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職場の「モンスター社員」はなぜ生まれるのか?

タイの多くの会社で研修などを担当させていただいていますが、必ず「周囲とうまく仕事ができず、問題ばかり起こす人がいて困っています。どうしたらよいでしょうか?」という質問が出ます。

これは、国を問わず共通して同じ傾向です。

こうした社員は時に攻撃的になるあまり、誰も近寄れないモンスターのようになっていることもあります。

今日は、多くの職場の悩みとなっているこの「モンスター社員との接し方」について取り上げてみます。

■モンスター社員の特徴


 まず、モンスター社員とは一般的に言ってどんな人なのでしょうか。

多くの場合、感情の起伏が激しくイライラを表出しています。表情も笑顔が少なく、どちらかというと強張った表情をしています。

仕事にはある程度熱心で専門性も高いのですが、自分のやり方にこだわるあまり柔軟性に欠けます。そのため、周囲と仕事の調整がうまくいかず、組織に軋轢を生みます。
 
周囲もその方と衝突したくないため、コミュニケーションを避けがちになります。「あの人に話をするのは大変だから」と、周りが忖度を始めます。

結果として、余計な調整ばかり増えて時間や労力を奪われます。そして、職場に非へ移管が漂い業務の生産性が落ちていく・・。

こうした組織の「重し」になっている人。これが典型的なモンスター社員のイメージです。

このような人の存在は決して珍しくなく、タイでも日本でも、多くの職場に存在するのではないでしょうか。

■「べき論」で人は動かない


 まず、こうした人に対してやってはならないことがあります。
それは、「べき論」を押し付けることです。
 
つまり、

「そんな態度はマネージャー失格と言わざるを得ません。」
「このままではあなたに昇給はありませんよ。」

などとルールや定義を利用して、本人に不足点を注意することです。

もちろん、それらは正論です。
ですが、正論で人が動けばそれほど簡単なことはありません。
 
言われたほうは、恐らくさらに不機嫌になるでしょう。

あるいは、
「自分の業務は問題なくやっていますよね?」
「評価の基準を明確に示してもらえますか?」

と反論してきて、口論になるかもしれません。

こうなってしまうと、「その人の態度を軟化させたい」という目的からは逆の結果に帰結してしまいます。
 
なぜこういうことが起こるのか。
 
それは、たいていの場合は「モンスター社員は、自分の問題を分かっている」からです。

周囲とうまくいってないことは明らかで、口には出しませんがそれを誰よりも不安に感じているのは当の本人です。
 
人には、「自分がわかっていることを他人から言われたくない」という心理があります。
 
皆さんも、基本的なことを上司から指摘されると「そんなことわかってますよ!」と苛立つ気持ちになることはないでしょうか。
 
相手に何かを伝えたければ、相手がわかっているであろうことは、極力言わない。あるいは、すごく言い方を気を付けて伝えてあげる必要があります。
 
では、その人物にたいしてどういうアクションを起こせばいいのでしょうか。

■「理解する」ことで人は変わる


まずは「その人を理解しようとする」ことがとても大切です。
 
多くの場合、モンスター社員は初めからモンスター社員だったわけではありません。
何かをきっかけに、あるいは長年の積み重ねでだんだんと難しい態度をとるようになっていくのです。

また、誰からも褒めてもらえずにいると、認めてほしいがあまり周囲に強く「自己呈示」(自分の正当さを示す)を始めます。
 
モンスター社員の根底にあるのは「寂しさ」です。

人間は寂しさを感じると、怒り出します。
周囲と打ち解けられない寂しさ。
周囲が自分に本音で接してくれない悲しさ。
誰からも理解されず一人ぼっちで過ごす孤独感。
 
こうした感情が積み重なって、問題行動を作っていくのです。
 
つまり、「モンスター社員を作ったのは、自分も含めた周囲の同僚たちだった」
そんな一面もあるのではないでしょうか。
 
もちろん本人の態度や行動に問題があることは間違いがないでしょう。
ですが、そこに対して向き合うことを避けてきた私たちにも原因がある。
 
「自分たちの接し方にも問題があったかもしれない」
そう内省することができると、あなたの本人に対する接し方は徐々に変わってくるでしょう。
 
まずはその人が、なぜそうなっていて、今どんな思いでいるのかに思いを馳せてみましょう。
 
多くの場合、「見えていない部分」が原因になっていることが珍しくありません。
 
例えば、ご家族との関係性に問題を抱えている。
大切に育てていたペットがいなくなってしまった。
年齢を重ね、健康や人生設計に漠然とした不安がある。
 
そんな「職場では見えない部分」にどんなことが起きているのかを理解しようとすることも大切です。
できれば本人と対話をして、仕事以外の生活がどうなっているのかの理解に努めましょう。「まずは聞いて理解するだけ」をゴールにしたミーティングを持ってもいいと思います。
 
そうした背景を知ることで、あなたからその人物への印象も変わっていくでしょう。
また、本人も背景を知ろうとしてくれたことに大きな喜びを感じ、変化の兆しを見せるのではないでしょうか。

■心を込めてフィードバックする


 
「理解する」ステージが重要な地ならしとなりますが、それを経て相手に「伝える」というステージに進んでいきます。いわゆる「フィードバック」です。
 
フィードバックに魔法はありません。
相手の行動にどのような問題があって、それをあなたはどう思っているのか。
今後、どのように変わってほしいのか。それを正直に伝えましょう。
 
重要なのは、「気持ちを込めて、まっすぐに伝える」ということです。
同じ内容を伝えていても、気持ちがこもっているかどうかで反応は全く変わります。
先程の「会社の規定ではこうだから」という「べき論」は気持ちがこもっていないコミュニケーションの典型です。ルールに代わりにしゃべってもらっても人の心は動きません。

 
「私は、あなたが職場にいてくれてとても助かっています。仕事の品質は誰よりも高いと思っています。これからもご活躍頂きたいので、だからこそ、お願いがあります。もう少し周囲と打ち解けるコミュニケーションをとっていただけないでしょうか。もちろん、私も頑張ります。一緒に取り組んでいきませんか?」


 例えばこのように「私はあなたについて、こう思っています」という気持ちをしっかりと伝えましょう。
 
「理解する」のステージが十分でないと、相手に対する不満や攻撃的なニュアンスがどうしても出てしまいます。

口先だけ整えても、腹の中で思っていることは必ず表情に出ます。その人の良いところや尊敬できることを書き出し、自分の心をまずはしっかりと整えましょう。
 
「みんながあなたとのコミュニケーションを恐れていますよ」という第3者を主語にしたフィードバックも厳禁です。先ほどの「べき論」と同じで、誰かにかわりにしゃべってもらおうとしているにすぎません。
 
フィードバックは、「リスクを取り、返り血を浴びる覚悟で」行うからこそ効果があるのです。
 
今回お伝えしたことを実践するのは決して簡単なことではありませんが、皆さんの職場のコミュケーションが少しでも改善することを願っています。

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