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【医療マガジン】エピソード11 聖夜の奇蹟!かかりつけ医大賞(2/5)

いよいよ、制作側も視聴者側も、『かかりつけ医大賞』に関わったすべての者が待ちに待った12月24日がやってきた。ナマ配信前には、準決勝審査会が行われ、当日のゲストコメンテイターである、ブレイク前のお笑い芸人6名を加えた10名が同様の採点を行い、合計得点上位3名が決定する。この3名の医者が決勝戦進出となり、『しらこわ』ナマ配信の中で、そのうちのひとりだけが『究極のかかりつけ医大賞』に輝くわけである。
 
 
直子は午前11時に素子と美子と合流し、案内状を手に東銀座のスタジオに向かった。どうしても連れてってほしいとせがむふたりの願いを叶えてやった形である。そりゃそうだ。YouTubeの人気番組となった『しらこわ』の収録現場である。しかもナマ配信。そんな空間であれば、三人娘じゃなくっても居合わせたいと思うはずだ。両サイドに長年の親友を従えながら颯爽と風を切る直子。それはさながら、助さん・角さんを引き連れた水戸のご老公のごとき晴れ姿であった。
 
13時前にスタジオに通された三人娘は、すでに百田・妃菜・小町・暁子の他、お笑い芸人たちまでが勢ぞろいしているのを目撃した。否応なしに、直子の心臓がバクバクする。素子と美子も同様なのだろう。道中あれだけ賑やかだったのがウソのように、緊張と興奮で声が出ない。心なしか顔色もさえない。
 
かろうじて周囲を見回すと、おそらく直子と同じ立場であろう人たちが集っていた。思っていたよりも年齢層は若く、もしかすると自分たちが最年長ではないかと直子は思うのだった。次の瞬間、客席の左端のほうから、オ~ッという歓声が上がった。何事かと目をやれば、なんと、百田寿郎と鶴田妃菜が観覧者に対して挨拶をして回っているではないか。意識が遠のきそうになる中で、直子は助さん・角さんに支えられながら白昼夢を見ているような気がしていた。
 
「本日はお忙しい時期にお運びくださいまして、本当にありがとうございます。最後までゆっくり楽しんでいらしてください」 
 
「ようこそおいでくださいましたぁ。みなさんのおかげでたっくさんの”かかりた医”候補が集まりましたぁ。大賞が誰になるのか、審査員になったおつもりでご覧になっていってくださいネ。どうぞよろしくお願いしま~すっ」
 
幻聴と幻覚のような世界で、あこがれの百田寿郎とアシスタントの鶴田妃菜ちゃんに、直子は命を削りながら応えるのだった。
 
「い・い・いつも楽しく拝見しておりますぅ。三鷹から参りました世尾直子でございますぅ。お招きくださいまして、本当に感謝しておりますぅ。一生の思い出になりました。ありがとうございますぅ。こ・こ・この通りですぅ」
 
 
一時間後、どうにか現実世界に戻ってきた直子は、こんなやりとりをしたはずだ……と思い返していた。が、本当のところは誰にもわからない。というのも、直子を支えていたはずの素子と美子もまた、普通の状態を維持していることができなかったからである。
 
 
かくして、18時からのナマ配信前に、『究極のかかりつけ医』の最終候補10名を3名に絞る準決勝審査がはじまった。10人のドクターそれぞれについての「応募者から送付された品定めシート」・「百田・妃菜・小町・暁子による予選での採点表」、そして、応募者が記載した「推薦する医者のイチ押しコメント」。これらが、出演者全員に配られていた。
 
準決勝審査では、10名の候補それぞれについて、例の4人のうちの誰かが推薦メッセージを発表することになっていた。直子がエントリーした勝田永太郎は、8番目に鶴田妃菜によって紹介された。そこでは、応募者である世尾直子の名前も読みあげられ、客席に向かって「いらっしゃいましたら、こちらに向かって大きく手を振っていただけますかぁ~」。
 
三人娘はその場で立ち上がり、ステージに向かって呼応するのであった。
 
三人娘にしてみれば、もう何が何だかわからぬままに舞台は進行し、百田寿郎のダンディな声が、決勝進出の3人のドクターを発表する瞬間が訪れた。
 
またしても心臓が破裂しそうになりながら、直子は確かに聞いたのだった……。
 
「最終選考に進出する3人のうち、おふたりめは、井之頭全人医療クリニックの勝田永太郎医師です」
 
同時に中央の大スクリーンに、勝田の姿が映し出された。直子の脳裏に、井之頭全人医療クリニックを訪れた時の遠い記憶が甦る。
 
よかった。救われた。ムダじゃなかった。こんな私でも、生きてていいのよねぇ。本当に良かった……。
 
直子には、それ以降の記憶がない。正気に戻った時、直子は見知らぬ若い女性に付き添われながら、鏡の前に座っている。TPOによっては、その言動は、もの忘れ外来の診察室のようですらあった。
 
「あらぁ。ここはどこかしらぁ。ねぇ、ちょっと。ここはどこですか?あなたはぁ?」
 
メイク室になります。世尾様には18時からのナマ配信にご出演いただきますので、簡単ではありますが、メイクのほう、させていただきます。よろしくお願いしますぅ。
 
髪と頬をいじられながら、いつしか心地よい気分にひたりながら、つくづく思う。
 
ぜぇんぶ、すばらしい思い出だわ。生きてる証だわ。幸せ。本当に幸せだわ。寿郎さんっ!
 
「あっ。百田さんのこと、お好きなんですかぁ?」
 
突然現実に引き戻された直子は、慌てふためいて否定した。
 
「いえ。そんな、もったいない。滅相もございません」
 
「ええ~っ!世尾さん、おもしろいですねぇ~っ!」
 
「とんでもないですぅ。恐縮ですぅ・・・」
 
「恥ずかしがらないで、百田さんにサインしてもらったほうがいいですよ。握手も。あと、ツーショットも。百田さんなら、よろこんで応じてくださいますよ。すっごいファン想いの方ですからネ!」
 
あああ。とんでもないことをぬかしてしまった……
 
「はい。オッケーです。じゃ、ご案内しまぁ~す」
 
右も左もわからぬままに、気づけば直子は、舞台のひな壇前に座らされている。頭の中で、いつも自宅で番組を見ている時のレイアウトを思い出してみる。どうやらここは、ブレイク前のお笑い芸人たちが座っているひな壇の前だわね。いつもは華乃宮小町や観音寺暁子たち専門家が座ってるポジションの筈だけど……。

んんん。えっ! なんか中年のおじさんのその奥にいるのは観音寺暁子では? あっ!その向こうは華乃宮小町だっ! 小町がこっち向いて暁子と談笑してる…。ええ~っ! ってことはぁ…。
 
自分が置かれている状況をある程度把握した直子の世界が、グルグル回り出した……。(To be continued.)

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