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タイ起業10年記③~なぜタイにコミットすると決めたのか

起業する際、自分には2つの選択肢があった。

「シンガポールで起業するか、タイで起業するか」だ。

この2か国限定なのはそこにしか土地勘が無かったからだが、いずれ東南アジア全域でビジネスしてみたいという夢は持ちつつも、どちらがスタート地点として適切なのかを最初はあれこれと悩んだ。

それでも「タイを選ぶ」という結論は割と早めに出た。

そこには一つの原体験があったから。

ーーー

独立前、多くの日系企業を訪問して話を聞くのが僕の仕事だった。

数多くの工業団地を有するタイには無数の日系企業が存在し、そこでタイ人を多数雇用し、「ものづくり王国」を作ってきたのが日本企業の歴史だ。

ただし、人材管理には多くの課題があった。

ヒアリングをすると、タイ人は日本人の文句を言い、そして日本人はタイ人の悪口を言っていた。仕事とはいえ、僕は両者の間に入って毎回それを聞かされるのが結構しんどくなっていた。

海外拠点というのは、どこに行っても駐在員とローカルスタッフの間に軋轢がかならずあるものだ。

しかし、「タイ人はさぁ」「タイ人って〇〇だよね」という時に含まれる独特の見下した感じのニュアンスは、"シンガポール人は" "インド人は"というものとは少し異質の、蔑視したトーンが含まれる感じがして嫌だった。

ある会社のMD(社長)は僕にこういった。

「うちのタイ人は、要するに小学生なんですよ。会社に遊びに来ていると思っている。基本的なことは何もできない。だから何にも知らないと思って、教育していかないとダメなんですよ」

「そんな言い方は無いだろう・・」と正直感じた。
ふと目をやると、社長室のドアが開いている。そしてすぐそこにはタイ人の総務部のテーブルがある。

「これ、聞こえてるんじゃないの?」と僕は思った。

日本語を理解するタイ人は結構多いし、理解していなくても会話のトーンで、だいたいどんな話をしているかは察しが付くものだ。こういう会話を、このタイ人スタッフは毎日聞かされているわけだ。そりゃ会社も辞めるし、社員が育たないのも無理はない。

上司が部下の悪口を言っていて、部下が育つわけがない。
自分の部下をダメだダメだと言っているのは、自分のマネジメントがダメだと言っているのと同じだ。

こういう根本的な誤解が、この国には各所にある。もちろん素晴らしい経営をしている会社もあったが、全体としてはネガティブな組織の方が多く目についた。

日系企業がタイに進出したのは1950年代からだ。
それから60年以上も経っているのに、基本的な上司部下の関係性さえ築くことが出来ていない。

その理由の一つは「組織の継続性の無さ」にある。
タイ人も会社を辞めるが、日本人駐在員も入れ替わる。会社のカルチャーや制度を変えようとしても、その定着には時間がかかる。キーマンが入れ替わることで、せっかくの変革がリセットされてしまうわけだ。
海外拠点の経営の難しさがそこにある。

「誰かが腰を据えて変革しないと、変わらない。」

「それをやるのは自分じゃないのか?」

そういう使命感が自分の中に湧いてきた。
課題が明確な国には、やるべき仕事も沢山あるはずだ。そして、僕はタイでの仕事に賭けてみることにした。

ーーー

それが仕事面の理由だが、タイ選んだもう一つの理由は、「子供をどの国で育てるか」という側面だ。

シンガポールとタイ。
その2か国のどちらで子供を育てるかと考えた時に、僕の中では圧倒的にタイだった。

2年シンガポールに住んだ結果、「この国で子供を育てる」という選択肢は僕の中では完全に消えていたのだ。

(つづく)



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