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海外で起業するという事~5年目の振り返り

タイで起業し、12月で5期目が終了しました。よく「ベンチャーは3年で8割つぶれる」とか言いますし、海外での起業となるとさらに難易度が上がる部分もある(一方で良いこともたくさんある)ので、とりあえず続けてこられてよかったと思っています。

この5年間で、周りにいる人たちの顔ぶれはだいぶ入れ替わりました。

大手の駐在員の方も5年もすれば殆ど入れ替わります。ベンチャーは3年で芽が出なければ見切りをつけて撤退かピボットするケースが多いでしょう。また、5年も経つとライフステージも変わります。結婚して日本に帰るとか、お子さんが中学生になったのでやはり拠点を日本に移しますとか、色々なライフイベントが起こるので、当然仕事についても再考せざるを得なくなります。海外にいる日本人は、多かれ少なかれ様々な将来不安を抱えながら日々を過ごしています。

周囲を見ていると、海外で起業したいという若者はまだ増えているように思います。自分はまだ大して成功している部類には入りませんが、一人一人の経験が、後からチャレンジする人にとっては価値ある知恵になると思うので、ここで自分自身の振り返りをまとめておきます。

■おカネ ~とにかくキャッシュを回し続ける

5年間、寝ることや食べること以外に毎日必ずやっていたことと言えば、銀行口座を眺めることだったと思います。毎日口座を眺め、資金繰りのチェックをし続けました。不思議なものでお金があっても無くても、数字を見ると気持ちが落ち着くのでこれは僕の日課になりました。

ベンチャーはとにもかくにもお金です。これは日本でも海外でも変わりません。お金があれば人を雇い、プロダクトを作れます。お金があれば取れるオプションが全然違います。いかにしてお金を用立てて、大切に使い、そして「ここ」という時に「張る」ことが出来るかが大事です。

ビジネスには「スケール型事業」と「キャッシュエンジン型事業」というものがありますが、海外起業においては、潤沢な資金を調達できたケースを除いては、「キャッシュエンジン型事業」を持っていないとなかなか厳しいです。

なぜならば、日本人のプレイヤーがローカルマーケットでポジションを得るのは簡単ではなく、時間がかかるからです。ゆえに、そこまでキャッシュが持たずに撤退やピボットを余儀なくされるケースがとても多いです。

また、「アジアだから色々なものが安いでしょ」という時代も、ASEANでは終わりつつあります。優秀なローカル人材を雇おうと思えば日本人とほぼ変わらないかそれ以上の賃金が発生しますし、家賃なども日本のそれと変わらないかむしろ高い国も多い。しかるにそれなりのお金を持って、ないしは稼ぎながら勝負しないといけません。

ある方が、「B2Bで起業するならCEOは法人営業経験者、B2Cで起業するならマーケティング経験者が一番強い」と言っていましたが、自分もその考えに同意します。何とか困ったときにキャッシュを稼ぐ力があるかどうか、というのはベンチャー起業においてとても大切だと思います。自分も苦しい時期がありましたが、何とか営業してお金を稼ぐスキルがあったため、今までのところキャッシュを持たせながら走ってくることが出来ました。

■パートナー ~「結婚しよう」と思った相手を信じ続ける

海外ビジネスでは1にも2にもパートナーです。タイのように資本パートナーが必要になる場合が多い国もあればそうでは無い国もありますが、やはり事業パートナーはいた方が良いです。

理由は、良質なネットワークの中に身を置くことで得られるものが多いからです。自分がまだタイについての知識が何もない時は、営業やマーケティング方法について、今から思えばずいぶん見当違いな方法を取っていました。今はネットワークがあるため、これを実現したければ誰に聞けばよいか、誰に頼めばよいか、がだいたいわかります。こうした一つ一つのアクションの精度とスピードが、ネットワークを持っているかどうかで全然違うのです。

このネットワークというのは現地に住んで時間を過ごさないとなかなか深まっていかないものです。ゆえに、その国に「根を張る」というのはやはり大切なことだと思います。

ただし、パートナーとはどこかで必ず揉めると思った方が良いです。100%円満に行っているパートナーシップ関係は見たことがありません。悪意のある一部のパートナーは論外として、良質なパートナーであっても、双方にそれぞれの利益がある以上、必ず摩擦は起きます。その摩擦が事業のアキレス腱となってしまうケースもままあります。

大切なのは「摩擦が起きたとしても、このパートナーを信じ続けたいか?」をあらかじめ自分に問う事です。よく「信頼できるパートナー」と言いますが、信頼は「できるかどうか」ではなく自分が「するかどうか」です。

これはある意味で結婚と似ています。一緒に過ごしていれば相手を信じられなくなることもあります。それでも毎回「ボタンの掛け違い」を直して、また一緒に前を向ける忍耐強さがあるか。これが問われます。ましてやビジネスでのパートナーシップは時に結婚以上に関係解消が難しいこともあります。自分の場合は本当にパートナーに恵まれたと思いますし、またパートナーとの関係を紡ぎなおす中で経営者として成長したと思っています。

ともかく海外事業はパートナーが重要です。パートナー選定をするとき、僕は以下のような問いを立てることをしばしばアドバイスします。これはつまりパートナーを選ぶ基準でもあり、パートナーを選ぶ自分の覚悟を試す問いです。

1)そのパートナーと自社にはどんな「共通の目的」があるか?

2)自社の成功だけでなく、パートナーの成功も応援したいと強く思うか?

3)自社の目的達成のためにパートナーが持つ能力は何か?パートナーの目的達成のために自社が持つ能力は何か? 

4)万が一パートナー関係が失敗したとしても、そこに費やしたお金や時間を無駄ではなかったと思える相手か?

・・・長くなったので「その2」に続きます。ビジョン、戦略、メンバー、家族、あたりについて書いていく予定です。

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