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【医療マガジン】エピソード5 直子と観音寺暁子の出会い(中編)

観音寺暁子の話しぶりに納得感を持てた百田は、何度か頷きながら左手の華乃宮小町にチラッと視線を送る。すぐ隣で凛としてキラキラ輝いている女神は、それをキャッチすると軽く会釈を返す。画面を凝視していた直子は、ふたりの丁々発止のやりとりに張り詰めた高揚感を抑えることができない。と、こんどは百田が、小町に言葉でボールを投げかけた。
 
「華乃宮さんは、ここまでの観音寺さんのお話を聴かれていかがですか?」
 
オ~ッ!華乃宮小町vs.観音寺暁子の幕開けだ~ッ!手に汗握る直子。
 
「当~然、同感です。内視鏡手術は、腹腔鏡という病院や医者もいますが同じことです。その技術は日進月歩で、お腹を大きく切らずに5ミリ~10ミリ程度の穴を数ヵ所あけるだけということもありますからね。カラダの負担は確かに少なくなっています。ただ、手術の大小に関わらず、術後は抗がん剤治療と放射線治療がスタンダードですから、毎日の暮らしはつらいものになる確率が高い。いわゆるQOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下は覚悟しなければなりません。だからこそ、痛くも痒くもないのに本当にメスを入れるのかどうか。慎重な判断が求められると認識すべきでしょうね」
 
ここで鶴ちゃんが割り込んだ。ヤルねぇ~ッ、お鶴!(直子の心の声)
 
「観音寺さん。実際のセカンドオピニオンの流れを噛み砕いてお願いできますか?」
 
「私どもでは、連携ネットワークを駆使して、相談者と同じ疾患(大腸がんなら「大腸がん」という意味)の症例数が多い医療機関を…、そうですねぇ、大体、5~6件ピックアップします。そして、各病院の部長級のドクターを洗い出して、診療に係るポリシーや手術時の体制、あとは顔写真も含めた略歴、施設へのアクセス、それにセカンドオピニオン外来の料金を添えて、相談者やご家族と一緒に候補を絞り込んでいきます。
 
他にも、統合医療(西洋医学のみならず、一般にカラダにやさしいとされる代替医療も積極的に取り入れた医療)を実践しているドクターや、高齢者の手術には否定的なドクターなど、参考になりそうな候補をこちら側がつけ加える場合もあります。
 
最終的には、少なくともサードオピニオンまでは受診することをお奨めしています。また、ご要望があれば、受診に同行・同席もさせていただきます。ドクターの説明を聴いても理解できなかったり、用意した質問さえできなかったり、そして、最終的に判断に迷って途方に暮れてしまうということはザラにありますからね」
 
こんどは小町が嚙みついた。いや、言葉をはさんだ。
 
「へぇ~っ。そこまで対応されているんですかぁ。それはすごいことですね。す~ばらしい!どうでしょう。そこまでサポートしてくれるプロ集団って、ちょっとないんじゃないかしら~。観音寺さんとお目にかかれて感激致しました~ッ」
 
「ありがとうございます。私のほうこそ、いつも歯に衣着せぬ語り口調で斬りこんでらっしゃる華乃宮さんのことは、大変尊敬しておりました。今も緊張しながらここに座っているんですよ」
 
「あらまぁ、ど~いたしまして。社会福祉士という国家資格…かしら?どのような役割を担って活動されているのか、あまり存じ上げていなかったものですからね。実に価値のある資格なんですねぇ」
 
「ありがとうございます。でも、どの世界も同じかと思いますが、資格の有り無しではないですよね。結局は、その専門職個々人の資質によるのではないでしょうか」
 
ここで鶴ちゃんアゲインだ。
 
「あのですねぇ……。ごめんなさいっ!おふたりの丁々発止の応酬はきっと視聴者のみなさんも注目されてることと思うのですが、一旦、セカンドオピニオンのほうへ話を戻させていただいてもよろしいでしょうか」
 
圧の強いふたりを相手に、MCとしての機能をしっかりと果たそうとがんばる鶴ちゃん。そんな彼女を、直子は保護者のように応援しながら見守っていた。そして、若いのに大したタマだと感服しながら。
 
「いゃあ、鶴ちゃん。ナイスジャッジ!私も思わず見とれてしまっておりました」と、ゴメンネポーズの百田が話しはじめる。
 
「私が思うに、かかりつけ医に遠慮してセカンドオピニオンを躊躇してしまう患者の意識の問題。それと、セカンドオピニオンをしてもらう医者は、かかりつけ医頼みではなくて、患者側が決めるんだという手続き上の問題。視聴者のみなさんには、まずはこの2点をきちんと消化していただけたとすれば、今回の企画は大成功ではないでしょうか。そうじゃないですかねぇ、華乃宮さん」
 
「そうですね。やはり、ご高齢の人ほど医者に対する遠慮は根強いものがありますからね。でもね。他の誰でもない、みなさん自身の命なんですよ。よぉ~く自覚してほしいところです。赤の他人の医者に丸投げというのは、やはり違うと思いますよ。医者は他人ごとだから、簡単に『切っちゃいましょう』なんて言えるんだと思うんです。
 
その医者が、自分や家族ががんかもしれないとなった時に、果たして同じように能天気なセリフを吐くでしょうか…。私は吐かないと思いますよ。何かの縁でやってきて、自分の目の前で不安そうに佇んでいる患者に対して、大切な家族に接するのと同じような心持ちで対峙してくれる医者。そういう医者が理想ですよね。それを見つけ出すのは至難の業でしょう。でも今回、100%相談者視点でサポートしてくれる観音寺さんという社会福祉士がいるとわかっただけでも、視聴者のみなさんにとって本当に価値のある議論になったと思いますよ」
 
華乃宮小町が話している間じゅう、観音寺暁子は一瞬たりとも小町から視線を外さず、要所要所で頷いたり会釈したり納得の表情を示したりしながら全身で傾聴していた。直子はその所作に感激し、このオンナもただものではないと確信するのだった。(To be continued.)

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