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【医療マガジン】エピソード10 直子の決断(4/4)

その晩、直子はいつものように、『しらこわ』の過去動画を閲覧していた。テーマは「患者の心得」で、華乃宮小町が「医者に過度の期待をするべからず」と書かれたフリップを掲げながら熱弁を振るっている。
 
「それじゃあ、具体的にみなさんが探すべき医者とはどんな医者なのか。結論を言ってしまえば、医者に求めるのは、病気の治療ではなく、健康の維持もしくは回復だということ。
 
あなたが100歳まで元気に人生を満喫するためには、生活習慣病のコントロールが実に重要な課題でしょ。そして、この課題を実現するために医者に行くというのは、実は大きなまちがいだということは理解してくれたわよね。医者には生活習慣病は治せないのだから。となれば、患者が医者に求めるべきことは3つ。
 
まずは、治せないのなら、せめて気持ちよく接してくれということ。病医院に入ったら受付職員が爽やかな笑顔で迎えてくれる。待ち時間が長ければ、近くを通った事務職員が気にかけて声をかけてくれる。体温や血圧を測るときは看護師がにこやかに接してくれる。診察室に入ったら、医者がある程度話を聞いてくれて、医者の家族が病気になったときと同じように、親切・丁寧・正直・謙虚に診察してくれる。帰り際には励ましの言葉を添えてくれる。クスリを受け取るときは、薬剤師がわかりやすく注意事項を説明してくれる。会計が済んで帰るときには、受付が「お大事になさってください。気をつけて」と真心のこもった見送りをしてくれる…。
 
こんなふうにされるだけで、『ああ、ちょっとしんどかったけど、時間をかけて来てかったなぁ』と思えるものなんじやないかしら。例え病気を根本から治してはくれなかったとしても、これだけ気持ちよく接してもらえたら、不思議なもので人間は元気になれるものなのよ。病は気から・・・っていうのはこういうことを言ってるんだと思うのよね。
 
だから、もしも医者に通うたびに元気で明るい気分になれるとしたら、その医者はまちがいなく良い医者と言っていい。患者の気持ちが晴れやかで前向きになるということは、医者がこころを健康にしてくれているということだから。病気を根本から治すことができなくとも、患者を励まし勇気づけてくれるということは良い医者の証。私はそう考えてる…。
 
そして、もうひとつ期待したいのが、患者のこころのみならず、身体も健康に近づくよう応援してほしいということ。患者の健康にとって有益な知恵や情報を積極的に教えてくれということよね。医者が自分自身や家族にそうするように、患者にも健康を回復するための真実をさらけ出してほしいの。
 
クスリは極力出さない。検査も必要最小限。人間の持つ自然治癒力や免疫力の大切さを教えてくれる。それを高めるために有効な生活のあり方について、食事や運動やストレス解消の工夫について、それぞれの専門スタッフが相談に乗ってくれる…。
 
仮に危険度の高い検査や手術、それに伴う入院等が必要になったら、患者の不安がなくなるまで懇切丁寧に教えてくれる。納得ができない場合には何度でも説明してくれる。自分の手には負えず、より専門的な医者に診てもらう必要があれば、速やかに然るべき病医院の情報と必要な資料を用意してくれる…。
こんな医者がかかりつけ医だったらぁ・・・いいと思わない?
 
さらに、よ。心配事っていうのは、病医院や自治体が閉まっている土日祝日や夜間におきるもの。だからこそ、患者のために「いつでも・なんでも・気軽に」相談できる窓口や体制を用意してあること。これが最後の条件になってくるでしょうね。自前で専任のスタッフを置くもよし。観音寺暁子が開発した相談業務の受託サービスを利用するもよし。とにもかくにも、インフラとして、患者がもしもの時に連絡できるホットラインを整備してくれていること。ここまでいけば、生涯つきあう医者としては申し分ないと思わない?
 
こういう姿勢をひっくるめて、『患者をエンターテインする』ということなのよね。エンターテインというワードの語源は、『思いやる、慮る(おもんばかる)、もてなす、いたわる、癒す、励ます、ねぎらう』という意味でね。これを支えるのがサービスマインド(患者に寄り添う心持ち)とコミュニケーション能力(患者との意思疎通)に他ならないわ。
 
つまり、良い医者とは、クスリや検査や手術等で目先の症状をごまかそうとする医者ではなく、患者を安心で心地よい気分にできる医者、そして患者が快適な生活を送るのに役立つ知識や情報やサービスを積極的に提供してくれる医者のことをいうんじゃないかしら。
 
みなさんも、明日からはこの視点に立って、あなたをエンターテインしてくれる医者をさがしてみたらどうかしら?
 
もしも、『私のかかりつけ医は、まさにそんな医者だ!』と言えるようであれば、宝くじに当たったようなものですから、決していまの医者を手放してはいけません。徹底的に良好な関係を維持して、人生の続くかぎり、その良い医者を活用することです。わかりましたねぇ~っ!」
 
 
そしてエンディング。直子はいつものように、ディスプレイの百田寿郎をじっと見つめながらキメフレーズ&キメポーズを唱和する。
 
 
さあ。いよいよ、あとは『決定!2022究極のかかりつけ医大賞』のノミネートを待つだけだ。
 
 
【資料室だより】
「病医院で感動したり感激したりしたことがあれば教えてください」。ここまでに紹介した調査にご協力いただいたみなさんに、こう訊いてみました。約2割の人がそうした体験をしているようです。具体的なエピソードを彼らの言葉のまま紹介します。
・痛みや辛さの根本原因をつきとめようとしてくれた ・痛みや辛さを慮ってくれた ・大変だろうけど一緒に頑張っていこうと励まされた ・こちらの話をじっくりと感じよく聴いてくれた ・初診時に名乗ってくれた ・初診時にねぎらいの言葉をかけてくれた ・現状について紙に絵や図をかきながら説明してくれた ・説明でわからないことがあるかどうか訊いてくれた ・質問があるかどうか訊いてくれた ・問診、触診、打診に時間をかけてくれた ・キャリア、特技、趣味等について関心を持ってくれた ・暮らしぶりに関心を持ってくれた ・クスリは極力のまないほうがいいと言ってくれた ・自分の名前を呼んでくれた ・何かあればいつでも電話していいと言ってくれた ・正面から向き合ってくれた ・街で声をかけてくれた
 
逆に、「失望したり絶望したりしたこと」についても訊いてみました。
・ため口 ・患者の前でスタッフを叱る ・患者の顔を見ない ・挨拶しない ・問診しない ・触診しない
・ネガティブ言葉( 「もう歳だから」、「気のせい」、「陽気のせい」、「よくあること」、「大したことない」、「とりあえず」、「自業自得」、「一生治らない」、「あなたの病気はあなたにしか治せない」、「わかりますか?」、 「ちゃんと聞いてますか?」、「努力しないとダメ」、 「(身だしなみを整えていたら)次が待ってるから早くして」、「(質問したら)さっきも言ったでしょ」
 
いゃあ、実にリアルです。シュールです。よぉくわかります…(苦笑)

【参考図書】
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