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いざ!世襲社長さんたちとの懇親会

さあ、今日は夕方から、商工会議所のイベントで知り合った世襲経営者のみなさんを相手にミニ講演を行います。終了後は、もつ鍋で懇親会です。

今朝ほど、どうやら10名前後の参加見込み…との連絡がありました。持ち時間は45分。仲介役の社長さんと事前に協議した結果、『先代(親)の実家』がテーマに決まりました。

参加予定の社長さんはいずれも40代から50代で、まだ親御さんはご健在とのことです。そこで、認知症を絡めた実家の引継ぎの話をすることにしています。社長と言えども、職場を一歩離れればひとりの家庭人です。きわめて身近なネタになるかな…と踏んでいます。

読者のみなさんに、ひと足先に講演の内容をお届けしますね。というか、シナリオを文字にすることで軽くリハーサルさせていただこうと思います。恐縮です…。

ひとりの参加予定者の実例を拝借して、こんなケースを考えました。

母親は既に他界しており、父親は実家で一人暮らしです。当然、父親名義です。最近はガタッと体力も落ち、物忘れも目立ってきています。社長の奥さんがちょくちょく様子を見に行ってます。あと、嵩張る買物とか、掃除洗濯とかも。同居をすすめていますが、なかなか首を縦に振りません。

こうした状況で、もしも近い未来、父親が施設にでも入ることになれば、実家は空家になるわけです。そうなれば管理も大変ですから、当然売却するのがふつうの流れです。ですが、その段階で、父岡の認知症が進行し、判断能力が損なわれてしまっていたとしたら、売買契約を結ぶことはできません。

さて、どうしましょうか???

こんな感じです。

ふつう、認知症の人名義の不動産を売ろうと思ったら、成年後見人をつけた上で、「実家を売却しないと施設の費用を捻出できない」ことを証明して、それを家庭裁判所に承認してもらわなければなりません。不条理な話だと思われるでしょうが、そもそも成年後見制度とは不条理なものなのです…。

仮に、ラッキーにも実家を売却できることになったとしても、まだまだ問題は山積みです。父親がボケてしまう前の段階で社長さん(息子)が任意後見人の申立てをしておけば、社長さんが後見人になれますが、事務処理はかなり大変です。

父親に関する決算書(的な報告書)を毎年、裁判所に提出することが義務付けられます。貸借対照表(財産目録)と損益計算書(年間収支)もです。となれば、日々の入出金の出納帳をつけなければなりません。経営者であれば、決算がいかに面倒かはわかっていますから、「うわっ、ウザッ」ということになります。

もしも赤の他人(弁護士や司法書士や社会福祉士)が後見人になれば、毎日の出納簿記録や、決算書作成をやってもらえますが、当然おカネがかかります。経営者であればご存じのとおり、税理士に頼めば月々3万円はくだらない。年間36万円。

ただし、後見人に対する報酬は、父親の財産総額によって変わってきます。相場としては、月額3万円から6万円ですが、父親は先代の社長だったわけですから、まぁ月額5万円として、年間60万円。これが、父親がエンディングを迎えるまでの間、ずぅ~とつづくことになるのです。

認知症を罹患してから亡くなるまでの平均は、およそ7.5年ですから450万円になります。実家の実勢価格にもよりますが、実際のところ、モデルケースの社長さんの場合、家屋はほぼ値がつかず、土地だけだと1,000万円に届かないとのことです。

となると、実家を売却した際の譲渡所得税を差し引かれたら、月額平均30万円はかかる都市部の老人ホームに3年居られるかどうかも微妙です。これでは、実家を売って施設費用に充てようという目的が、本末転倒になってしまいます。

いずれにしても、後見制度の利用は何とか阻止しなければなりません。成年後見をゴリ押しすすめてくる銀行員や法律家の人たちだって、自分の親のこととなれば、そんなことしませんからね。売っている人は決してそれを買わない…。これ、世の中の真実です。

そこで、民事信託(俗に、家族信託)という手法が浮かび上がってきます。これは、ひとことで言えば、『贈与税が発生しない生前贈与みたいなもの』です。

父親から現社長の息子に、贈与税非課税で名義変更できます。おまけに、それに伴う登録免許税が、通常の贈与なら(実家の)固定資産税評価額の2%かかるところが、家族信託であれば0.4%で済みます。実家の評価額が1000万円なら、4万円です。これで父親から息子に名義を移せるので、現社長さんが実家を売ることができるようになるわけです。つまり、後見人は不要となります。

ついでに言っておくと、ふつうに贈与して名義変更すれば、不動産取得税が課税されますが、宅地については、課税標準は固定資産評価額の2分の1に縮減されます(令和6年3月31日迄まで)ので、評価額1000万円の宅地を贈与された場合の税額は、『1000万円 × 1/2(宅地の縮減) × 3% =15万円』…となります。

ちなみに、課税標準額は不動産の固定資産評価額で、毎年5月上旬に名義人宛てに送られてくる『固定資産税納税通知書』に記載されています。

さらにさらに!
実家を売却した際の譲渡所得税ですが…、

このケースのように、父親の実家で、息子が同居していなかった場合、実家が1430万円(実勢価格は、概ね固定資産税評価額を0.7で割った金額)で売れたとしたら…。

1,430万円から、譲渡にかかった経費(不動産屋の仲介手数料:「売買価格×3% +6万円+消費税」)と取得費用(実家を建てた時の支払金額。不明の場合は、売れた金額の5%を適用)と特別控除100万円を差し引いた金額の20%相当が譲渡所得税としてかかってしまいます。ざっと500万円近くなる計算になります…。あり得ないッ!

でも、家族信託なら、ナ・ナ・なぁ~んと、家族信託で名義変更をしても、居住用財産を譲渡した場合の3000万円控除特例が使えますので、譲渡所得税はゼロ!

※贈与の場合であっても、購入時の契約書等で購入時の金額がわかれば、譲渡所得税がかからない可能性大です。まぁ、これまで、親が云十年前に購入(建築)したときの費用を調べることができた相談者はひとりもいませんが…。

ということで、家族信託のメリットは相当なものであることがご理解いただけるのではないでしょうか。

逆に、家族信託のデメリットは唯一点。父親の判断能力があるうちに事を済ませてしまわなければならない! これはもう、急がねばなりません…。

このように、通常の贈与と比較した場合、家族信託という承継手法にはかなりの魅力を感じていただけるはずです。成年後見制度なんて、絶対に手を出してはいけません。

本題からは逸れますが、親名義の預金口座についても同様です。銀行に親の認知症がバレてしまったが最後、成年後見の申立てをしないかぎり解凍してはもらえません。そんなことにでもなれば、困るのは子どもであるみなさんです。親に認知症の兆しが出てしまう前に、一刻も早く財産承継に取りかかねば取り返しがつきません。

まさかは突然やってくる。
まさかは必ずやってくる。
親のまさかは子のまさか…です。

毎度毎度のフレーズですが、悪いことは言いません。
是非、肝に銘じておいてください。

それでは、行ってきま~すッ!

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