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海外在留日本人の数が初めて減ったという話

外務省から「海外在留邦人数調査統計」というのが毎年発表されます。海外在留邦人の一人として毎年結果を楽しみにしているのですが、今年はコロナの影響が初めて数字に表れる年ということで特に注目していました。

調査は毎年10月に行われますので、今回出た結果は10月時点の結果です。直近の半年の動きまでは捕捉できませんが、コロナ発生以降、海外に住む日本人にどんな影響があったのかをある程度考察できるものにはなっています。ダイジェストで触れておきます。(数字はすべて上記サイトから取っています)

海外在留日本人は初めて減少した

海外に住む日本人の総数は令和元年の141万人から約6万人減って、135万人となりました(3.7%の減少)。少なくとも調査結果が開示されている平成以降では初めての減少となります。

※下記グラフの黄色は「長期滞在者」、水色は「永住者」。(実は、永住者は増えています。この点はあとで触れます。)

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国別上位10か国のうち、タイだけが増えていた

日本人の数が多い上位10か国の国別の推移を見てみます。

上位10か国は米国、中国、オーストラリア、タイ、カナダ・・・の順にほとんど顔ぶれはこのところ変わっていません。

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国ごとに差はありますが、だいたい5%程度は減少傾向にあります。特に韓国は-11.3%と最大の減少幅を示しました。(ちなみに中国だけはコロナ以前から継続的に減少傾向でした)。

上位10か国の中では、タイだけが減っておらず、むしろ増加しています。これは昨年10月時点ではタイはコロナ感染をきわめて低くコントロールしていたことが関係していると思います。当時は普通に密状態で飲み会なども行われていました。

日本人に対して「希望するならば帰国してもよい」という指示を出したタイの日系企業も多かったですが、当時は日本の方がむしろ感染がひどかったので特に帰国する理由がなく、多くの日本人がタイに残っていたと思います。

また、以下は都市別の推移ですが、各国の主要都市ですので大体同じような傾向が見て取れます。唯一面白いのは10位のホノルルが11%増加に転じている点です。日本を脱出してハワイに住んでしまおう、という人がもしかしたら多かったのでしょうか。(ハワイ関連の方の解説お待ちしています)

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永住者はむしろこの1年で増えた

この調査は「長期滞在者」「永住者」を分けて行われています。両者の区分で分けてみると、また違った傾向が見えてきます。

「長期滞在者」とは、外務省の定義によると「3か月以上の海外在留者のうち、海外での生活は一時的なもので、いずれわが国に戻るつもりの邦人」を指します。

一方、「永住者」とは「(原則として)当該在留国等より永住権を認められており、生活の本拠をわが国から海外へ移した邦人」を指します。

ただし、永住権の取得難易度は国によって異なるため、実質的に永住的にその国に長く滞在していても、永住権を持っていない日本人も多くいます。従い、この調査は「届出優先」であることが明記されています。あくまで在留届を出したときに、本人がどう答えたかでこの区分は分けられています。

区分別で見ますと、長期滞在者は前年比‐7.1%と大きく減少したに対して、永住者は+2.1%とむしろ増えています。

長期滞在者は企業や政府から派遣された駐在員および留学生が多くを占めます。それらがコロナによって減少したのは実感値と一致するところです。

一方で、何らかの理由で「永住」前提で海外に拠点を移した日本人がたくさんいたというのはなかなか面白い現象です。

また、すでに永住のつもりで外国に住んでいる人は、現地で結婚していたり、学校や仕事など生活の基盤を現地に持っています。それゆえ簡単には帰国せず、あまり減少なかったというのはある意味で当然のことと思います。

永住者について国別の詳細を見てみます。データ量が多いので、永住者1500人以上で切って抽出してみました。

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(黄色ハイライトセルは筆者による)

長期滞在者が軒並みマイナスであるのに対して(タイとマレーシア以外)、永住者はプラスの数字が目立ちます。

中でも、「台湾」と「ドイツ」が20%を超えており、際立って高い数字です。もともと在留邦人が少なくない両国ですので誤差とは思えず、両国に永住前提で移り住んだ方がそれなりにいたという傾向を示しています。

なお、比較で載せた長期滞在者で興味深いのはマレーシアだけ増えている点です。マレーシアも厳しいロックダウンと入国制限をしていたので、増える要素があまり思い当たりません。

仮説としては、在住の友人から「仮想通貨が非課税なので節税目的での移住が増えている」という話を聞いたので、そうした方がロックダウン前に集中的に発生したとか、あるいは個別の何かの事象が数値を引っ張ったのかもしれません。

考察:来年はもっと減ることは間違いない

以上が結果のダイジェストですが、最後に少し考察を付け加えておきます。

まず、長期滞在者は来年はさらに大幅に減ると私は予想しています。

この調査は令和元年以降簡略化され、職業などの内訳が示されなくなりました。平成30年時点での数字を取ると、長期滞在者のうち「53%が民間企業関係者」「21%が留学生・研究者・教師」ということで、両者で約74%を占めています。それらの動向が全体の結果を左右します。

「企業関係者」については、企業が駐在員を減少する傾向は従前からありましたが、コロナによって「リモート勤務」が当たり前になった結果、実は海外に張り付いていなくてもある程度管理が出来てしまうことを企業は経験しました。ゆえに、駐在員をさらに減らす方向に多くの企業はすでにシフトし始めています。

調査を行った「10月1日時点」というのはまだ年度の半ばであり、多くの企業は駐在員の帰任や交代を凍結していました。それから半年以上が経ち、6月現在ではかなり国を跨いだ人事異動が活発化しています。もちろん新たな赴任もありますが、総数としては減らす傾向にあります。タイなどの生産拠点は簡単には減らせませんが、シンガポールなどの管理拠点はかなり大幅な減少がすでに起こっています。この結果は次回の統計に表れるでしょう。

また、「留学生」についても少しは戻るでしょうが、しばらくは減少傾向が続くでしょう。飛行機の便数も減り、相手国への入国にかかるお金や手続きも膨大になっています。もともと費用の掛かる留学に、そうしたコストを上乗せして負担できる学校やご家庭は限られるのではないでしょうか。

永住者も、長期滞在者ほどではないですが少しずつ減るかもしれないと思っています。

私のような海外起業家含め、自分の意志で海外にいる日本人は沢山いますが、多くの場合は「時々は日本に帰れること」を前提としていました。たいていの人は、時々は祖国の空気を吸いたいと思っていますし、家族の顔を見に行くなどの必要もあります。しかし、コロナ以降、渡航にかかる手間や金銭的負担が一気に上がり、簡単には日本に帰れない時代になりました。

かれこれ2年近く祖国の地を踏めていない在外邦人も少なくない中、「ワクチン接種が終わったら、祖国に帰ろう」と心の中で思っている日本人はひそかに増えているのではないかと思います。

というわけで、次の結果は1年後を待たねばなりませんが、主には長期滞在者の減少により、来年はもっと大幅に海外在留邦人の数は減っているのでは?というのが私の予想です。今年は6万人の減少でしたが、10万人以上の減少となるかもしれません。

海外で活躍する日本人がもっと増えてほしいと願う私にとっては少し寂しい実態ですが、ワクチンがいきわたりコロナとの戦いに終息するまでの数年間は、日本人に限らず世界中がある程度「内向き」になるのは仕方ありません。

幸い、Zoomなどの普及のお陰で渡航せずともできることは増えました。物理的に海外に出られなくても、仕事や学びにおいて海外との接点は減ってほしくないなと思っています。

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