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【医療マガジン】エピソード11 聖夜の奇蹟!かかりつけ医大賞(4/5)

勝田永太郎のプレゼンテーションビデオが終わると、スタジオ中に嵐のような拍手が湧きおこる。そのなかで直子は、何かこう崇高で厳粛な感動に包まれていた。
 
 
「すばらしい!」
 
華乃宮小町が口火を切った。
 
勝田永太郎ドクターのビジュアル、話し方、そして話の内容。パーフェクトじゃないかしら。このわずか1分程度のV(ビデオ)を観ただけで、彼のおっしゃる哲学? これが日々の診療で実践されているのだろうなという言行一致を、カラー動画でイメージすることができましたね。このメッセージ性は、並のドクターじゃないと、すぐにわかりましたね。
 
「いや~っ。小町さん、絶賛ですね!観音寺さん、いかがでしたか?」と鶴ちゃん。
 
一拍おいて、暁子が続く。
 
「実はですね。井之頭全人医療クリニックの勝田先生ですが、私どもが提供している24時間365日対応の電話相談サービスをご利用いただいているんです。全国でわずか10件ちょっとしかクライアントがいないんですが、真っ先にご連絡いただいて契約させていただいたのが、勝田先生でした。地域の人たちが、もっといろんなことをかかりつけ医に訊いたり相談したりできたらいいのになぁ~って感じていることをご存知だったようです。ただ、どうしても、患者さんの待ち時間のことを考えると現実問題としてはむずかしい。ちょうどそんなタイミングで私どものダイレクトメールが届いたということで、早速ご連絡くださったという経緯があるんです」
 
「な~るほど。以前おっしゃってた例の受託サービスですね?」と百田寿郎。
 
はい。ご契約の際に勝田先生にお目にかかったのですが、いまのⅤを観て懐かしかったですねぇ。診察室でも、本当に、あのまんまなんですよ。ちょっと不適切発言になっちゃうかもしれませんが、そんじょそこらの開業医とちがうと思いません?
 
観音寺暁子がそう言って、左に位置する直子たち推薦者と、後方ひな壇のお笑い芸人たちに目をやった。
 
「ホンマやなぁ~。ちょっと、大阪にはおらへんわ。あんなアカデミックなせんせぇは」
「医者っちゅうよりか、なんか博士? 研究者でっせ、あの感じは…」
「ワテも通いたくなりましたぁ。ナイスミドルやでぇ、ホンマ」
 
本日お越しいただいている推薦人の世尾直子さん。実際に、品定めシートを持って出向かれた時はどうでしたか?
 
な・な・なんと、鶴ちゃんの奇襲攻撃である。カメラが直子のアップをとらえた!
 
会場の素子と美子。視聴していた眞と美香の家じゅうが沈黙し、息を止めて、祈るように画面を凝視する。直子を心配げに見つめる百田寿郎。華乃宮小町・観音寺暁子が瞳だけを左に移動させて様子をうかがう。もとより、スタジオにいるすべての、いや、全国何万人もの視聴者の視線が直子に向けられている。
 
どれぐらいの静寂が続いたのだろうか。鶴ちゃんの咄嗟のフリに、直子のカラダじゅうに電気が走り、全身の血管が湧きたち、アドレナリンが爆発した。そんな極限状況のなか、胸の前で合掌しながら放心状態の直子の口から、魂の言の葉がこぼれ出た…。
 
「か・・・、勝田永太郎先生・・・。かかりつけ医より、か・か・り・た・医・・・」
 
2秒後。
 
ウォ~ッ!
ナ~イスッ!
そうや!究極のかかりつけ医っちゅうのは、『かかりた医』なんや!
ばあさん、デキすぎや!かかりつけ医を超えたのが『かかりた医』なんや!
んだんだ。「かかりたい」の「い」の字は、医者の「医」でっせぇ~っ!
そやな。「究極のかかりつけ医大賞」は、つまり、『かかりた医賞』っちゅうことでんがな。
 
百田寿郎がすかさず、卓球ポーズからのサ~ッ! そして、続けて興奮気味に叫ぶ。
 
えぇ~っと、ご視聴中のみなさまに、緊急のお知らせがございます。本日お送りしております、『決定!2023究極のかかりつけ医大賞』でございますが、急きょタイトルを変更させていただきたく存じます。新タイトルは~っ!『今夜決定!輝け!2023ニッポンかかりた医賞』~ッ!!!!!
 
これを受け、スタジオ中が「ウォ~ッ!」という大歓声と、ブレイク前のお笑い芸人たちがひな壇で奏でる重低音ストンピング攻撃の、ドドドドド~ンという轟音に包まれた。大騒ぎの中で、百田寿郎が直子の前まで繰り出してきて、例の卓球ポーズからのサァ~ッ!に続いて直子の両手を取って満面の笑みで讃えている。
 
鶴ちゃんが、「世尾直子さん。かかりた医という、このワード、『しらこわ』独占で使用させていただいてよろしいでしょうか?」と話を繋ぐ。
 
『かかりつけ医よりかかりた医…。いいじゃないですかぁ~』と、華乃宮小町が直子のほうを向いて右手の親指を突き立てている。観音寺暁子は、推薦人のひとりである石坂さんを飛び越えて、直子に握手を求めてきた。直子にすれば、何が何だかわからぬような異次元の数分間であった…。
 
 
ブレイク前のお笑い芸人が陣取ったひな壇から、いったん引いた轟音が再び津波のように押し寄せ、やがて、スタジオ中が称賛の奇声と万雷の拍手喝采で爆発した! 直子の心の底からしぼりだされたようなワンフレーズ「かかりつけ医よりかかりた医」が、オンエア後最大の盛り上がりを巻き起こしたのだ。
 
観覧席では素子と美子が何かを絶叫しながら、手に手を取って飛び跳ねていた。眞の家では、呆然とする眞と妻の横で、志保と響介がガッツポーズで雄叫びをあげていた。美香の家では、美香と深紅が満面の笑みを浮かべながら瞳を滲ませていた。奇跡だった…。
 
「いやぁ。ドクターがすばらしければ、推薦者もすばらしい!」
 
小町がややドスのきいた口調で放つと、カメラは、大きく頷く観音寺、鶴ちゃん、そしてひな壇をとらえ、百田寿郎へ。
 
世尾直子さん。ナイスコメント! もしかすると、あとになって振り返ると、これは歴史的なワンフレーズになるかもしれない…。そんなインパクトを感じさせるコメントだったと思いますよ。ありがとうございましたっ!
 
百田がおどけたように直子に再度接近して、そして敬礼した。
 
直子はわけもわからぬままに反射的に立ち上がり、両手を差し出して、頭を深々と下げながら、やはり敬礼した。その両の掌を百田はやさしく包み込むようにして、一瞬ふたりは視線を合わせ、そしてまた、計ったように同時に敬礼を繰り返す。当然のごとく、会場じゅうがクライマックスを迎えたかのような大爆発である。
 
そんな光景が、勝田永太郎のビデオメッセージ終了から5分は続いただろうか。
 
「それではっ」
 
アシスタントの鶴ちゃんが、進行を元に戻すべく、キッパリとした口調で流れを変えた。
 
「それではいよいよ、『かかりた医賞』の最終選考に残った3名のうちの最後のドクターです。みなさん、よろしいでしょうか?」
(To be continued.)

【参考図書】

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