノ美兎(以下 委員長)の2024年2月28日の雑談配信であった。僕は結構長い間、委員長の配信や動画が好きで見ているのだが、それについては別の機会で触れたいと思う。  この配信の中で、委員長の朝読書の話題から村上春樹の作品について触れている部分があった。詳細は委員長の配信を見