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【医療マガジン】エピソード9 観音寺暁子と勝田永太郎の出会い(中編)

華乃宮小町の話は止まらない…。
 
「補足すれば、複数の治療法を挙げられるということは、然るべき勉強をしているということを意味するわけ。また、患者が家に戻ってから家族と一緒に検討できるように、紙に書いて渡してくれる。インフォームド・コンセントというのは「説明と同意」という意味ですが、『究極のかかりつけ医』レベルになると、それに加えて『患者の選択(インフォームド・チョイス)』を尊重してくれるのが理想よね。
 
最悪なのは、患者には一切説明しない。患者が質問しても無視するか、脈絡もなく「問題ない」、「大丈夫」と繰り返す。あるいは、「×××病かも知れないなぁ」、「これでちょっと様子を見ましょう」などとひとりごと
を呟きながら、ひとりで納得して「とりあえずクスリ、出しておきましょうかね」でジ・エンド。患者はキツネにつままれたような感じ。状況を紙か何かに書いて渡して欲しいと求めようものならば、「何のために?」、「必要ないでしょ」と、まるで地球は自分が回しているとでも言いたげに突き放す。
 
一昨年の今頃だったかしら。とある医学会終了後の懇親会に顔を出したことがあってね。そこでいろんな裏話を耳にしたんだけど…。医者たちの間では、患者への説明や患者との関係そのものに対するネガティブな感情があるらしいのよね。これが現実。

でも、考えてみれば遠いギリシャ時代、医学の始祖ヒポクラテスは言ってたわ。『医術とは、患者の本性をよく考察した上で、今後の処置についてその根拠を示し、説明するプロセスである』ってね。こうしてみたときに、いま私たちのまわりに溢れている医者たちたるや、果たしてそれを実践していると評価できるものかどうか、甚だ疑問だわよね…」
 
ここで鶴ちゃんが観音寺に話を振る。
 
「観音寺暁子さん。ここまでのお話で、何かお感じになられることはありますかぁ?」
 
「フランスにはノーブレス・オブリージュという言葉があります。『財産・権力・地位を持つものには社会的義務が伴う』という意味で、元々は西洋貴族への戒めとして、自発的な無私の行動を促した言葉なんです。
私はこの言葉を、『医者とか弁護士とか政治家とか官僚とか、そういう立場の人であれば、一般庶民以上に、世のため人のために行動すべき』という解釈をしているんです。そして、その最初のアプローチが、彼らが私たちと向き合った時のコミュニケーションスタイルだと思うんです。
 
そこには当然、情報格差がありますから、丁寧でわかりやすい伝え方が不可欠です。ところが実際には、そういう人たちの8割は、や、もっとだな、専門用語や難解な用語を当たり前のように口にして、わからない人はそいつが悪いだけの話…みたいな感覚で話しているとしか思えないんですよね。
 
だから逆に、人格や品性を感じる医者や弁護士に出会うと感激してしまいますよね。そりゃあ、心の内側まではわかりませんよ。でもそんな演技すらも放棄するような人たちであったとしたら、はなから信頼関係なんて築けるわけがないと思います」
 
百田が軽く手を挙げて質問の意を示した。直子、刮目!
 
「観音寺さんは多くの人たちからの相談に応じてらっしゃいますが、ドクターや弁護士との接点もおありなんでしょうか?」
 
「はい。相談の中には、必然的に、医療や法律絡みのものが出てきますからね。それに、昨年からは、私たちが行っている24時間365日対応の電話相談サービス『お困りごとホットライン』の受託サービスをやってましてね。シニアの要望としては、かかりつけ医にそんなサービスがあったらうれしいっていう声が多かったものですから、首都圏の診療所に営業をかけていた時期がありました。結果的に、現在11の診療所にご利用いただいてます。ということで、おつきあいのあるドクターも結構いるんですよ」
 
「そうなんですか。たしかに、いつでも・なんでも・気軽に相談できる機能がかかりつけの病医院にあったとしたら、患者さんたちにとっては心強いでしょうねぇ。ビジネスとしても、良いところに目をつけられたように感じます」
 
華乃宮小町も続く。
 
「さすがは観音寺暁子よね。医者は患者を増やしたい。患者は医者にあれやこれやと相談したい。だけど、現在の診療報酬では相談の対価は得られない。だから、そんなおカネにもならない患者サービスになんて応じていられない。そこで、外注よね。相談業務専任のスタッフを雇うのだって月に30万程度は必要でしょうからね。それよりは、外部の専門団体に委託できればラッキーだぞって、ビビッとくる開業医も多いんじゃないかしら」
 
「いゃあ。私もそう思っていたんですよねぇ…。でもですね、実際には受託サービスをご利用いただいてる診療所は希少派なんですよね。何といっても、そこそこ患者が集まってくる医者は余計なことなどしたくない。また、コロナショックで患者が激減してたとしても、これまでにさんざん貯えてきたから、特に危機感がない。そして元来、医者という人種はケチが多いので、自分のおカネは一円たりとも減らしたくない…。
 
そんなこんなで、東京・神奈川・埼玉・千葉の、婦人科・小児科・精神科を除く開業医3,300件にセールスをかけたんですけれど、問合せが来たのはわずか17件。うち受託できたのが6件。受託サービスを利用してくれたドクターからの紹介でプラス5件。その程度なんですよねぇ。目標100件だったんですけどねぇ…」
 
「なるほどねぇ。医者というのは、結構保守的ですからねぇ。それと、マーケティングに疎かったり、そもそも市場の声とか患者の声とかに鈍感だったりしますからねぇ。でも逆に、観音寺暁子に委託するような医者は、『究極のかかりつけ医』の資質アリとみていいんじゃないの?」
 
直子はふと気づく。いつのまにか、小町は観音寺暁子を呼び捨てにしているではないかと…。
 
「たしかにそう思います。患者さんの声に真摯に耳を傾ける。診療行為だけでなく、患者さんの全人的な健康や幸福に役立てることはないかって真剣に考えている。そういうドクターが、私どものオファーに関心を示してくれているのかなぁ~という実感はありますねぇ」
 
「ぜ・ん・じ・ん・て・き?」
 
鶴ちゃんが言葉をはさんだ。同時に、直子も反応する。いや、反応せずにはいられなかったのだ!(To be continued.)

【参考図書】
Amazon.co.jp: 目指すは!“かかりつけ医”より“かかりた医”でしょ!: 患者も医者も知っておきたい20の“常識” : 山崎宏: 本

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