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【医療マガジン最終回】エピソード12 夢と希望のニューイヤーイブ!(後編)

さて、その頃…。
 
『しらこわ』の特別企画『かかりた医賞』で人生が劇的に変わろうとしているもうひとり、世尾直子は、息子である眞、娘の美香、そして4人の孫たち、志保・響介・寛貴・萌、そして大親友である素子と美子とともに、郊外の老舗料亭の個室を借り切って、すき焼きとしゃぶしゃぶで年越しパーティーに興じていた。そなえつけのテレビ画面に、クリスマスイブに放映された『かかりた医賞』の動画を映して、思い思いに楽しく花を咲かせながら、2023年のあれやこれやを振り返るのだった。
 
「まぁ、今回は、おふくろに完全にしてやられたよ。お見事でした…」と、こうべを垂れてみせる眞。
「おばあちゃんちでパソコン教えた時は、まさかこんな年末を迎えるなんて夢にも思わなかったよネ」と志保。
「なんかさ、この僕まで、なんか鼻が高いんだよね」と響介。
 
「おかあさん、ホント、見直しちゃったな。来年は忙しくなっちゃうかもネ」と、ニコニコ顔の美香。
「うちらの間じゃあ、すでに時の人だし」と、寛貴。
「かかりた医の直子おばあちゃん…って、友だち、みんな言ってるよ」と萌。
 
 
「つくづく思ったわよ。あなたたちみんなが、77歳のおばあちゃんに生きる希望をくれたんだって。だからネ。恥も外聞もなく、来年はもっともっと、動き回ってみようと思ってるのよ。素子ネェと美子も応援してくれるっていうしね」
 
「直子のおこぼれをもらってね。私ももう一回、青春してみようかと思ってね」と、素子。
「直ネェ、見ててね。私も勇気をもらったの。まだまだ老けこんじゃぁいられないってね」と、美子。
 
そして三人娘は、自称・『しらこわ』の遊軍記者となって、医者の品定め活動を東京から関東、関東から全国に広げていきたいという夢を大いに語るのだった。まずは、2023年。調布・三鷹・武蔵野3市の診療所を総ナメにするとともに、調査結果を自治体の広報誌やミニコミ誌に掲載して地域の人たちに情報発信していくことを計画していた。孫たちも、SNSでの拡散に全面協力すると約束してくれた。もちろん、『しらこわ』には、そっくりそのまま情報提供していくことも。そのために、自分たちと一緒に活動してくれる仲間たちを募るため、老人クラブに働きかけていくつもりである。
 
直子は、おいしそうに肉を頬張る孫たちを幸せそうに眺めながら、「今回はお年玉をはずんじゃおうかねぇ」と胸の内でつぶやいた。そして、スマホの待ち受け画面に設定してある、あの夜の、百田・鶴田・華乃宮・観音寺との5ショットに目をやり、改めて覚悟を定めるのだった。
 
三人娘それぞれが、これだけの齢を重ねている自分たちが、患者視点からのドクター情報を発信していくという役割を見つけたことに幸せを感じていた。
 
眞は眞で、人事部長を務める会社の社員たちのために、離れて暮らす親たちに何かが起きても職場を離れなくて済むような労務インフラの整備をさらに進めていくことを決意していた。
 
美香は、かつて義母のことで相談に訪れた際に百田から聞いた、終活支援の認定資格『百寿コンシェルジュ』の取得を決めていた。直子に託されたことを円滑に実行できるよう、また、寛貴と萌のためにも、元気なうちから自身の老い先にキチンとそなえておくために、正しい終活を習得しようと思ったのだ。
 
みんながみんな、新しい年を迎えるよろこびに満ち満ちていた。何度、乾杯を繰り返したことだろう。そしてまた今、酩酊状態の美子が立ち上がり、もう一度、高らかに乾杯を促そうとしたその刹那、直子の携帯電話が、着メロの「愛の讃歌」を奏でた・・・。
 
 
見知らぬ番号を怪訝に思いつつも受信ボタンをクリックして耳に当てる。
 
「もしもし、世尾ですが」
 
数秒後、直子はその場で飛び跳ね、直立不動の姿勢で顔面蒼白になっていた。
 
「『かかりた医賞』では本当にお世話になりました。年の瀬のお忙しい中、このようなお時間に申し訳ありません。少しだけ、お話ししてもよろしいでしょうか?」
 
「はっ、はいっ。どうぞ。宜しくお願い致しますっ」
 
明らかに様子がおかしい直子に、全員が箸を止め、部屋中が沈黙した。
 
「実はいま、来年の番組制作の打ち合わせをしているのですが。『しらこわ』の責任者である駒田という人物が同席しております。彼は、私の学生時代からの友人でして、出版社を経営しています。その駒田が、直子さんにコンタクトしたいと申しておりまして、『かかりた医賞』の応募書類で直子さんの連絡はわかるのですが、ご本人にお断りなく勝手に教えてしまうのは憚られたものですから、まずは私からお電話をさせていただいた次第です」
 
「はっ、はいっ。そうでございますか。はいっ」
 
唖然とした表情のすべての視線が、明らかに普通の電話ではない電話に応対する直子に集中している。
 
「ということで、直子さん。このまま駒田に代わらせていただいても構いませんでしょうか?」
 
「はいっ。結構でございます、はいっ」
 
直子は上官に叱咤される軍人のように、頭を下げながら、不自然な会話を続けている。
 
心配げに互いに顔を見合わせる、息子・娘・孫、そして親友たち。
 
「やあ。はじめましてぇ。私、くるみ書房の駒田修吾と申します。突然に申し訳ありません。単刀直入に趣旨だけ申しますね。『かかりた医賞』を拝見して、世尾直子さんのフットワーク、リサーチ力、パーソナリティーに感服致しました。ついては、『あなたの街のドクター名鑑』というコンセプトでムック版を出したいと思うんですが、世尾さんに現地取材チームのリーダーになっていただきたいんです。突然のことでご不安もおありかとは思いますが、百田寿郎に加えて、華乃宮小町先生にも監修していただくことになりましたので、フォローは万全です。極力、ご負担かけぬよう配慮しますんで、詳細は別途お話させていただくとして、どうでしょうか。基本的にお受け願えませんかねぇ」
 
直子はやや天を仰ぐようにして目を閉じて、フ~ッとひとつ息を吐いた。そして、厳かに口を開く。
 
「そうですか…。謹んでお受け致します…」
 
 
電話を終え、脱力した直子がその場にしゃがみこむ。
 
異様なムードを断ち切るかのように、美香が叫ぶ。
 
「おかあさん!おかあさん、しっかりして!どうしたの!何があったの?」
 
「おふくろ! どうした? しっかりしろよ、おふくろ!」と、母のもとに駆けよる眞。
 
「おばあちゃん!」と、孫たちも心配げだ。
 
 
直子は、目についたグラスにビールを注ぎ、一気に飲み干した。固唾をのんでいるみんなの顔を順番に追いながら、そして、さらにビールを足してから、大きく息を吐いた…。
 
「百田寿郎…。百田寿郎さんからのお電話でした…」
 
エエ~ッ!
 
「百田寿郎さんのお知り合いの出版社の社長さんとお話しました。『あなたの街のドクター名鑑』という本を出すに当たって、取材チームのリーダーを仰せつかりました…」
 
ゲゲゲ~ッ!
 
「百田さんと華乃宮小町さんがフォローしてくださるので、過度な負担はかからないとのことでした…」
 
ギョ、ギョッ、ギョエ~ッ!
 
「素ネェ、美子。これから…忙しくなりますよ…」
 
ウォ~ッ!
料亭じゅうに地響きのような轟音のような歓喜が爆発した。孫たちが飛び跳ね、眞が絶叫し、美香が直子を抱きしめ揺さぶり、素子と美子が手に手を取って目を見開いている。眞がバンザ~イと口火を切ると、直子以外の全員が万歳三唱を唱和した。拍手喝采の中で、頭を下げる直子。
 
「ヤバいよ、ヤバい」、「ガチでスッゲ」、「おばあちゃん、爆スゴ」と、孫たちが代わる代わる直子のもとに押し寄せる。「喜寿にして世界が変わるぞ、おふくろ」、「おかあさん、サイコーだよ」と、息子と娘が称賛する。「私も、あなたと一緒に輝きたい」と大親友が情熱を迸らせて、ここに三人娘が正式に再結成された。
 
やんややんやの喝采を浴びる中、直子は再び携帯電話の待ち受け画面に目をやった。ニヒルに微笑む百田寿郎。ゴージャスに見つめる華乃宮小町。ふたりにはさまれて夢見心地な直子がそこにいた。両サイドには鶴田妃菜と観音寺暁子がキュートかつエレガントに寄り添っている。
 
夢は…醒めていなかった…。
あなた…。私は100歳まで、醒めない夢を追い続けていくことにしたわ。
 
直子はこころの中で、天国の夫に、そして自分に言い聞かせるように誓うのだった。
 
眞がまたしても乾杯の音頭を取っている。
 
「よぉし。あれでいくぞ、おふくろの未来を変えたフレーズで。
 
カンパ~イッ!せぇ~のっ!
 
かかりつけ医よりぃ~っ、かかりた医~ッ!」
 
みんなが笑っている。その笑顔をしあわせそうに眺めながら、直子は思う。
 
2023年の大晦日。私はいま、本当の人生を生きている・・・。
 
直子の脳裏にカラー動画がよみがえる。
 
 
散る桜 残る桜も 散る桜
 
時は今 生涯青春 人生薔薇色
 
今日も明日も明後日も……ムゥイビエン…からのぉ~…バッキュ~ンッ!
 
 
 
 
【資料室だより】
さて、さいごに紹介するキラークエスチョンは、「かかりつけ医に訊かれてうれしかった質問は何ですか?」です。かかりつけ医をお持ちとおっしゃる20代から80代の100名の方に訊いてみました。彼らの言葉のまま記載しますので、もしもあなたが医師であれば、明日から早速、診察室で積極的にこうしたセリフを吐いてあげてください。
 
・〇〇さん、お変わりありませんか? 美味しく食べられてますか? ぐっすりとお休みになられてますか? 毎日、エンジョイしてますか?
・今日はお顔色がいいようですが、何かいいことでもありましたか?
・ご自身では、原因はどこにあると思われますか?
・どうしてこうなってしまったのか、一緒に考えてみませんか?
・いまの暮らしでいちばん気にかかっていることは何ですか?
・私の説明でわかりづらかった点はありませんか?
・お仕事(ご専門)は何だったのですか?
・何をされている時がいちばん楽しいですか?
・今いちばん大切にされていることは何ですか?
・これまでの人生の中で、人に誇れることは何ですか?
・この先、やってみたいことや実現したいことなどはありますか?
・(お父さん・お母さん・ご主人…)はお変わりありませんか?
 
どうでしょうか。病医院を訪れる人たちは、何かしらの症状を抱えているはずです。そんなネガティブな状況にある人を前にして、医師が放つことばというものは、良い意味でも悪い意味でも、無限の可能性を秘めているし、無限の危険性を孕んでいます。
 
医師のみなさんには、何かの縁で自分の前に座っている人に対して、自身の家族や友人と接するように意識しながら接してあげてほしいところです。また、患者側のみなさんには、自身のかかりつけ医を惰性で選んだりせずに、意識的かつ主体的に波長の合う医師を探す努力をしてほしいと思います。すでにそんなかかりつけ医をお持ちなのであれば、生涯手放すことなく、貪欲に健康で前向きな人生のサポート役として、意図的かつ徹底的に活用することをおすすめします。
 
(完)

【参考図書】
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