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【医療マガジン】エピソード12 夢と希望のニューイヤーイブ!(前編)

2023年、大晦日の昼下がり。YouTubeチャンネル『知らなきゃこわ~い現代ニッポン10の真実』、通称『しらこわ』の制作チームは、大成功のうちに幕を閉じた「かかりた医賞」の打ち上げと、新年度4月以降の制作会議をかねて、アンダーズ東京の一室に集っていた。
 
そもそもの仕掛け人である駒田修吾は、同番組の人気キャスター・百田寿郎の高校時代からの無二の親友。本業は老舗の出版社・くるみ書房の三代目社長で、本という紙媒体が斜陽産業となって以降、紆余曲折を経てYouTubeの世界に打って出たわけだ。試行錯誤しながら丸二年が経とうとしていた矢先、終活コンサルタントとして独立した百田に目をつけ思い立った『しらこわ』が、期せずして大当たりしたというわけである。
 
「いゃあ、百田。キミはオレにとって救世主だ。キミの『ムゥイビエンからのバッキュ~ン』がここまでウケるとは思いもしなかったぜ。それにだ。華乃宮小町に観音寺暁子?百田がエンジンなら、あの二人はクルマの両輪だな。キャラといい、キャリアといい申し分ない。ったく、百田のチームビルディングは最強だぜよ。おまけに、一般視聴者の中からも思わぬタレントまで発掘できちゃうんだからな。これ、来てるぜ、きっと」
 
「いやいや。コマがオレに声をかけてくれたおかげだよ。長年お勤めしたコンサルファームをやめて、50歳を過ぎて起業したところで、そうそう簡単に軌道に乗せられるとは考えていなかったからな。『しらこわ』がなかったとしたら、こんな優雅な年の瀬は迎えることはできなかった。感謝してるよ。たださ、コマ。忘れてもらっちゃ困るのは彼女だよ。彼女の功績はデカいと思わないか?」
 
赤ワインを持つ手が示した先では、鶴田妃菜が恥じらうように百田のほうに微笑んでいる。
 
「そうそう。そりゃそうだった。局アナあがりの粟野深紅の後任に一般公募した・・・、なんだ、ええ~っと、ホラ、鶴ちゃん? そうだ! 鶴田妃菜さん! キミも大成功の大きなワンピースだよ」
 
「いえ。私なんてぜんぜん・・・」
 
かぶりを振る鶴ちゃんを、百田のやさしいまなざしが包みこむ。
 
「たしか、百田が名指ししたんだろ? この子がいいって」
 
「ああ。彼女しかいないと直感したからな。まんまと当たった」
 
うれしそうな百田を見て駒田がストレートを投げ込む。
 
「で、もうつきあってんの?」
 
鶴ちゃんは驚いたように目を丸くして、声を発することもできず、百田に視線を送る。
 
「一応、『かかりた医賞』のあとにさ。鶴ちゃんとふたりで打上げ、やった・・・」
 
「おおっ! 渾身のロケット、打ち上げたかぁ~」
 
その言葉に頬を赤らめた鶴ちゃんは、うつむき加減にもじもじしている。気づいた百田が、空いている左手でゴメンのポーズをとりながらウインクした。
 
 
百田が25歳も年下の鶴ちゃんに想いを告げた時、彼女はきわめて自然に百田の胸におさまった。結婚という形をとるかどうかは一緒に話しながら決めていこうと合意した上で、ともに生きていくことを確認しあったふたりだった。
 
翌日、百田が愛娘の蒼に電話でそのことを伝えたとき、彼女からはこんな言葉を贈られた。
 
「おめでとう、パパ。よかったね。そうなるのかなぁって思ってたよ。わたし、妃菜さんとも、これからいろんなこと話していきたいな。初対面の時から波長あうなって感じてたから。3人でも会いたいな。お邪魔じゃなかったらネ」
 
蒼がもろ手を挙げて賛成してくれたことを伝えると、妃菜はとてもうれしくってつぶらな瞳をうるませた。
 
 
「もう10年以上だよな、前の奥さんと別れてから」
 
「ああ。いろんな意味で、コマに感謝してるんだ。ホントだぜ」
 
「フフッ。良かった、良かった。たださ。どうだろう。しばらくは内密にしておいてくれないかな。鶴ちゃんは今や、 ”ネット界の若き石田ゆり子”とか言われて人気爆発なんだろ? オープンにするにはタイミングがあるよ、絶対にな。それだけはわかってほしいぞ」
 
百田と鶴ちゃんは、改めて顔を見合わせて瞳で会話した。それから、三人交互に目で合図しあって、笑顔でグラスをかざすのだった。
 
ピ~ンポ~ン♪
 
スイートルームの呼び鈴が鳴り、スタッフのひとりがドアをあける。そこには、華乃宮小町と観音寺暁子がゴージャスに輝いていた。
 
「ようこそ。お待ちしてました。・・・にしてもまばゆい限りです・・・」と、コマ。
「申し訳ない。お先にはじめてます」と、百田。
「ステキ~ッ! おふたりの登場で部屋の空気が変わりました~っ!」と、鶴ちゃん。
 
超豪華な五段重ねのおせち料理のごとく、寸分の隙もない麗しさを漂わせながら、小町と暁子が輪に加わった。
 
“美容と健康をつかさどる老い先案内の女神”華乃宮小町は、シニアの生きがい教育の大御所で、全国のカルチャーセンターでカリスマ講師として八面六臂の活躍ぶりだ。従来、美容業界のオーナーたちはブサイクもしくはデブチンが定番だったが、小町は天海祐希をふたまわりほど若くしたルックスと話術で、お肌の曲がり角を過ぎた女性たちの憧れの的である。
 
一方の、”お困りごとクイーン”こと観音寺暁子は、社会福祉士事務所を切り盛りし、24時間365日対応の電話相談サービス「お困りごとホットライン」で一気にメジャーデビューを果たしていた。個人会員向けが中心だったが、一年ほど前からは病医院や介護施設向け、さらには社員の介護離職対策として、中小企業からの受託事業にも力を入れており、今後もその方針を貫いていく方針だ。
 
ふたりは初対面の時からトントン拍子に、年明けから協働することを即決していた。そして今日の納会で、その輪に百田寿郎を抱き込むことまでプランしていた。医療や介護といったエッセンシャルビジネスの現場に、相談と啓発と終活の機能をパッケージにして届けていく・・・。それが小町と暁子のプランだった。
 
年齢を重ねるにつれて何かしらの症状が顕在化してきたシニア層に対して、人生100年を主体的に生き倒してもらうためのフルサポートを提供する。具体的には、いつでもなんでも気軽に相談できる拠り所を確保したうえで、もしもやまさかを少しでも先延ばしする術を学んでもらいながら、同時に、いつ何が起きたとしてもインパクトを最小化できるように早期にそなえておく・・・。そんな、新しい老後観を全国に提唱しながら、実践指導を行っていく。これがふたりの、いや、百田を加えた三人の協働事業ビジョンなのだった。
 
百田も即、快諾した。『しらこわ』のキャスターの傍ら、終活コンサルタントとして、シニアがエンディングを迎えるまでのリスクヘッジとして、老後設計と実務代行を事業化するつもりでいた百田だが、こうした保険的なそなえに加えてもうひとつ、認知症や感染症やがんに罹患しないためのライフスタイルの実践指導が必要不可欠であると感じていた。これはまさに華乃宮小町のコアカンピタンスであった。さらに、年中無休体制で悩みを抱えた人たちからのCQCQを受信している観音寺暁子の「お困りごとホットライン」、通称『コマホ』は、見込客集めとして最強のゲートキーパーであると確信していたからだ。
 
三位一体で新しい事業に漕ぎ出すことで合意した百田と小町と暁子。そして、この一大事業のプロモーション媒体としての『しらこわ』の発起人である駒田。そして、一般大衆とのブリッジ役を担う鶴田。年明け以降、シニアビジネス市場で台風の目となる五人組誕生の瞬間であった…。


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